第34話 18年って生まれる前ですわ!

パチ、パチン、ジュン


「んーまーっ まーっ まーっ まーっ♪」


楽しげな鼻歌が聞こえてくるなか、パタパタと扇子を仰ぎ箸でその身をひっくり返す、溶け出した脂が炭に落ちて小さく煙を上げる。


「秋にはやっぱり秋刀魚ですわ!ねえ、戸田」


「お嬢様、やっぱり今年も焼くんですね、また庭師の伊藤さんにバラに臭いがつくって怒られますよ、後、その高そうなレースの扇子で仰ぐのはおやめください」


「う〜ん、七輪だとどうしても煙が出るからお部屋じゃ使えないんですのよね」


「料理長に焼いてもらうんじゃ駄目なんですか?」


「えっ?焼き立てが美味しいんですのよ、すぐに食べれるように今年はすだちもこうして用意してるんですわ」


「いえ、もうお嬢様に言っても無駄なのはわかってるんです」


エリカの返事に戸田は手を額に当ててため息をついた。


「大丈夫!戸田の分もちゃ〜んと焼いてますから共犯ですわ」


「一応、悪いとは思ってるんですね」



パチ、パチン、ジュワ


「ふふふ、この脂が焼ける香りたまりませんわ!」


「確かに秋の風物詩ですね、まぁ最近は高くて買えませんけど」


2023年サンマの初競りでは1匹28,000円とビックリするような高値が付いた、販売価格は仕入れ値よりは安い5,378円だったが、かつては庶民の魚の代表格だったサンマも今や高級魚の仲間入りである。

サンマの旬である9~10月、この時期に親潮と黒潮がぶつかるエサが豊富な三陸沖でサンマはまるまる太ることが出来る、青森、岩手、宮城の漁師の皆さんには是非とも頑張ってほしい。年々減少を続ける漁獲量だけに高値になるのはいたしかない事が、スーパーで1匹78円で売られていた時代を知る者には、頭の切り替えが必要だ。



「私(わたくし)はスーパーで1匹500円になるまでは絶対に食べ続けますわ」


「それ、家のお父さんがお医者さんに禁煙薦められた時に良く同じようなこと言ってましたよ、結局1箱550円になってもやめませんでしたけど」


「くっ、これも秋刀魚が獲れなくなったのが原因ですわ」


2008年には34万3225トンあった水揚げ量も2022年にはわずか1万7910トン、海水温の上昇、エサの動物プランクトンの減少、乱獲とさまざまな原因が言われているがサンマが減っているという事実はどうしようもない、ないものはないのだ。


目黒の殿様もさぞかしお怒りだろう。


日本では近年サンマだけではなく海産物の漁獲量が全体的に減少している、これも過去の乱獲や気候変動が原因のようだがサンマ、スルメイカ、イワシなど大量に獲れていたものが食卓に上がりづらくなっているのは寂しいものだ。やはり日本酒には海の幸がよく合うのだから。


「異次元の少子化対策はサンマにこそ必要なのですわ!」


拳を強く握り締め秋空に高く突き上げるエリカ。日本の総理も無駄な事に力を入れてないで国民が普通に食卓を楽しめる政策を進めれば支持率も鰻登りだろうに。




そして、その光景を薔薇の茂みから鋭く睨む、1匹のサバトラ柄の猫が潜んでることを二人はまだ気づいていない。






「さぁ、良い具合に焼けましたわ!」


七輪の上でパチパチと音を立てる2匹の秋刀魚、焼き目がついた皮が実に香ばしい。

実にパーフェクト、七輪をここまで見事に使いこなすご令嬢は世界広しと言えどもエリカぐらいなものだろう。


ニャニャニャ!ガプッ


「あぁ!戸田の秋刀魚がニャンコさんに!」


「え、私のなんですかアレ?」


「お魚咥えたドラ猫なんて今時サザエさんでしかお目に書かれませんわ」









その日の夜、TVで道頓堀に飛び込む若者を見ながらエリカが呟く。


「出遅れましたわ!戸田アレを用意なさい!」


「アレですね、わかりました!」


「ふふ、阪神タイガースが18年ぶりに優勝ですわ、当然ですけど色々な優勝セールが行われますわ!」


18年ぶりのセントラル・リーグ優勝

実はオリックス・バファローズもパシフィック・リーグで優勝している、こちらも大阪を拠点としているので期待されている、まぁ2022年にもオリックス・バファローズは日本一になっているのだが、話題性としてはやはり大阪は阪神タイガースが優勝した方が俄然盛り上がるから不思議だ。頑張ろう神戸をスローガンにしていたオリックスブルーウェーブの仰木監督も浮かばれない。


エリカはパインアメを舐めながら、食べ歩きの計画を立てる。

阪神優勝は大阪の街全体、当然だが飲食系でも様々な値引きセールが行われる、そんなセールをエリカが見逃すわけがない。

阪神優勝の経済効果は3月に行われ日本中が熱狂したWBCより大きい、まだクライマックスシリースや日本シリーズも控えている、これで日本一にでもなったら大阪は一体どうなってしまうのだろう。


「飛び込みを禁止出来ないなら、いっそ道頓堀に巨大な浄水器を取り付けて綺麗にしてしまえばいいんじゃありません?」


TVに向かって言い放つエリカ、確かに綺麗な道頓堀ならさぞ飛び込む人が増えるだろう、エリカなら本当にやりそうで怖い。



なんにせよ阪神タイガースの18年ぶりのリーグ優勝、おめでとうございます。

ついでにオリックス・バファローズもおめでとう!

今、大阪が熱いぜ!





ところでエリカが戸田に用意させたアレとは………?

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