第30話 肥満体型にはご注意ですわ!

エリカお嬢様は同じ間違いを繰り返さない、ウィリアム王子を避けるため本日は新世界ではなく兵庫県JR新長田駅に来ていた。

駅の南側には大きな公園がある、この一帯は1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災で壊滅的な被害があった場所でもある、当時はニュース番組で流れた、まるで戦争があったかのような映像には大きな衝撃を受けたものである、あれから28年経ち今ではかなり復興して活気を取り戻しつつある。

その復興のシンボルとして若松公園には地元神戸の出身である漫画家、横山光輝氏の作品「鉄人28号」の全長18mの巨大モニュメントがドドーンと力強くかっちょ良いポーズをとっている。

近くには鉄人三国志ギャラリーもあり、街には所々に三国志の武将の像が立っている、横山光輝ファンにとってはまさに聖地とも言え、作者も是非行って見たい場所の一つだ。


駅を出てすぐの新長田一番街商店街、そのアーケード通りを一人歩くエリカお嬢様、今日の格好は黒のストッキングが映えるミニスカートにファーの付いた腰丈のラメの入った白いブルゾン。少し色の入った伊達眼鏡がアクセントだ。実にゴージャス感溢れるギャルにも見える。


コツコツコツ、ピタッ


「あ、孫権そんけん。でもってイマイチ地味なのよね」


いきなり地球上の3分の1の人間に喧嘩を売るエリカお嬢様、には孫策そんさく黄忠こうちゅう周瑜しゅうゆなんかもいてですね、そんな地味な事は…。





アーケードの出口付近にお持ち帰りのお好み焼きやたい焼き、太鼓まんじゅう(大判焼きとも今川焼きとも言われる)を売る粉物屋「いろは」がある。エリカはその店にフラリと足を向けた。

店先にはちょうどチンチンと音を立てる太鼓まんじゅうの鉄板に、生地を流し込もうとしている店主がいた。


「叔父様、太鼓まんじゅうのつぶあん10個くださいな」


「お、お嬢ちゃん久しぶりだね、相変わらず豪華な髪型してるわ」


エリカはそのインパクトのある縦ロールの髪型のせいで結構人に覚えられやすいのだ。


「あら、ありがとう。でも毎朝セットするのが大変なんですの」


クルクルと指に髪を絡めながら、照れた様に微笑む。たぶん店主が言ったのは違う意味だぞ。


「ハハ…」




見惚れるような鮮やかな手つきできつね色に焼けたまんじゅうを返して行く店主、エリカはワクワクとそれを眺めていた。


「はいよ!太鼓まんのつぶあん10個お待ち!」


「ありがとうですわ!」


ホクホクの笑顔でアーケードを歩くエリカ、太鼓まんじゅうは最近ではカスタードが人気なのだが、エリカは断然つぶあん派だ、カスタードクリームが食べたければクリームパンやシュークリームでも食べればいいと考えている。


「クリームがなければ餡子を食べればよろしいのですわ」


いや、あったかい生地にカスタードとの相性が良いのであってですね。

ちなみに作者の奥さんはカスタード派だ、たい焼きも大判焼きも餡子は絶対に食べない、餡子の方が美味しいのに。


アーケードを出れば目に鮮やかな青いボディの鉄人28号がガオーッ!と出迎えてくれる(実際には鳴きません)、エリカは公園のベンチに座ると胸に抱えた紙袋をガサゴソと開く、途端に甘い香りが漂う、深呼吸するようにその香りを胸に吸い込んだ。


「はぁ~、この優しく甘い香り、たまりませんわ」


パクッ


表面はまだカリッとしている、けれどその奥にはしっとりと柔らかな熱々の生地に、シャクリとした歯応えのつぶあん、その美味しさに思わず顔がニヤける。


「美味しいですわ!」


その笑顔に見惚れていたサラリーマンが段差に気付かずコケそうになった。


公園には休日だけに子供連れの親子が沢山来ていて賑やかだ、だがエリカの座るベンチには決して近づいてこない、目に見えないバリアが張ってあるかのようだ、ひとりでベンチに座っているがなぜかボッチには見えないのがエリカの特技だ、公園の隣には中学校もあるし飲食店も多い地区のため学生も大勢いるが、皆遠巻きにヒソヒソと何か話している。この辺りは新世界の住人とは違うのだう。


「うわっ、なにあの人、モデルみたいに綺麗」

「待ち合わせ中?話しかけたら失礼かな」

「脚長っ!そして何故縦ロール!コスプレか!」

「なんであんな美人が鉄人見ながら、モグモグと太鼓まんじゅう食べてるのよ?しかも色っぽく」

「お母さん、あのお姉ty…」

「しっ、見ちゃいけません!」


そんな騒がしいギャラリー達をよそに、黙々と太鼓まんじゅうを頬張るエリカ、温かいものは温かいうちに食べる主義なのだ。

もぐもぐと太鼓まんじゅうを頬張りながら鉄人をジッと見つめた。


「鉄人って結構おデブですわ」


ファンが集う聖地でボソリと物騒な事を呟く。


「あんなおデブさんがパートナーって大作くん、いやそれはジャイアントロボでしたわね、ええっと、正太郎くんが可哀想ですわ」


いや、お前が好きなブラックオックスだって言うほどスマートじゃないぞ、すぐに金田博士に謝れ。




「さて」


太鼓まんじゅう10個をペロリと全部食べたエリカはパンパンとスカートを払いながらベンチから立ち上がる、それを見ていたギャラリーが一瞬ビクッとした。


「さ〜て、メインの神戸牛を食べにいきますわよ!」


その目にはすでに情熱の炎が宿っている、目指すはA5ランクのサーロイン、エリカはステーキ店を探す旅に出た。お前食ってばっかりやな!

(ちなみに神戸牛と言う牛はいません、但馬牛で基準を満たしたお肉が神戸牛と呼ばれます)



もう一度言いますわ、鉄人はおデブですわ!ブラックオックスの方がカッコいいですわ!

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