第23話 元祖とか本家とかどうでもいいですわ!

今日の朝食はイタリアの定番、カプチーノにコルネット(甘いクロワッサン)、それとドルチェに苺とブルーベリーをのせたフルーツタルトを選ぶ、ティラミスと迷ったが今日はタルトの気分、う~ん甘酸っぱくて美味しいですわ!

それにしてもイタリアの方は朝からこんな甘い物を食べて胃もたれしないのかしら?もちろん私はそんなやわな胃袋は持ち合わせておりませんけど。



ランチにはカルボナーラにミネストローネ、そうかフレンチの後はやっぱりイタリアンにはまってしまいましたわね料理長。実にわかりやすいですわ。それにしてもカルボナーラってイタリアでは釜玉うどんの感覚で食べられてる気がしますわね。チュルリ

ペロリと食べてしまったわたくしを見た料理長がカファレルのジャンドゥーヤをそっと渡して来る、カファレルはこの形が摘みやすくて食べやすいですわ、ヘーゼルナッツの香りが実に香ばしい。気分はイタリアのトリノですわね。





パタパタパタ


テラスで七輪を持ち出して団扇うちわあおげば、香ばしい香りが秋風に流れて行く。この世の中には口が寂しいと言う言葉がありますわ、時は残酷に食べた物を消化していく、この季節は余計に食欲が湧いていけませんわね。


「はぁ、冬も近いですわねぇ」


そんなわたくしの後ろに人が立つ気配が。


「お嬢様、モツ、秋刀魚と来て今度はスルメですか」


戸田が腰に手をあてて呆れたように口元をヒクヒクさせていた。だけどその言葉は訂正してあげなくてはいけないですわね。


「あら、違いますわ。イカの一夜干しですわ」


「ごまかされませんよ、どう見てもスルメイカじゃないですか」


この娘はまったくもって勉強不足ですわ。


「スルメは乾物、一夜干しは日陰干しの干物、別物で~す~」

「こんのヘリクツ者は…」


戸田が拳を握り締めワナワナしている、気が短いですわ、それに今日の私にはこのイカを食べていい、ちゃんとした大義名分があるのですわ。


「それにこのイカさんはお父様のニューヨーク土産ですから、娘として食べないわけにはいかないのですわ」

「それ絶対にアメリカ産じゃないでしょ、日本に帰ってきてから買ってますよ」

「銚子に寄ると言っていたのでわざわざ頼んだんですわ」

「銚子かよ!」


戸田が切れの良いツッコミを見せる。パチパチ


「金眼鯛の干物の方が良かったかしら?」


私の呟きに頭をかかえうずくまる戸田、ふっ、わたくしの勝ちですわ、出直していらっしゃい。


「オホホホ、焼いたイカとマヨ七味の相性は抜群ですわ」




ぐぬぬ…結局、お母様に叱られてしまいましたわ。戸田のバックにお母様がいるのはずるいですわ。

けど七輪で焼くと凄く美味しくなるんですけど、なんでわかっていただけないのかしら?

長々とお説教されていたらお腹がすいてしまいましたわ、寒い日には熱々のアレを食べにまいりましょう。



トゥラタタタァ~


50ccOHCエンジンが可愛い音を奏でる、愛車くまモン号で新淀川を渡り京阪国道を軽快に走らせる、今日の気分なら行き先はもう決まっている。

大阪駅の桜橋出口から徒歩1分、エリカはたこ焼きの会津家の店先にくまモン号を横付けする。


「お、縦ロールの嬢ちゃん久しぶりだな」

「叔父様、たこ焼きとラヂオ焼きを1皿づついただけます」

「はいよ、ちょいと待っとってな」


店主の叔父様が手際よく鉄板に油を引いて行く、たこ焼きの名はこの店の初代がつけたというお話ですが、私としては眉唾ものだと思っていますわ、名物には元祖だの本家だの乱立がつきものですもの、でもあの美味しんぼうの山岡さんの言う事ですからあながち…もし本当にそうなら西園寺の名にかけて国民栄誉賞に推薦いたしますわ。



「ほい、たことラヂオお待ち!」


店主の叔父様に渡された2皿のたこ焼きをじっと見つめる、ソースも青のりも削り節も無いシンプルさが潔い。まん丸なシュークリームが並んでいるようですわ!


「あいかわらず、美しいですわ!まるで宝石ですわ!」


たこ焼きでお持ち帰りは邪道、焼いたその場で食べるのがベスト。

くまモン号のシートに座り、綺麗に並んだ宝石の一つに楊枝を差し入れる、焼きたてのたこ焼きが熱さを主張してくるが、やけどが怖くてたこ焼きが食べられますか、一気に口に含む。


「あっふぅ!ハフ、アフ」


熱い熱い熱いですわ!


カツオ出汁の効いた醤油味の生地、ソースがかかってないのにこんなに美味しいのはお見事ですわ、特にこのすじコンニャクの入った元祖ラヂオ焼きはこのクニクニの食感がなんとも楽しい、元祖たこ焼き15個とラヂオ焼き12個?が次次と口の中に消えて行く。


「はふぅ。ふむ、たこ焼きの欠点はいくらでも食べれることですわね、特にここの店は少し小ぶりだからついつい食べてしまいますわ」


「お嬢ちゃん、あいかわらず良い食べっぷりだね、惚れ惚れするわ」

「でしたら、少しはおまけしてくれてもいいんじゃありません」

「だから5個もおまけしてるんじゃねえか」


「あら……そうなんですの、大変おいしゅうございましたわ、オホホ」


なんか買う度に数が多くなってるなぁと思ってましたが、もう、叔父様のあえて口に出さないそのさりげないサービス、惚れてしまいますわ。


店主としてはエリカは目立つ容姿のために覚えやすく、店先で美味しそうに食べてくれるので客寄せにもなる、結構WINWINNな関係なのだ。なにより店主は、エリカの品があるのにどこか気安い雰囲気が気にいっている。


「さて、ディナーにはまだ時間がありますわね、ついでにとん平で焼きそばでも食べて行こうかしら」


そう呟くとくまモン号のエンジンをパルンとかけ、梅田の街を走り去って行くのだった。






トタタタタ


満足感に満たされたエリカが家路を走る、どうにもエリカの休日は1日中食べてばかりな気がする、それでいて体型は変わらないのだから、ダイエットに苦しむ女性達にとっては理不尽極まりない存在と言える。



「ちょっと、遅くなりましたわ、ディナーになってしまいますわ!」


そう言えば料理長がランチの後、旬にじゃ少し早いが白トリュフの良い物が入ったと言っていました、それに厨房に手長エビや魚介類も置かれていたのもチェック済みですわ、久しぶりにアッラ・スコリエーラが食べられるかもしれませんわね。ジュルリ

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