第22話 神と言えばあの方ですわ!

王子部のウィリアムズに部長会議のプリントを渡しに部室を訪ねた。


コンコンコン


どうせまだイギリスから帰ってきていないだろうと思って訪ねたのですが、なぜかウィリアムズ王子が手ぐすね引いて待っていた、またイギリスに帰ればいいですわ、相続問題はもういいんですの?

にしても、ここに来ると行った事はないですが、ホストクラブってたぶんこう言う場所なんだろうと思わせますわね、王子部は顔面偏差値が高すぎですわ、お部屋もお嬢様部も負けていませんが学校と言う学舎まなびやにはいささか派手なのではないでしょうか、デカいシャンデリアが落ちてきそうで怖い。オペラ座か。


「やあ、エリカ!この間はお婆ちゃんの葬儀に来てくれてありがとう」


両手を拡げて笑顔で私を迎えるウィリアムズ、何でこの方はいつも私に対して満面の笑みなのかしら、まさにNo.1ホストですわ。


「いえ、お婆様には大変お世話になりましたから」


ウィリアムズ王子がニコニコとしながらソファーに座るように勧めてくる、そしてちゃっかり隣に腰を下ろす、こう言うところですわよウィリアムズ、貴方はフランス人か。


「そうそう、バッキンガムの衛兵がエリカがあまりにも可愛いから東洋の魔女って噂していたよ」


「魔女って褒め言葉なんですの?」


「ハハ、イギリスはまだまだ魔法文化が根強いからね、魔女を崇拝する者もいるんだよ、でも僕はエリカの魔法だったらかけられても良いな」


ウィリアムズが顔を近づけてきて耳元で囁く、だからこう言うところですわよウィリアムズ。近い近い近い。


「あら、実は西園寺家は陰陽師のような方々にも顔がききますのよ」


「ワォ、ジャパニーズエクソシスト!」


なんですのそのわざとらしいリアクションは。


「それはなんかニュアンスが違う気がしますわ」


「でも流石は西園寺家だね、そんな裏の世界にも手を伸ばしているんだ」


裏社会?なにを言っているんですの、この馬鹿王子は。我が西園寺グループはどこに出しても恥ずかしくない超優良なホワイト企業です。そりゃ、利益を出すためならお父様は何でもやりますが。…何でも、あれ?


「こら、ウィリアムズ部室で堂々と西園寺さんを口説くな!」


「良いじゃないか英治、硬い事言うなよ」


部員の児島様がたしなめるもウィリアムズ王子はまるで気にする様子がない、もっと強く言ってくださいまし。このタイミングで執事のジャックが私の前にコーヒーカップを静かに置く。


「あら、ありがとう」


一口、甘いミルクたっぷりなのにしっかりと珈琲の味もする、女性向きのバランス、流石はジャックですわ。


「カフェ・オレ美味しいですわ」ニコッ


「ありがとうございます、エリカお嬢様」


続いてジャックが運んできたお皿に目の前で火をつける、ボワッと青い炎が立ち上る、クレープシュゼットはグランマルニエの香りがカラメルソースに付いて美味しい、添えられたラズベリーも程よい酸味が良いアクセントになるのだ。ジュルリ


本当に有能ですわねイギリス人なのにフレンチまでこんなにも手際良く、家に凄く欲しいですわ、ポンコツ王子にクビにされないかしら、そしたらすぐに私が雇うのに。


「ご馳走様、とても美味しかったですわ」




「エリカ、今度は僕がお嬢様部にお伺いするよ」


私共わたくしどもの部室は男子禁制ですわ」


「えぇ~っ!いつから!」


「今からですわ」


「う~ん、それじゃお代官さま、こちらをお納めください」


ウィリアムズが後ろ手でジェイクから渡された木箱を私に差し出す。ん?


「なっ!私が気になってた山元山の海苔煎餅!」


ぐぬぬ、勝ち誇ったように口角を上げるウィリアムズ、この男いつのまにこんな技を覚えたのかしら、ちょこざいな。


「くっ、どうしても来たければ来ればいいですわ、それともお主も悪よの~って言えば満足ですの」


「あっ、負けた」


「負けてませんわ!!」


海苔煎餅の木箱を胸に大事に抱えつつ児島様をギッと睨む。





ふう、心が弱っていると、この手の誘惑に負けてしまいそうになるのですわ(負けてるけどな)、こんな時は神頼みですわ!






新今宮駅の改札でICOCAをかざす、堺筋を通り今日の目的地である新世界を目指す。


今や新世界と言えば串かつと言われるほどに多くの店が軒を連ねている、ソースの甘い香りで仕事帰りのサラリーマンを誘惑するのだ、いつものエリカならホイホイ寄って行く所だが今はまだ腹の中に先ほど食べたクレープシュゼットが「まだ、大丈夫!」と主張しているので我慢出来た、エリカはやれば出来る子なのだ。

ここにはもう何回も訪れているが、好奇心旺盛な大阪人にとって、いかにもお嬢様なエリカはいつも注目の的だ、だが幼少の頃からこの手の注目の視線に慣れきっているエリカは自然体で堺筋を風を切って歩いて行く。


「大坂で神と言ったら、やはりここですわ」


目の前にそびえ立つ鉄の塔を腰に手をあて見上げる。


タラタッタ~♪


「通天閣の日立のマークを見るといつも頭の中で世界ふしぎ発見!の音楽が流れるんですよね、ミステリーハンターの竹内 海南江たけうち かなえさんはもう行ったことがない国なんてないんじゃないかしら」


私も老後は色々な国を回って、色々な美味しい物を食べてみたいものですわ、あっ、この前イギリスでフィッシュ&チップス食べるの忘れていましたわ、わたくしとしたことが。でもあれって店によって当たり外れが大きいから難しいんですよね。


「まぁ、いいですわ、後でどて焼きでも食べるとしましょう」


エリカはそう呟くと入場料800円を払って中に入って行く。

この通天閣、実は2代目 (1956年)なのだ、初代は昭和18年火災で壊れた後戦時下の鉄材供出の為に解体されている、現在の通天閣は100mの高さを誇りまさに新世界のシンボルとしてそびえ立っている、因みに登録有形文化財で、公式キャラクターはビリケンだ。大阪万博で有名な岡本太郎氏の太陽の塔 (高さ70m)も2020年に登録有形文化財に登録されている、もう2つとも国宝にしてしまえば良いのに。


ウィィィィン


日立製作所のエレベーターに乗り込む、いつ見てもビリケン座は意味がわかりませんわ。

5階の展望台 (87.5m)には金ピカな神殿が作られおり現在3代目のビリケンさんが置かれている、あべのハルカスを視界に収められ実に気分が良い、ふふっ、人がまるでゴミのようですわ。


「では」


私は神々しい?ビリケンさんの足裏をスリスリと撫でる、足の裏をかいて笑えば願いがかなうらしい。これくすぐっちゃえば笑ってくださるんじゃないかしら?

皆に愛された2代目ビリケンさんの足の裏は触られ過ぎて4cmもすり減っていたらしい。


通天閣公式キャラクターのビリケンさんだが、実はアメリカ出身なのだ1908年にフローレンス・プレッツと言う美術教師 (イラストレーター)によってデザインされたものだ。

アラスカやロシアでは伝統工芸品やお守りにもなっている、それがなぜか通天閣に祀られているかはよく知らないが、大阪人は細かい事は気にしないので今に至る。


「お詣りもすみましたし帰りますか」



途中タワースライダーは気になりましたけどエレベーターで下まで降りる、すっかり陽が落ちた景色はネオンの光が煌めいてまるで異世界の雰囲気ですわ。


「さて、帰りはセバスを呼びますか。その前にどて焼きはどこで買おうかしら?」


歩き出すと西側脚部に坂田三吉の王将の碑が目に入る、坂田三吉と言ってもドカベンのキャラクターではないですわ。通天閣打法はただの大きいフライですわ。

見上げた塔の頂上のネオンは白、明日は晴れですわ(2022年7月でこのサービスは終了してますがこの作品では点いてます)


「あっ、せっかくだから地下のひよこちゃんshopで写真を撮らないといけないですわ!」


エリカは慌てて通天閣に踵を返した。



※大阪は見所満載ですわ、美味しいものもいっぱいで困りますわ。

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