第8話 大穴狙い?どうやっても当たってしまうんですわ!

「あぁ、いたいた。おっ、嬢ちゃん今日はもしかしてデートだったのか?」


「違いますわ!」


王子の買ってきた60点のどて焼きを食べているとハンチング帽を被った叔父様が私たちの所にやって来た、そしていきなり失礼な事を言い出したの即否定してあげた。

ウィリアムズ王子、目の前でムンク顔しないでくださる、ウププ、笑ってしまうじゃない。


「で、叔父様どうなさったの?」


「あぁ、悪いな、さっき第3レースの分を聞き忘れていてな、頼むよ嬢ちゃん」


「3つの数字でいいんですわよね、じゃあ5-6-4ですわ」


「えっ、外枠だけかい!う~ん、わかった、ありがとな!兄さんもデートの邪魔して悪かったな」


エリカが適当に数字を答えると叔父さんは笑顔で去って行った。


「エリカ、今の人は?」


「ブックメーカーの方ですわ、なぜかここに来るとよく数字を聞かれますの?」(いえ、だだの予想屋のおっちゃんです)


ちなみに今日の3レースは大荒れに荒れて結果20番人気で5-6-4の3連単、払戻金50万を超える超大穴で確定する、今日の予想屋源さんの的中率は神がかっていたと、とあるギャンブラーは震える手で舟券を握りしめて冷や汗を出しながら語る。


パクパク


テーブルの上の食べ物が無くなればもうこの場に用はない、最後にしっかりと王子の買ってきたフランクフルトを食べるとエリカは手を合わせ席を立つ。ウィリアムズ王子もエリカと一緒の食事(ランチ)?が出来て大満足だ。


「さて、わたくしはもうお家に帰りますけど、王子はどうなさいますの」


「えっ、もう帰っちゃうの?まだレースをやってるよ」


「は?あんなグルグル回ってるだけのレースが見たいんですの?」


エリカが全競艇ファンを敵に回した、そんな事言ったら競馬も競輪もグルグル回ってるだけだ!

あ、全部ギャンブルだ。いや、しかし、そのシンプルな中にこそロマンが……。


「いや、エリカがいない所に興味なんかないよ」


ウ、ウィリアムズ、お前もか……。



まだ歓声が聞こえるレース場を出て駅に向かうエリカにウィリアムズ王子が話しかける。


「そうだ、僕この後小室さんのパーティーに呼ばれてるから行くんだけど、エリカも一緒にどう?エスコートは僕がするからまかせてよ」


「小室家ぇ、遠慮いたしますわ、あの方の家は御当主がケチだから、お料理が美味しくありませんわよ」


「えっ、そうなの?」


「ええ、それに比べて吉祥院様のパーティーはそれはそれは美味しかったですわ」


「エリカのパーティーの感想って美味しいなんだ……」


「じゃあエリカの家まで送るよ」


わたくしは電車に乗って帰りますけど、王子は電車賃あります?」


「えっ、電車ってお金がかかるの?」


「はぁ~、これだから生粋の王子様は。ちょっと待ってくださいまし」


そう言うと、小さな宝くじ売り場にツカツカと向かうエリカ、ウィリアムズ王子はエリカが何をするのかわからず首を傾げていた。

カウンター窓口から売子のおばちゃんに声を掛ける。


「スクラッチくじを1枚いただけるかしら」


「あら、エリカちゃんじゃない、お久しぶりね。何、お財布落としちゃったの?」


エリカは非常に目立つので1度会えば大抵の者に忘れられる事はない、売り場のおばちゃんも色々な意味でしっかりと覚えていた。前回はロト6でいきなり1等4億円を当てて、それなのにうどん代を払うだけだから5等の1,000円だけでいいとごねたのだ。(※実際のロトはその場で当選番号はわかりません)


「いえ、今日はこの王子が無一文なのでお貸しするだけですわ」


おばちゃんが窓口から乗り出してウィリアムズ王子の顔を覗き込む。


「あら、イケメンな男の子ね。でも駄目よ、エリカちゃんみたいなお嬢様が男に貢いじゃ、男が堕落しちゃうわ」


「貸すだけだから大丈夫ですわ、でも、そうね、じゃあ4等の1万円でいいわ」


ガサゴソ


「さぁ、どれにする?」


おばちゃんがトランプのババ抜きのようにスクラッチカードを5枚手に広げながら持って見せてくる。


「じゃあ、これでいいですわ」


エリカは一瞬も迷う事なく真ん中のカードを手にすると、おばちゃんに渡されたコインで手際良くカードを削りだした。

このスクラッチカードは全部削って出た数字の合計で当選金額が変わる、1等は18点で1,500万円だがエリカは王子に貸すお金がすぐ欲しいだけなので4等12点狙いだ。当然だが狙って取れるわけでは無いし、当選確率は4等ですら1/500だ。(1等は1/500000)


カリカリカリ


「はい、18点で1万円!叔母様、換金お願いしますわ」


「はぁ~あいかわらず簡単に出すわねぇ、透けて見えてるの?」


「別に?」


それをキラキラした目で見ていたウィリアムズ王子が自分もやりたいと言い出した。

おばちゃんから渡された1万円で1枚スクラッチカードを1枚買う。


カリカリカリ


「あ、てるてる坊主」


「あぁ、6等300円ね。良かったねイケメンのお兄ちゃん、元は取れたじゃないか」


あまりに簡単に当たりを引くエリカにちょっと落ち込むウィリアムズ王子。おまえらもうそこどけ!まわりの人々が皆お前らを見て人だかりが出来ているぞ。


プゥアン!!


そこにタイミング良く白のジャガーXFがクラクションを鳴らしてくる、密かに護衛していたMI6から連絡を受けたジャックがお迎えに来た。王子は最初からお迎えを呼ぶべきだ。


「ウィリアムズ王子、エリカお嬢様、お迎えにあがりました」


車から降りて来たジャックが二人に深々とお辞儀する、王子は左手の平を右手でポンと叩いた。ジャックの存在をすっかり忘れていたらしい。


「あら、ありがとう。では自宅まで送ってくださる」


「はい、エリカお嬢様、承知いたしました」


開けられた後部ドアにサッと乗り込むエリカ、柔らかなトーラスレザーのシートが身体を包み込む、笑みを浮かべてるが多分電車賃浮いてラッキーとか思っているのだろう、この場面で遠慮するようなやわなご令嬢ではないのだ。

ウィリアムズ王子はと言えば思いがけずにドライブデートまで出来てニコニコだ。親指を突き立てててジャックにグッジョブとジェスチャーで伝えていた。


ブゥアアアア~


残された観客?はその光景をポカーンと見送るのだった。

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