第56話 呪い、怨念

 五人の俺オレンジャーズは、絶対的な存在と思われた巨大兵器ロボギアナギア完全体を消滅させた。五人の俺オレンジャーズは奮闘した。


「やりましたね、さすがです。俺グリーンさん」

「大役、お疲れ様です。俺グリーンさん」

「さっきはお前とか言ってすみません。俺グリーンさん」

「身体は大丈夫ですか。俺グリーンさん」


 四人の俺赤、黒、黄、桃が、すっかりいつも通りのテンションに戻っている。

 先ほどのテンションは照れ臭いというか疲れるので、俺もいつも通りのテンションの方が落ち着く。

 この辺の阿吽の呼吸は、さすが全員、俺といったところだろう。


 そんなことより問題は、ラスボスの二人の分身幹部ドローレアだ。

 俺が慌てて様子を確認すると、エルフィンドールズと二人の分身幹部ドローレアは、まだ戦っていた。

 その様子を見て、俺は思った。


 うわぁ、なにアレ?

 あの黒っぽい二人がドローレアかな?

 黒い大きな羽根が出てるんですけど?

 黒と紫色が入り混じったオーラみたいなのが気持ち悪いんですけど?


 あの白銀に輝いているのがエステラちゃんかな?

 とすると、隣にいるのがナタリアちゃんか。

 ナタリアちゃんは黒っぽいオーラを出したり、白銀に輝いたりしないんだ、それが普通だよね。


 遠方のため分かりずらいが、エルフィンドールズが押しているように見える。

 さすが白銀バージョンのエステラちゃん、恐ろしく強い。


 ただ相手は幹部だ、油断はできない。

 すでに全力を出し切ってヘロヘロではあるが、俺も遠くから見ている場合ではないだろう。


 五人の俺オレンジャーズは、エルフィンドールズと二人の分身幹部ドローレアが戦っている場所へと急ぐ。

 だが俺の心配をよそに、五人の俺オレンジャーズが到着したときには、二人の分身幹部ドローレアは二人とも揃って膝をつき、エルフィンドールズがその姿を見下ろしていた。


 二人の分身幹部ドローレアは、すっかりボロボロになりグッタリしている。

 黒っぽいオーラも消えて、まともに動くことすら困難そうだ。


 エステラちゃんとナタリアちゃんは、二人の分身幹部ドローレアと同じ惑星の人だし、攻撃を躊躇してしまうのではないかと心配していたが、それは気鬱だった。


 オレンジャーズが到着するのと同時に、ホワイトシュシュちゃんや対怪人SATの皆さんが、パープルメタリックの怪人の残党を倒し終わって、続々と近辺へ集まってきた。


 これなら二人の分身幹部ドローレアも観念するしかないだろう。


「ドローレア、もう降参して、星幽結社エルリンケイムに関わるのをやめなさい!」


 エステラちゃんが二人の分身幹部ドローレアへ勧告する。

 しかし、二人の分身幹部ドローレアは苦しい状況にも関わらず、強気の姿勢を崩さない。


「ふんっ、殺すなら殺してみなさいよ」

「人殺しの子は、やっぱり人殺しね」


「知らないでしょうけど、私はアデリナに殺されて二分割されたのよ」

「またその子供に二人とも殺されるのね。人殺し母娘がッ!」


「偉大なアストラル体なのに、お前たち母娘のせいで」

「分割されるほど強大なアストラル体だというのに」


 瀕死の状態にも関わらず、二人の分身幹部ドローレアは捲し立てる。


「……」


 エステラちゃんが押し黙ってしまった。

 俺はエステラちゃんに声をかける。


「エステラちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫ですよ。私、きちんとドローレアを倒しますから。そのためにここにいるんです」


 大丈夫と言ってはいるが、無理をしているように見える。

 本来、エステラちゃんとナタリアちゃんは、二人とも心優しい少女だ。二人の分身幹部ドローレアの発言は困るだろう。


 エステラちゃんもナタリアちゃんも十分に頑張ってくれた。

 ここからは五人の俺オレンジャーズの出番だ。

 それに俺は、二人の分身幹部ドローレアの発言を聞いて、ひとつ言いたいことができた。


「ドローレア、お前は殺されて二分割されたことを嘆いているようだが、俺は殺された上に五分割されている」


 二人の分身幹部ドローレアが二分割をアピールしているので、俺は五分割をアピールしてみた。


「はぁ? 五分割!? 嘘を言うなッ! 下等種のくせに!」

「この私ですら二分割なのに、下等種ごときがそんなはずはない!」


 俺が思った以上に、二人の分身幹部ドローレアが動揺している。


「嘘ではない、俺は五分割されてここにいる。俺が五人揃って分身戦隊オレンジャーズだ」


 二人の分身幹部ドローレアは、五人の俺オレンジャーズをまじまじと見て、確認している。

 そして、どうやら五人の俺オレンジャーズのアストラルパワーが同じだと感じ、真実だと分かったようだ。


「ま、まさか本当に……」

「下等種のくせに、なぜ……」


 二人の分身幹部ドローレアが悔しがっている。

 まさか分割された人数の多さで、マウントを取れる日が来るとは思わなかった。


 二人の分身幹部ドローレアが地球に現れて、実際にこの目で見てから二人の分身幹部ドローレアを、それほどの脅威と感じてはいなかった。

 二分割と五分割という格の違いを感じ取っていたのかもしれない。

 実際に巨大兵器ロボギアナギア完全体と二人の分身幹部ドローレアの戦闘力を比べれば、分身幹部ドローレアの戦闘力は数段落ちる。


 俺は最後に宣言する。


「地球の平和は分身戦隊オレンジャーズが守る。ドローレア、お前たちにどんな事情があろうが、地球から手を引かないのであれば、オレンジャーズがお前たちを倒す」


 二人の分身幹部ドローレアは、どうするだろうか。

 俺の宣告を聞き、青紫色の髪をしたドローレアがキレた。


「な、生意気なことを! 下等種ごときがッッ!」


 やはり地球から手を引く気はなさそうだ。

 続いて、赤紫色の髪をしたドローレアが何やら怪しげな発言をする。


「こうなったらラゾワール博士が作った最新の秘薬よ」


 ん!? 最新の秘薬!?

 それが何だかは分からないが、とりあえずヤバそうだ。

 二人の分身幹部ドローレアが何をするにしろ、とりあえず阻止した方がいいだろう。

 五人の俺オレンジャーズは、すぐさま二人の分身幹部ドローレアに、容赦なく渾身の腹パンをお見舞いした。


 二人の分身幹部ドローレアが悶絶している。悶絶してはいるのだが、その理由は腹パンの影響ではなさそうだ。

 二人の分身幹部ドローレアは腹パンを受ける直前に、何やら怪しげなカプセルを飲み込んでいた。


 二人の俺オレンジャーズは、すぐに追撃しようと思ったが、全員が揃って躊躇してしまう。なぜなら二人の分身幹部ドローレアがどろどろと溶け出しているからだ。


 戸惑っている五人の俺オレンジャーズやエルフィンドールズの目の前で、どろどろと溶けていく二人の分身幹部ドローレア。

 二人の分身幹部ドローレアは、その肉体が溶け切ったあと、融合して一人になった。


 いや、一人と言って良いのだろうか。

 身体の半分ほどは粘液化したまま、四つある眼球の全てが白目をむき、すでに人とは思えない容姿であった。ドローレアの意識があるのかどうかも分からない。

 ひたすら同じことを、ぶつぶつと呟いている。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」


 一体、これはなんだ?

 俺には二人の分身幹部ドローレアがどうなったのか分からない。


 すでにこの存在は、二人の分身幹部ドローレアではない別の何かだ。

 エステラちゃん母娘や五人の俺オレンジャーズへの呪い、怨念そのものとでも言えるだろうか。


 二人の分身幹部ドローレアは、エステラちゃん母娘や五人の俺オレンジャーズへの怨念と殺意の集合体、得体の知れない何かとなった。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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