第55話 皆殺しになんか絶対させない

 青紫色の髪をしたドローレア、赤紫色の髪をしたドローレア。

 私は二人の分身幹部ドローレアと対峙する。


 私の隣にはナタリアちゃん。

 私とナタリアちゃん、二人揃って、エルフィンドールズ。


 私たちから少し離れたところでは、巨大兵器ロボギアナギア完全体とオレンジャーズさんが戦っている。

 巨大兵器ロボギアナギア完全体は、とても強い。信じられないほど強かった。

 だけど、私はオレンジャーズさんの強さを信じている。

 オレンジャーズさんなら、きっと巨大兵器ロボギアナギア完全体を倒してくれる。


 だから、私は安心して二人の分身幹部ドローレアと戦える。

 私は二人の分身幹部ドローレアを倒すんだ。


 私が二人の分身幹部ドローレアを睨みつけると、二人の分身幹部ドローレアが代わる代わる口を開く。


「あら、なにその目は? 生意気に」

「ほんと気に入らない目をしているわねぇ」


「ますます殺したくなるわね。もともと最高に殺したいけど」

「死ぬ前に何か言いたいことはある? まあ、あっても言わなくていいし、すぐ殺すけど」


「あなたが死んだと知ったアデリナの顔を見たいわぁ。楽しみねぇ」

「その顔を堪能したあと、アデリナも殺すけど。楽しみねぇ」


 二人の分身幹部ドローレアは、揃って嫌なことを口にする。そうすることによって、力を増幅させているようだ。

 私が二人の分身幹部ドローレアの言葉を聞いてしまい、どす黒い嫌な気持ちに飲み込まれそうになった、そんなとき。


「エステラちゃん! ドローレアの話なんか聞かなくていいよ! 嫌なヤツだし!」


 私はナタリアちゃんの明るい声にハッとする。

 いつもの元気なナタリアちゃんの声で、私は気づく。


 そう、ナタリアちゃんの言う通りだ。

 二人の分身幹部ドローレアの発する嫌な言葉や気持ちに、私が飲み込まれる必要はない。


「そうだね、ナタリアちゃんの言う通りだね。ありがとう」

「うん、ナタリアなんて途中から聞いてなかったよ。さっさと倒しちゃおう。スイーツ踏み潰したり、嫌なヤツだし!」


「うん、そうだよね、ナタリアちゃん! 私たち、ドローレアになんか負けないもんね」


 私たちの会話を聞いて、二人の分身幹部ドローレアがぶちキレる。


「クソガキどもがぁぁぁぁッッ! さっさと倒すだとぉ? 舐めやがってッッ!」

「弱いくせにぃぃぃッッ! 負けないだとぉッ! ゴミカスがぁぁぁぁッッ!」


 二人の分身幹部ドローレアが揃って、私一人に襲いかかってきた。我先にと、私だけを目掛けて襲ってきた。二人とも私を先に殺したいのだろう。


 二人の分身幹部ドローレアから一斉に襲われて、私は防戦一方。だけど、その分、ナタリアちゃんがフリーになる。

 私が囮役で、ナタリアちゃんが攻撃役。私たちは連携して、二人の分身幹部ドローレアに対抗する。


 それに対して、二人の分身幹部ドローレアは連携もせず、ムキになって私だけを狙ってくる。


「ふふっ」


 私は少しだけ笑ってしまった。それぞれ自分のことばかりを考えている。同じドローレアなのに、二人は仲が悪いのかな。


 私はナタリアちゃんを信頼して、防御に徹する。そんな中、ナタリアちゃんの一撃が、赤紫色をしたドローレアへヒットする。


 バギィッッ!!!


 思わぬ角度から、一撃を食らった赤紫色の髪をしたドローレア。

 ヨロヨロとふらつき、見るからにダメージは大きそう。

 赤紫色の髪をしたドローレアがフラフラしながら、ヒストリー気味に金切り声をあげる。


「キィィィィィィィィッッ! クソガキどもがぁぁぁッッ!!」


 格上の幹部に対して、私たちの方が押している。


「エステラちゃん、このまま行くよ!」

「うん、ナタリアちゃん」


 この調子なら二人の分身幹部ドローレアを倒せそう。

 そう思ったときだった。


 青紫色の髪をしたドローレアの動きが止まる。

 そして、赤紫色の髪をしたドローレアへ声をかける。


「あなた、少し落ち着きなさい」

「!?」


 赤紫色の髪をしたドローレアは驚きながらも、一旦その動きが止まった。


「私たち、本気であのガキどもにバカにされているわよ」

「……」


「せっかくだし楽しもうなんて思っていたけれど、もう楽しくなくてもいいわ。とりあえず殺しましょう」

「……そうね。はしゃぎ過ぎてしまったようね。もういいわ、殺しましょう」


 会話をしているうちに赤紫色の髪をしたドローレアが落ち着いていく。


「そう、もう殺すだけ。本気であの小娘を殺すだけ」

「全身全霊で、あの小娘を殺すだけ。念入りに殺すだけ」


 二人の分身幹部ドローレアがなにかぶつぶつ言っている。

 雰囲気がすっかり変わった。

 二人の分身幹部ドローレアが私を見据えている。

 すでに私が死ぬことが決まっていて、私を死人として見ているような冷ややかな目で。


 二人の分身幹部ドローレアの憎悪と殺意が際限なく増大していることがよく分かる。

 それを表すように、禍々しい紫色のアストラルパワーが目に見えるようになってきた。そのアストラルパワーの一部が巨大な黒い翼へと形を変えた。


 な、なに? この人たちは?


 私はこれほどの憎悪と殺意を人から向けられたことはない。

 この前のグラニットが可愛く思える。


 こ、怖い……。


 私は怖くなった。

 スイーツを踏み潰されたとき、独居房に入れられたときと同じように。

 あのときの私は、下を向いて何もできなかった。


 だけど。

 ここで怯んだら絶対にダメだ。

 今度は本当にすぐ殺されちゃう。


 怖がっていてはダメなんだ。

 私はどんなに怖くても、下を向いて屈したりは、もうしない。

 前を向いて頑張るって決めたんだ。


 私は二人の分身幹部ドローレアを倒すためにここにいる。

 二人の分身幹部ドローレアの憎悪や殺意がどれほどでも、私の決意はそれより上だ。

 私は二人の分身幹部ドローレアになんか絶対負けない。

 地球の皆さんを皆殺しになんか絶対させない。


「エステラちゃん、また白銀に光ってるよ!」


 前回のギアナギア戦のときにもあった現象だ。

 身体中に力が充満する。


「ナタリアちゃん、私、頑張ってみる。でも危なくなったら助けてね」

「うん、当然だよ。ナタリアも頑張るねっ!」


 私とナタリアちゃんは精一杯に戦った。

 二人の分身幹部ドローレアよりも私たちの方が強いと思った。

 私たちは二人の分身幹部ドローレアを倒したと思った。


 ううん、二人の分身幹部ドローレアは倒したと言って良いと思う。

 このあと私たちは、この場所に集まってくるオレンジャーズさんたちと一緒に、二人の分身幹部ドローレアの執念、怨念を見ることになる。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!





◇◇◇

新作短編を公開しました。

お時間がありましたら、宜しくお願い致します。

108回目の運命の恋〜今度の私は本気だぞ♡

https://kakuyomu.jp/works/16817330668627006163


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