第49話 バレンタインと私の想い

 私は今、地球に滞在している。

 今の星幽結社エルリンケイムは、二人の分身幹部ドローレアが本拠地を仕切っている。そんな状態の星幽結社エルリンケイムに、私が戻るのは危険だから。


 二人の分身幹部ドローレアは、いつどうやって地球を攻めてくるのか。

 今、お母さんはどうしているのか。


 色々と不安はある。

 だけど、地球の皆さんが優しいから、私は頑張れる。


 それに私にはナタリアちゃんがいる。

 ナタリアちゃんは、いつもどこでも楽しそう。

 今日も私はナタリアちゃんから元気をもらう。


「エステラちゃん、バレンタインデーって知ってる?」


 私はナタリアちゃんに質問された。


 バレンタインデー?

 聞いたことないけど、なんだろう?


「バレンタインデー? 知らないよー」

「ナタリアね、俺ピンクさんに聞いたんだけど、地球には好きな人やお友達にチョコとかプレゼントをあげる日があるんだって」


 知らなかった。

 地球にはそんな日があるんだ。

 面白いな。


「地球にはそんな日があるんだねー」

「そう、だからナタリアはエステラちゃんにチョコあげるね」


「本当、嬉しいな。じゃあ私もナタリアちゃんにチョコあげるね」

「やった、ありがとう。あとナタリアは、オレンジャーズさんにもチョコあげようかなって」


 えっ? オレンジャーズさんにも?

 ギアナギア戦で一緒に戦った戦友だから?

 これもお友達と言っても良いのかな。


「オレンジャーズさんにもあげるの?」

「そうだよ、オレンジャーズさんにも。えっとね、俺ピンクさんは俺レッドさん、あと小根こずえコネコさんは俺ブラックさんにあげるんだって」


「そうなんだー」

「それでね、ナタリアは時々スイーツを買ってくれる俺イエローさんにあげて、エステラちゃんは俺グリーンさんにあげるっていうのはどうかな?」


「えっ、私が俺グリーンさんに?」

「うん、俺ピンクさんに話をしたら、それが良いよってお勧めされたし」


「俺ピンクさんのお勧め? そっかぁ、それなら私、俺グリーンさんにあげてみようかな。いつも気にかけてくれるし」

「うん、そうしよー、決まりだねっ」


 ということで、私はナタリアちゃんと俺ピンクさんと一緒に、チョコを買いに行くことにした。

 羽根を消して帽子を被ってマスクをしていると全然バレない。私、異星人なのに。


 お店に行くと、色々なチョコが並んでいた。

 私は迷った末、ナタリアちゃんと俺ピンクさんにもあげようと、三個のチョコを買ってみた。

 俺グリーンさんには、俺ピンクさんのお勧めもあり、大きくて立派なチョコにした。

 大きくて立派なチョコを眺めながら、私はふと思った。


「これを俺グリーンさんにあげるのかぁ……」


 私はいつも優しくしてくれる俺グリーンさんを時々意識してしまう。


 私が暗い顔をしていたら「エステラちゃんには笑顔でいて欲しい」と言われて、ドキッとしたこともある。

 まさか恋!? って思ったけれど、俺グリーンさんの持つ雰囲気と、他のオレンジャーズさんの持つ雰囲気の区別がつかないときがある。


 異星人とはいえ、好きな人の区別がつかないなんておかしいよね。だから、私はこの気持ちを恋ではないと思っている。


 なのに、俺グリーンさんにチョコをあげると思ったら、何だか少しドキドキしてきた。私、どうしたのかな。


 だけど、隣にいるナタリアちゃんの一言を聞いて落ち着いた。


「うーん、俺イエローさんにこのチョコをあげたら、お返しにまたスイーツ買ってくれるかなぁ。どう思う? エステラちゃん」


 ナタリアちゃんは、お返しを期待しているようだった。

 なんだか私だけ考え過ぎたのかもしれない。


 俺グリーンさんが異星人の私を、そんなに意識しているはずないし、気楽に渡そう。


 そうして迎えたバレンタインデー当日。

 オレンジャーズさんと毎日のように行っているアストラルパワーを使った訓練を終えたあと。


「俺グリーンさん、バレンタインデーって知ってますよね? チョコどうぞ」

「えっ、バレンタインデーのチョコ!? えっえっ、エステラちゃんが、お、俺に?」


 なんだか俺グリーンさんが慌てている。


「えっ、はい。そうですよ。どうぞ」

「えっ、こ、こんな立派なチョコを? 俺に? みんなに配ってるんだよね? 義理チョコだよね?」


 ??? 義理チョコってなに?

 別に義理ってわけではないんだけど、なんで急に義理なんて言うんだろう?


「別に義理ってわけではないですよ? 私がチョコあげたのはナタリアちゃんと俺ピンクさんだけですし」

「な!? ぎ、義理ではなく、男性では俺だけ!? ということは!?」


 俺グリーンさんが狼狽している。

 思ってた反応となにか違う。大丈夫かな。


 私はなんだかすごく恥ずかしくなってきた。


「そ、そ、そういうことで、ど、どうぞ!」


 私はチョコを俺グリーンさんに押しつけて、そそくさとその場を離れた。

 俺グリーンさんが一人で何か呟いている。


「そういうこと!? そういうこと……そういうこと……どういうこと?」


 俺グリーンさんは、その場で固まっていた。


「ふふっ」


 なんだか不思議な反応だったけれど、地球のイベントに参加できて、私は楽しかった。


 不安はたくさんあるけれど、地球には楽しいこともある。


 だけど、そんな楽しいことはいつまでも続かない。

 それは仕方のないこと。

 だって私は、二人の分身幹部ドローレアから地球を守るために、今、この場にいるのだから。


 その役目を果たすまで、私は心の底から楽しむことなど、できはしない。

 私は心の底から笑うことなど、できはしない。


 その翌日、二人の分身幹部ドローレアと巨大兵器ロボギアナギアが攻めてきた。


 私は二人の分身幹部ドローレアを倒して、いつも優しく心配してくれるみんなに、本当の笑顔を見せたいと思う。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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