第三章 決戦

第43話 五人の俺と常在戦場

 巨大兵器ロボギアナギアの侵攻は、警視庁公安機動特別部隊と自衛隊の踏ん張りにより、辛くも退けることができた。


 巨大兵器ロボギアナギアを倒すという成果に、五人の俺オレンジャーズは賞賛された。

 地球を助けにきたエルフィンドールズも同じく賞賛され、信用もされた。


 地球に住む多くの人々に笑顔が戻った。

 だが、それは一時的なことだ。星幽結社エルリンケイムが乗っ取られてしまった以上、安心はできない。


 とはいえ、エステラちゃんの話によると、再びすぐに地球へ侵攻してくることはなさそうだ。

 ただそれは、結社内に『それほど多くの戦闘団は存在しない』という理由があるだけだ。油断はできない。


 そして、最大の問題は、幹部のドローレア。

 こいつの存在が厄介そうだ。俺はエステラちゃんの話を聞いているだけで、イラッとした。

 さすが口の悪いグラニットの上司だけのことはある。


 その幹部のドローレアは二人いて、星幽結社エルリンケイム内でと呼ばれているらしい。

 五人の俺オレンジャーズという言葉に反応した。


「ぶ、分身幹部!? そんな幹部がこの世にいるとは……」


 俺は不本意ながら分身幹部と聞いて、ドローレアに若干のシンパシーを感じてしまう。

 他の四人の俺赤、黒、黄、桃もシンパシーを感じて、ものすごく気になっている。


「分身というと、やっぱりアストラル神のせいなんですかね」

「どうなんでしょうね。気になりますねぇ」

「興味はありますけど、仲良く話ができる感じではないですよね」

「ですよねぇ」

「分身幹部かぁ……」


 だが現実は、分身幹部にシンパシーを感じている場合ではない。


「でも、地球人を皆殺しにするって言っているみたいし、倒さないといけませんね」

「策謀キャラみたいなんで、弱ければ良いんですけど」

「ただエルフィンドールズより強いみたいだし、弱いってことはないでしょうね」

「幹部ですもんねぇ」


 二人の分身幹部ドローレアは、地球人を皆殺しにする願望を持ち、エステラちゃんを目の敵にしているのだ。

 どんなに強大な力を持っていようと、もっとも倒すべき相手だ。


 さて、分身幹部という言葉に気を取られて話が逸れてしまったが、とにかく現在の星幽結社エルリンケイムが、地球にとって危険であることに間違いはない。


 そして、当然のことだが、現在の星幽結社エルリンケイムについて、日本の上層部も危険視している。

 俺なんかより、よほど心配していることだろう。


 その上層部から、何やら作戦が提案された。

 提案内容は、星幽結社エルリンケイムへこちらから戦闘員を送り込むというものだ。


 その提案を聞いて、俺は素直に思った。


 送り込まれるのは、五人の俺オレンジャーズですよね?

 いくらなんでも情報が少なすぎるし、さすがに怖いんですけど。

 敵も絶対に多いし、強いでしょ。


 五人の俺オレンジャーズにとっては恐ろしい作戦。

 そんな作戦が提案されたわけは、こちらから星幽結社エルリンケイムへ転移できることが分かったからだ。


 転移方法は二つある。


 一つは、星幽結社エルリンケイム基地内にある転移装置。

 現在、エステラちゃんとナタリアちゃんが来たことにより、富士山麓の星幽結社エルリンケイム基地に侵入できる。

 なので、基地内の転移装置を、勝手に使ってしまおうということだ。


 もう一つは、使い切り携帯型転移キット。

 その携帯型転移キットの存在がわかったのは、俺がエステラちゃんに質問をしたからだ。


 星幽結社エルリンケイム基地内に転移装置があるのは想像できる。

 だがそうすると、星幽結社エルリンケイム基地が完成する前、エステラちゃんたちはどうやって異次元空間へ消えていったのか。

 笑顔でウインクして帰っていく姿を見てキュン死寸前になった俺なので、その時のことを忘れることはない。


 俺の質問に対して、エステラちゃんたち曰く。


「使い切りの携帯型転移キットがあるんですよ。とっても高級品なんですよ。今、一個だけ持ってます」

「ナタリアも一個だけ持ってるよ。他の惑星へ遠征するときは、忘れずに持って行けって」


 なるほど、いつでも母星へ帰る手段は確保しているということか。

 異次元空間を越えて別の惑星に行くわけだし、その程度の準備は当然だろう。

 そんな大事なものを使ってしまうわけにはいかないので、使い切り携帯型転移キットは無いものと思っていい。


 つまり実質的に転移する方法は、星幽結社エルリンケイム基地内にある転移装置を使用することだけだ。


 ということで今回の作戦は、星幽結社エルリンケイムの転移装置を勝手に使用して、戦闘団を送り込むということになる。


 幸いというべきか、結局、その作戦は却下となった。


 星幽結社エルリンケイムは、大軍が送り込まれないように、転移装置を設計していた。

 星幽結社エルリンケイム基地にある転移装置は、三十分に二人までの制限付きだった。


 三十分に二人という制限。

 こちらから二人ずつ転移したところで、順番に倒されて終わりだろうと上層部は判断した。

 上層部が竹槍で玉砕みたいな考えでなくて、本当に良かった。


 そんなこんなで色々と対策が検討されたが、結局は攻めてきた軍勢に対抗する。ひとまずは、それしかないという結論になる。


 そのための準備、それは。


 五人の俺オレンジャーズは、再びアストラル砲弾を朝から晩まで作成している。

 アストラル砲弾が敵に有効ということが分かり、五人の俺オレンジャーズには大量のノルマが課せられた。


 いつ敵が出現するか分からないため、とても急かされている。前回の二倍のペースでも間に合うかどうか。

 必要性は痛いほど分かるのだが、正直とても辛い。


 五人の俺オレンジャーズは、ぶつぶつ言いながら作業する。


「今回は色々な種類がありますね」

「なんだか怪人殺戮集団になりそうな雰囲気ですよね」

「本当に。敵も怖いですけど、人間もかなり怖いですね」

「ですね。怪人の前にこっちが過労死しそうですし」

「アストラルパワーも3000まで上がったし大丈夫でしょ、とか言われてもねぇ」

「待遇改善を要求した方がいいですかね」

「でも人類のために頑張ってくれと言われると断れないんですよね」

「ですよね……」


 五人の俺オレンジャーズは、悪の組織と戦う前から、見えない敵と戦っている。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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