第27話 笑顔のないクリスマス

 今日はクリスマス。

 街中がキラキラと輝き、世間はすっかり浮かれている。

 少し前まで、星幽結社エルリンケイムが派遣した怪人による脅威があったことなど、忘れてしまったかのようだ。

 平和って素晴らしい。


 世間が浮かれている中、五人の俺オレンジャーズはというと。

 今日も黒メタリックの怪人を見張っている。

 五人の俺オレンジャーズは、日本のために浮かれている暇はない。


 ただし五人の俺オレンジャーズの中で、俺レッドと俺ピンクの二人は浮かれていた。

 休暇をとって、二人でクリスマスパーティーをするとか言っていた。

 同じ俺なのに、どういうことだ。

 俺の中で格差社会。


 俺だってエステラちゃんとクリスマスを過ごしたい。

 好きな食べ物やケーキを買い込んで、彼女の家で一緒にクリスマスを過ごせたら、どんなに幸せなことだろう。


『俺グリーンさん、私にケーキ食べさせて♡』

『もう、エステラは甘えん坊だなぁ』

『えへへ』

『まったく仕方ないな。はい、あーん』

『あーん』ぱくっ、もぐもぐ。

『どう? 日本のクリスマスケーキは美味しい?』

『うん、とっても美味しい。幸せの味がする』

『ははっ、エステラはいつも可愛いな』


 いつかエステラちゃんの家に行ってみたい。

 異次元空間の先なので、遠距離というレベルではないけれども。



「……ちょっと! 俺グリーンさん! 大丈夫ですか!? 意識あります?」

「えっ、あっ、俺イエローさんか、大丈夫です。すみません、ちょっとぼーっとしちゃいました」


 いけない、いけない。

 エステラちゃんとのクリスマスという妄想をし過ぎてしまった。

 そろそろ現実に戻らなければ。


 今、俺がいるのは吹雪の富士山麓。

 俺イエローと一緒にいる。


 そして、ホワイトクリスマスというか、完全にホワイトアウトしている。

 視界が真っ白くて何もかも見失い、生きるか死ぬかの状態だ。

 これが現実。


「俺イエローさん、マジでヤバいですね」

「ですね。白くて何も見えないですよ」


 近くで喋っているはずの俺イエローすら見えない。


「俺イエローさん、どこにいます?」

「ここ! ここにいますよ!」


 すぐ隣にいた。

 この状況では黒メタリックの怪人を見張るどころではない。


「これはダメですね、一旦戻りましょう」

「ですね。ナビもないし真っ直ぐ戻れるのか心配ですけど」


 俺と俺イエローがうろうろしていると、そこに思わぬ人が現れた。


「えっ、あ、あれ? 俺グリーンさんと俺イエローさん? え、えっと、何してるんですか?」

「ん? その声はエステラちゃん?」


 吹雪でよく見えないが、エステラちゃんの声がする。

 これは妄想ではない。本物だ。


「はい。エステラです。ナタリアちゃんも一緒です」

「ナタリアです。俺イエローさん、俺グリーンさん、こんにちはー」


 姿はよく見えないが、どうやらナタリアちゃんもいるようだ。


「こんにちは。どうして二人はここに?」


 俺はエステラちゃんに尋ねる。


「黒メタリックの警備員さんは、もう撤収させたから外にはいないはずなのに、不審な影がレーダーに映っていたので確認しに来たんです」


 二人はエルリンケイム基地の様子を確認中、不審な影を見つけて駆けつけてきたようだ。


 これは、うろうろしていてラッキーだ。

 この状況で、普段は基地にいないはずの二人が現れるとは。

 これはクリスマスの奇跡。サンタさん、ありがとう。


 俺と俺イエローが二人に事情を説明したところ、本部まで送ってもらえることになった。

 地球上で異星人に道案内をしてもらうのもどうかとは思ったが、気にしないことにした。


 俺と俺イエローは、エステラちゃんとナタリアちゃんに手を引かれて、ほどなく本部に到着する。

 その頃には、吹雪もおさまってきた。


 俺は二人に本部へ寄ってもらい、お礼をしようと思ったのだが、それは普通に断られた。


「そっか、エステラちゃんたちも忙しいよね。じゃあ、また今度お土産のスイーツでも用意しておくね」


 俺の発言に続き、俺イエローがナタリアちゃんに質問をする。


「前のスイーツ、どうだった? また同じようなので良いかな?」


 すると、ナタリアちゃんは下を向いてしまい、小さな声で返事をする。


「それなんだけど……ナタリアがドジしちゃってスイーツ潰しちゃったの。ごめんなさい」


 それを聞いて、エステラちゃんも慌てて答える。


「私も一緒です。ごめんなさい」


 二人とも、とても暗い表情だ。

 俺と俺イエローは、二人からあまりに深刻な表情で謝られて動揺する。


「いいよ、いいよ。そういうこともあるよ」


 俺はとっさにフォローするが、エステラちゃんとナタリアちゃんの表情は浮かないままだ。


「はい、すみません。ありがとうございます。今日はもう戻りますね」


 結局、エステラちゃんとナタリアちゃんは、そう言っただけで、全く笑顔を見せずに去って行った。


 今日のエステラちゃんとナタリアちゃん。

 スイーツを潰してしまったせいで、二人とも元気がなかったのだろうか。

 それとも何か他に理由があるのだろうか。


「……俺イエローさん、今日の二人、何かちょっと気になりますね」

「ですね。俺も少し胸騒ぎがしています」


 とはいうものの、二人は異次元の先から来た若い異星人の異性。

 あまりに共通点がなさすぎて、本当のところはよく分からない。


 ただ俺は、今日のエステラちゃんとナタリアちゃんを見て、自分が想像する以上に悲しく感じた。


 二人にはいつも笑顔でいて欲しい。

 もし二人を悲しませるようなヤツがどこかにいるのなら、五人の俺オレンジャーズがぶっ飛ばしてやる。

 隣の俺イエローもそう思っているだろう。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る