第26話 踏み潰されるスイーツ

 私とナタリアちゃんは、星幽結社エルリンケイムの本拠地に戻った。


「カカリーナさん、お疲れ様でした」

「はい、エステラさん、ナタリアさん、お疲れ様でした。今回は総統への報告をお二人にお願いします。私はすぐにラゾワール博士へ報告しないといけないから」


 私たちは技術班長カカリーナさんと別れて、総統室へと向かう。

 

 何やら結社内が騒がしい。

 朝は普通だったのに、なんだろう?


 そう思いながら、総統室へと続く通路を急ぎ足で進む。


 すると、総統室の方から大きな人影がこちらへ向かってくる。

 その後ろにはふたつの人影。


 大きな人影の正体は、副総統のゴルゴス様だ。

 後ろのふたつの人影は、二人の分身幹部ドローレア様。


 えっ、なんでゴルゴス様がここに?

 それに二人の分身幹部ドローレア様まで揃って?


 ゴルゴス様たちが私たちの目の前に来て立ち止まる。

 私は怖くて下を向く。


「お前らが地球の担当か。ドローレアから地球での活躍ぶりを聞いているぞ。そっちの小さい方、調子はどうだ?」


 質問されたのに、ナタリアちゃんは何も言わない。

 少しのあと、ゴルゴス様の後ろにいるドローレア様がニヤリと笑いながら、口を開いた。


「確かそちらはナタリアさんだったかしら? 副総統であるゴルゴス様が話しかけているのだから何か言ったらどうかしら?」


 ドローレア様に促されても、ナタリアちゃんは何も言わない。

 私は不思議に思い、ナタリアちゃんの方を見る。

 すると。


「か、かはっ……」


 ナタリアちゃんの様子がおかしい。

 とても息苦しそうだ。


 どういうこと!?


 私はすぐにナタリアちゃんを助けようとした。

 だけど、身体が上手く動かない。


 な、なに? なんなの?

 あ、あれ?


 私も息苦しくなってきた。

 

 えっ、な、なんで!?


 ゴルゴス様は、ただ立っているだけで、見たところ何もしていない。

 二人の分身幹部ドローレア様も見ているだけで、何かしているようには思えない。


 一体どういうこと!?


 く、苦しい……。

 身体に力が入らない……。


 立っていられなくなった私は床に倒れ込み、手にしていた紙袋を離してしまう。

 二人の分身幹部ドローレア様が紙袋に気がついた。


「あら、何かしら、この紙袋」


 それはオレンジャーズさんにもらったスイーツとカレンダーが入った紙袋。


「あら、なにこれは? まさか地球、下等種の食べ物!? なんでそんなものを持っているの!? 気持ちが悪い!!」


 二人の分身幹部ドローレア様は、紙袋を床に叩きつけて、ヒステリー気味に踏み潰す。念入りに何度も何度も。


 私はそれを見ても、怖くて苦しくて動けない。やめて欲しいと言葉にできない。

 私は目を逸らして、下を向く。


 息ができない私は、そのうちに意識が遠くなってきた。


 もうダメ、死んじゃう……。

 嫌だ、怖いよ、誰か助けて……。


「ゴルゴス副総統! 何をされているんですか!?」


 そのとき、異常事態を察してくれたのか、総統の腹心フォレナさんが駆けつけ、声を上げてくれた。


「おお、アデリナお気に入りのフォレナじゃないか。どうしたんだ? そんなに大声を出して」

「どうしたんだ? ではないですよ、ゴルゴス副総統! 二人とも死にそうになってるじゃないですか!」


 フォレナさんが大きな声で捲し立ててくれる。でもゴルゴス様は意に介していないようだ。


「んん? オレは何もしてないぞ。まあ弱過ぎて、オレの近くにいるだけで死にそうになっているヤツはいるがなあ」

「何もしていないって……、圧倒的なアストラルパワーで二人を飲み込んでいたくせに……」


 フォレナさんはそう呟いて、ゴルゴス様を睨んでくれている。


「そう怖い顔をするな、フォレナよ。副総統であるこのオレが仲間を殺すわけがないだろう。フハハッ」

「そうですよ、フォレナさん。地球で大活躍のお二人がこんなに虚弱だなんて、ゴルゴス様にだって分かりませんよ。ま、いつもヘラヘラ遊んでいるだけのようですけど」


「こんな虚弱なのが、地球の担当では困るのではないか? んん?」

「ええ、私もそう思います。担当の変更が必要だと考えます」


 そう言いながらゴルゴス様と二人の分身幹部ドローレア様は、私たちの前から去って行った。

 結局、私とナタリアちゃんは何もできなかった。怖くて苦しくて、下を向いているだけだった。

 フォレナさんが私たちを心配して、声をかけてくれる。


「……大丈夫? ナタリアちゃん、エステラちゃん」


「は、はい。す、すみません。ありがとうございます……フォレナさん」

「はっ、はぁ、はぁ……」


 ナタリアちゃんは、私よりダメージが大きくて、すぐには喋れないようだ。しばらくもどかしい時間が続いたあと、ナタリアちゃんが少しずつ落ち着いてきた。


「はぁ、はぁ……。え、エステラちゃん……、オレンジャーズさんにもらったスイーツとカレンダーは……?」


 私は紙袋を手に取り、見るまでもないと思いながらも、その中を確かめる。

 箱に綺麗に収まっていた可愛くて美味しそうなスイーツ。

 私たちの写ったカレンダー。

 どちらも踏み潰されて、グシャグシャだ。


「ごめんね、ナタリアちゃん。ドローレア様に踏み潰されちゃった。オレンジャーズさんにもらったものだったのに……」



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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