第16話 五人の俺と必殺技

「対怪人用スーツのおかげで、数倍の力が引き出されている!」


 周りを見ても俺レッド、俺ブラック、俺イエロー、俺ピンク、それぞれが鋭い動きを見せている。


 これはきっと対怪人用スーツの効果だけではない。

 徒手格闘技訓練の成果もあるだろう。


 第三課、第四課の皆さんのバックアップのおかげもあり、五人の俺オレンジャーズは格段にパワーアップしていた。

 前回、手も足も出なかったエルフィンドールズにと互角に戦っているという事実が、それを証明している。


 五人の俺オレンジャーズは、ギリギリ限界まで力を出す。

 勢いに乗って、一気に攻勢をかける。

 

「ひゃあっ!?」


 反対にエルフィンドールズは、予想外の五人の俺オレンジャーズの強さに動揺している。

 これは勝ちを意識せざるを得ない。


「これならいける! エステラさん、ナタリアさん、覚悟しなさい!」


 五人の俺オレンジャーズが一気にいけるかと思ったそのとき、エステラさんとナタリアさんが一箇所に集まった。

 そして、何やら二人で相談し始めた。


「もしや撤退の相談!?」


 権藤部隊長から、ど素人の動きと評される程度の五人の俺オレンジャーズ

 そのためエルフィンドールズの行動を見て、つい攻撃の手を緩めてしまう。油断をしたわけではないのだが、絶対的に戦闘に対する経験値が少なかった。

 さらに五人の俺オレンジャーズは、ギリギリ限界の精神状態でもあった。撤退してくれるという希望的観測で、つい隙を見せてしまう。


 ほんの短い時間ではあったが、その間にエルフィンドールズの二人は、意を決したようだ。ほんわかとした表情とはうって変わり、キリッとなった。


 次の瞬間、俺イエローがエルフィンドールズに襲われていた。


 俺イエローは、エルフィンドールズの二人に挟まれる。

 おしくらまんじゅうの要領で、二人に揉みくちゃにされている。


 天使のように可愛い少女(怪人)の二人に揉みくちゃにされた俺イエロー。程なくして、俺イエローは顔を赤くし、幸せそうな表情で倒れていった。


 俺は驚愕しながら、倒れた俺イエローを見る。

 すると俺イエローから、ほかほかとした湯気が立っているのが確認できた。もしや先ほどの攻撃は、熱によるものということだろうか?


「もしやミツバチの必殺技、熱殺蜂球ねっさつほうきゅう!?」


 熱殺蜂球ねっさつほうきゅうとは、日本に生息するニホンミツバチが巣に入ってきたスズメバチを攻撃するときの技。

 自身の体温を上げて敵であるスズメバチを大群で取り囲み、熱殺するという必殺技だ。


 ミツバチのようなコスチュームは、ハッタリではなかった。


 すっかり油断していた五人の俺オレンジャーズは、熱殺蜂球ねっさつほうきゅうにより、次々と倒されていく。

 俺イエローに続いて、俺ブラックと俺レッドが立て続けに倒された。


 俺ブラックと俺レッドは、ともに締まりのないニヤケ顔で、ほかほかと湯気を立てながら、倒れてしまった。


「形成逆転だね」

「逆らったらダメと言ったでしょう」


 勝ち誇ったかのように、今度はエルフィンドールズの二人が宣言する。

 熱を発したからか、少し恥ずかしいのか、頬を赤らめながら、可愛い二人の少女(怪人)が渾身のドヤ顔を披露している。


 これは大ピンチだ。

 五対二で均衡が取れていたのに、二対二になっては勝ち目はない。


 玉砕するか降参するか、俺が迷っているその横で、怒りに震える俺ピンクがいた。

 それはそうだ。最愛の彼氏である俺レッドが倒されたのだ。

 俺ピンクが怒るのは、当然だ。


 怒りに震える俺ピンクがエルフィンドールズに飛びかかった。

 エルフィンドールズは、俺ピンクに熱殺蜂球ねっさつほうきゅうで対抗する。


 怒りに震える俺ピンクだったが、一瞬にしてエルフィンドールズに挟まれて、揉みくちゃにされてしまう。


 それを見て、俺は当然、すぐ助けに入ろうとした。


 目の前で、可愛い巨乳ちゃんの俺ピンクが、可愛い少女(怪人)に揉みくちゃにされている。

 全員、とても柔らかそうで、近づくといい匂いが漂ってきた。


 そこは聖域だった。


 男の俺がこれ以上、近づいて良いものだろうかと一瞬の躊躇をした、その隙に俺ピンクが倒されてしまった。


「くっ、俺ピンクまで! すまない、俺ピンク……」


 ついに残るは、俺一人になってしまった。


 これはヤバイ!!


 そう思った時には、エルフィンドールズに挟まれて、熱殺蜂球ねっさつほうきゅうの餌食になっていた。


 柔らかい。

 暖かい。

 ほんのりと赤らんだ二人の少女(怪人)の顔がすぐ目の前だ。


 ふんわりいい匂い。

 可愛い二人の少女(怪人)に挟まれて、心臓がドキドキする。

 胸が張り裂けて死にそうだ(物理的にも)。


 密着したエステラさん、ナタリアさん。

 可愛い二人の少女(怪人)からの温もり(超高熱)を肌で感じる。

 これは脳が焼かれる(物理的にも)。


 こ、この攻撃は反則だ……。

 俺の本能が抗えないと言っている……。

 こんな技でアストラルダメージを与えてくるとは……。

 俺に日本を守る力はないのか……。


 悔しいはずなのに、顔が緩む。

 俺は意識を失いかけ、耐えきれずに倒れ込んだ。


 すると倒れた俺の横でエステラさんが腰をかがめて、俺が被っていたヘルメットを脱がしてくれた。

 富士山麓に吹く風が、冷んやりと俺の頬を撫でていく。


 それにしても一体、何をする気だ。


「ふふふ、逆らったらダメですよー♡」


 そう優しく言って、俺のおでこにピタッと冷却シートを貼ってくれた。


 な、なんだと……。

 攻撃しておいて看護するだと……。

 とんだマッチポンプがあったものだ……。

 でも可愛い。ありがとう、エステラさん……。


 俺の意識はそこで途絶える――――。



 ◇◇◇



 異次元空間を超えた先にある、とある惑星。

 星幽結社エルリンケイムの本拠地で、エステラが戦っている映像を眺めている者がいた。


 「はぁぁ? あの甘っちょろい戦い方はなんなの!? クソ雑魚の下等種なんて、即ぶち殺しなさいよ。あの小娘、アデリナに似てイラつくわ」




 次回のオレンジャーズは、真の敵が登場する!?


 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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