第5話 立ち位置センターの俺

 可愛い二人組の少女(怪人)に完敗した五人の俺オレンジャーズ

 二人組の少女(怪人)の一人であるエステラさんにより、色々な意味で大きなダメージを受けた俺は、ベッドで仰向けになって寝ていた。

 他の四人の俺赤、黒、黄、桃も別室でそれぞれ療養中だ。


「俺はエステラたちを倒さないといけないのか……」


 俺はエステラさんたちと戦ってみて、二人が悪い怪人とは思えなかった。むしろ可愛いし、できることならば仲良くしたい。


 だが今の俺は『地球を守る戦隊として、怪人であるエステラさんたちを倒さなければいけない』という立場。


 やはりエステラさんは倒すしかない。


 などと、俺は一丁前に葛藤を抱えてみたが、よくよく思えば、ワンパン二秒で敗北した俺がそれを考えるのは、100年早いと気がついた。


 それにしても、なぜこんなことになったのだろう。


 俺は病室の天井を見上げながら、この三ヶ月間を振り返ってみた。



 ◇◇◇



【約三ヶ月前のこと】


 俺は五分割されてパラレルワールドの地球で転生した。

 転生直後の俺は、見知らぬ場所で日本の国家機関を名乗る黒尽くめのスーツをきた人たちに囲まれていた。


「えっ、五人も来た?」

「アストラルエナジー研究の第一人者、小根博士によると今回は一人だという予測でしたが……」

「確かに今日の予定は一人だと報告を受けていたが、まあ多いぶんには良いだろう」

「マイナンバーカード、一人分しか用意していませんよ」

「ん? そこは事務方で上手く処理しておいてくれよ」

「承知しました。では五人分のカードを発効して、ついでに戦隊ということにして対処します」


 一人の予定が五人も来たことでざわついているため、俺は五分割されてここに来たことを説明した。

 俺の話を聞いて、国家機関を名乗る人たちは簡単に納得した。

 というか、理由はあまり重要ではなさそうだった。

 それから五人の俺は、国家機関を名乗る人たちから一方的に説明を受けた。


「……以上、ご説明させて頂いた通り、今後は警視庁公安機動特別部隊所属の戦隊として頑張って頂くということになります。以後よろしくお願い致します」

「いやー、話の分かる方々で良かった。これで日本も安心だな」

「いやいや、めでたい。しかし五人も現れたということなら、予算も五倍にして欲しいところですな」

「そうだな、さっそく財務省に根回ししておくか。がはははっ」


「「「「「……」」」」」


 五人の俺は、何も意見を言うことができないまま、警視庁なんたらかんたら所属の戦隊になった。

 話をまとめると、とにかく怪人が日本に出現したら、五人の俺が対処しなければならないということだ。


 そして戦隊名は、その場の勢いで決まった『分身戦隊オレンジャーズ』。

 さらに戦隊らしく各人に色が割り振られた。

 俺は好きな色であるグリーンになった。


 さて、五人の俺が分身戦隊オレンジャーズになって数日後。


 五人の俺オレンジャーズはできあがったマイナンバーカードを受け取りに会議室へ集合し、レッドが可愛い巨乳ちゃんのピンクをガン見するというセクハラ行為をしている最中、ついに日本初の怪人が現れた。


『怪人が現れました。オレンジャーズは直ちに出動して下さい!』


 五人の俺オレンジャーズは言われるがまま車に乗り込み、怪人が現れたという富士山麓へ急行した。


 富士山麓へ到着すると、そこには異形の存在がいた。

 人型のそれは、黒メタリックのコスチュームを身に纏い、顔は昆虫のようで背中には小さな羽が生えていた。

 そして『キィキィ』と不気味な鳴き声をあげている。


「あれが怪人……」


 事前に説明を聞いていた通りの容姿ではあるが、俺は心の底から怖かった。

 隣にいる俺レッドも顔がひきつっている。

 先ほどまで俺ピンクの巨乳を見て幸せそうだった表情とはまるで違う。


 計三人の怪人がおり、そのうち二人の怪人は測量のような作業をしていた。それを守るように一人の怪人が戦闘形態を取り、立ちはだかってきた。

 怪人は何らかの侵略活動を行っているようだ。


 怪人についての研究はまだ始まったばかり。

 ただ海外の事例では、銃火器では倒すことができず、一定のアストラルダメージを与えた場合についてのみ、その存在を消滅させると記録されている。


 そして特殊な波動を持つ五人の俺オレンジャーズによる物理攻撃ならば、怪人にアストラルダメージを与えることができるそうだ。


 なるほど、対怪人SATの皆さんが銃火器での攻撃を開始したにも関わらず、まるで効果がないように見える。

 そのため対怪人SATの皆さんからの期待が五人の俺オレンジャーズに集まってきているのを肌で感じる。


 客観的に見れば、戦闘形態をとっている怪人一人に対して、俺は五人。

 かなり有利な状況だ。だが、怖いものは怖い。


「俺レッドさん、右から行けます?」


 たまたまセンターに立っていた俺は、右隣にいる俺レッドに質問をした。

 しかし俺レッドは、俺からの質問には答えずに、俺の左隣にいる俺ブラックに質問をした。


「俺ブラックさん、左から行けます?」


 俺レッドに質問された俺ブラックだが、その質問には答えずに、センターにいる俺に向けて質問してきた。


「俺グリーンさん、正面から行けます?」


 結局、俺に戻ってきた。

 これはダメだ。

 さすが俺、話にならない。


 そうしている間にも立ち位置センターの俺に、対怪人SATの皆さんからの注目が集まっている。ここは俺が行くしかない。


「俺がタックルにいきますんで、組みついたところを四人で攻撃して下さい」


「「「「了解です。任せて下さい!」」」」


 俺は思い切ってタックルをした。

 続けざまに俺レッドと俺ブラックが左右からパンチを叩き込み、俺イエローが蹴りを放ち、最後に俺ピンクがビンタをした。


 ズガアアアアアアン! シュワワワワワッ!


 五人の俺オレンジャーズの連続攻撃により、怪人は呆気なく消滅した。


 俺は驚愕した。


 な、なんだこの力は!?

 こ、これが今の俺に宿っている力!?

 あれほどの集中砲火で倒せなかった怪人を、この平凡な俺があっさりと倒してしまうとは……。

 何の変哲もなかったこの俺が。


 こうして初戦から五人の俺オレンジャーズは、銃火器の集中砲火でも倒せない怪人に快勝した。


 この戦いにより俺は、自分に特別な力が宿っていることを知った。

 戦隊へ理不尽に任命されてしまったが、この数日間で、この日本の人たちに五人の俺オレンジャーズが本気で期待されていることを知った。


 俺は自分に宿る特別な力を、この日本、そして地球のために使いたい。

 たくさんの人々の期待に応えたい。

 周りにいる四人の俺赤、黒、黄、桃も同じ決意を胸に秘めていることだろう。


 そして帰り道、五人の俺オレンジャーズは、未確認だったマイナンバーカードを見て、この日本での自分の名前を知った。


 俺レッド  :赤羽あかばねタカシ

 俺グリーン :緑川みどりかわタカシ

 俺ブラック :黒岩くろいわタカシ

 俺イエロー :黄瀬きせタカシ

 俺ピンク  :桃山ももやまタカコ


 期待されているはずなのだが、それはそれとして、やっつけ仕事をする官僚たちだと俺は思った。



 ◇◇◇



 次回のオレンジャーズは、俺ピンクをめぐる俺同士の争いだ。

 恋のライバルは全員、俺だ。


 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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