第44話 模擬演習 ☆
ー東京都品川区第三品川特域 臨時行動班基地内 演出場 11:40頃ー
『根性見せろ馬鹿者共が!』
臨時行動班基地に、メガホンを介して怒号が響く。警視庁次世代機械対策本部・機動一課第一小隊・中島征隊長が、喉を焼きつくさん勢いだからだ。
『相手はど素人だぞ!手加減など考えるな!』
「そこは手加減してくれよ」
思わず出た愚痴は、マイクを通して専用回線にダダ漏れである。
『誰が言ってんだ』
「うおお!」
警視庁認定モデル・TGー15の繰り出した電磁警棒を避けたプロメテオは、続け様の横払いを左腕で受け止めた。
『くそ!』
「手加減してもいいでしょうに……」
『はっ!』
防御の反動で体勢を崩した一機の裏から、次の機体が急接近する。鈍く重い足跡を伴った電磁警棒の振り上げも、プロメテオの交差した腕に阻まれた。
【レーザー照準感知】
「シャァ!」
『発泡始めぇ!』
それまで微動だりしなかった最後の機体が、狙いを
秀は足裏に二つのボールをイメージした。するとPDRが自動的にシステムを作動させ、プロメテオの移動手段を発動させる。
『この、卑怯者!』
「そう言われましても」
「
プロメテオのモニターに投影されるは、赤色の十字と二重丸だ。重なる二つを軸に手元を調整した秀は、何度も繰り返した動作を実施する。
彼の指に呼応したプロメテオが、テーザーガンの引き金を引いた。ガス噴射を出力に、特殊合金性短刀の鋏が射出される。
『ヒット』
『くそ!』
装甲を捉えたそれにより、TGー15は演習から離脱させられた。電磁リールを回収しつつ地上を軽やかに舞うプロメテオは、背中同士を合わせた残り二機の周りを周回する。
(慣れてるな。流石に経験値が違う)
高速ホバーリングを可能とするプロメテオだが、打つ手が咄嗟に出てこなかった。TGー15は旋回速度も移動速度も旧世代ではあるが、新世代への対応の仕方を学んでいる搭乗員にかかれば対抗も可能だ。
(くっそ、全然隙が分からない)
電磁警棒を構え防護盾を前に出す二機は、それぞれの視界を確保する事で、全方位警戒を実現させている。バイザーの下に隠れた複眼カメラが与える圧は、今の秀にとっては難攻不落のイメージだった。
『判断は間違いではありませんよ』
間合いを空けてテーザーガンを構えた秀は、イヤホンから聞こえた千恵のアドバイスに耳を傾ける。
『通信教育とはいえ、中々に学習していますね。さて。膠着した状況を打開する必要はあります』
「……どうしたらいいですか」
『その質問には答えられませんね』
「……一機を釣り出すには、どうしたらいいでしょう」
『ええ、そうですね。答えられないのですが』
「……」
『私が考える警戒から攻勢に転じる場合、どのような状況か。独り言ですが、例えば相手の情勢が不利になった場合でしょうかね』
『松島ぁ!!』
『独り言が過ぎましたかね』
「……不利」
『不利ですよ』
秀はモニターに投影される各種データを確認した。テーザーガンの予備バッテリーやプロメテオの放熱状況、発電槽の発電効率。
「PDR、質問いいか」
【確認】
時間にして、二分程だろうか。二機のTG-15がカメラ越しに確認した相手は、胸や脚部の放熱版を次々と開放しだした。
『二号機、見えるか?』
「確認している。やはり放熱ユニットだな」
『過放熱?』
「こちらでも同じだ」
『よし』
10メートル級の人型機械を稼働させるにあたり、機械の放熱は重要な課題である。演習相手であるプロメテオは高性能と引き換えとした、放熱の問題を抱えている事を、当然ベテラン搭乗員達も把握していた。
『やはり素人の老害だな』
「ならさっさと終わらせるのも優しさだよ」
『バックアップ頼む』
「了解」
脚部と胸部の排熱ユニットを全開にするプロメテオに、内心で形ばかりの祈りを捧げてから搭乗員はペダルを踏み込んだ。
重厚で鈍足なジグザグ走りをしながら、TGー15は攻撃範囲にまで距離を縮める。GDM用電磁刺股を構え、拘束せんと両腕を突き出した。
「な、何?!?!」
その時、プロメテオがTBRSを瞬間起動する。高速浮遊による旋回回避が、刺股の突きを無力化させた。
旋回を利用したすれ違い様のテーザーガンを披露したプロメテオは、p220のゴム弾が放たれるが前に、最後の射出を敢行する。
「まさか」
呆気のない僚機の沈黙に、TGー15のパイロットは緊張を緩和した。そして己の見せた隙に気がついた時点で、プロメテオの電磁警棒はTGー15の胸部。
ポイントが一番高いコクピット近辺に狙いを定めていたのだ。
【ヒット。演習目標全機沈黙】
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