第43話 二人は外つ国が人

「じゃ、じゃあラーマさん達は職員じゃないんですか」

「職員ではあるだな、これが。正確には、正規雇用されていないだけで」

「役職は他の所と変わらないです。しかし契約書にはちゃんと期限雇用とあるんですね、これが」

「そんな……」

「仕方ねーよ。オレ達だから」

「色々問題が出てくることが、目に見えていますから。ここにいるだけでも、既にバチカンの火薬庫になってしまっている訳でして」

「臨時行動隊は曰く付きしか来ない訳だ!ゲテモノ揃いってか!」


 秀の歓迎会がわりの、ささやかな夕食会が開かれた。食堂のテーブルに並ぶ典型的なオードブルの品々は、全て既製品である。正確に言えば、基地の職員達が趣味で作成した食品自動販売機の、であるが。


「だがよ。俺達のジュニアは、もう俺達と一心同体よ!」

「おおよくぞ言った兄弟!さぁいったいった!」

「どうどうどうどう」

「こいつはどうも失礼して」


 顔を赤らめた整備班員に絡まれても、流るる捌きで発泡酒を一気飲みする様は、外見こそ違わなくば、ただの威勢のいい日本人であった。


「馴染んでるのにな……」

「ハハハ。そう言ってくれたら嬉しいです」

「ねぇ。ラーマさんなんて、この臨行の古株なんだよ」

「そうそう。ラーマさんとジュニアさんの二人が、松島隊長と女将さん達の幹部なのに」

「僕はこの立場に不満は無い。君達のおかげで、十分楽しませてもらっている」


 サイバー班の女性職員達は、ラーマの朗らかな感謝に歓声をあげる。うまいものだと感心した秀は、程よく揚がったニンニク唐揚げにパクつきながら、食堂にいる人々を見渡した。



 彼が仮の籍を置くここ、警視庁次世代機械対策本部・臨時行動隊は特殊な立ち位置だ。先ず臨時行動隊は本部創設以来の常設では無いらしい。

 千恵の言葉を借りれば、


『人手が足りない部署にそのまま配属され、然るべき人員が確保されるまで代替を務める』


 事が活動目的なのだそうだ。つまり臨時行動隊そのものが独立して稼働しており、実際三年前は警備部交通指導課、その前は総務部と部署をたらい回しにされている。

 補助部隊に過ぎない臨時行動隊が整備班含め百人規模の人員を抱える理由だが、班長を務める松島千恵と整備班長野村真智子・専属医野村正彦の存在があった。

 臨時行動班に来る人材はほぼ全員が、前職で何かしらの人間関係のもつれやトラブルき巻き込まれている。厄介者である彼等を引き受ける稀有な人間が、かの三人なのだ。


「しっかし、貴方も言い方あれですけど変人ですよね。臨行入るなんて〜」

「知ってます?ここ本来の役割」

「ハハ、さ、さっきしっかり聞きました……」

「松島隊長、隠さないからそういうの」

「でも新人さんにさ、普通言うかな」

「言うよあの人だもん」

「言うか〜」


 臨時行動班は、昔でいう追い出し部屋である。そもそもが警察官の服務規定に収まりきらない、千恵の依頼退職を促す為の部隊であった。

 しかし機転をきかせた彼女の手腕によって、今や人手不足解消を担う技能集団に生まれ変わっている。


「しかしこれで、僕達も正式にGDMを扱える。喜ばしい事じゃないか」

「そりゃそうですけどー」

「ここに来た時点で出世諦めてるから、いいんですけどー」


 歓迎されているのかハッキリしないが、女性陣からオレンジジュースやらミートパスタやらを盛られる秀は、苦笑いをそれらで流し込んだ。



「こんな所に居ましたか」

「あ、ども」

「主役は部屋にいてくれないと困るものです」

「そうですか?」


 食堂に直結する小さなバルコニーで、一人夜空を見ていた秀は、隣でタブレットを抱える千恵に問う。いつの間にやら始まったカラオケ大会に溜息をついた千恵は、香草煙草の電源を入れた。


「そう言えば、煙草は嫌がらないのですね」

「父が吸うもので」

「ああ、なるほど」

「今時そんな吸う人もいませんよね」

「吸いたくなるんですよね。入隊手続き、よりも入庁手続きが面倒でして」

「それは、ご迷惑を……」

「オーバーエイジ採用は、求職者には簡易的らしいですが、採用側の事など何一つ考えていませんので」

「あは、ハハハ……」

「愚痴ではありません。いずれ貴方も、やる事になるかもです」


 秀は千恵の言葉を一蹴する。鼻で笑った彼に深く追求もせず、千恵は細い煙を吐き出した。


「プロメテオは今メンテナンスの下調べをしています。本格稼働はまだ先になりますから」

「そ、そうですか」

「早く乗りたいですか?」

「うーん……」

「今はやる事が山積みです。一つ一つこなしてもらいます」



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