第24話 二人の警察

「警視庁ーー警備部・次世代機械対応課「臨時行動班」?班長。失礼ながら聞き慣れない役職ですね」

「正式にはまだ設立されておりません。行動班ですのでね」

「お隣の方は、まだ馴染みがあると申しますか、厄介になった事はありませんが知識としては」

「でしょうな。私共と仲良くする民間人は、少々厄介と言わざるを得ないですからな」


 警視庁公安部総務課・川上辰巳課長は、出っ張った腹をさすりながら鼻息を荒くする。


「来た訳から説明しなくてはいけませんな。親御さん含め訳が分からないでしょうからな」

「是非お聞かせ下さい」

「結論から申しますとな。ご子息は今後公安部による保護観察下に置かれますな」


 息を呑む両親に対し、秀は特段驚いた顔をしなかった。彼には十分すぎる心当たりがある。


「理由としましては、先ずGDMの無断搭乗になりますな」

「ま、待ってください。GDMの無断搭乗とは何の話ですか?」

「親御さんには話していないのか、君?」

「あっ、はぁ……なんか、タイミングが……」

「タイミングなど腐るほどあると思いますが」

「松島君ちょっとちょっと。失礼。ならそこも私から話しますかな」



 川上の端的な説明を聞いた両親は、納得したかしてないか曖昧だった。


「あの、秀が、息子がGDMに乗ったのは」

「本当ですよ。そうですね?」

「ハィ……まぁ……」

「馬鹿な真似を」

「あの、そのでは何故公安に?あの、何の罪に?」

「ウチの子が勝手に乗るとは思えません。大方状況のせいで混乱しただけでしょう。わざわざ公安の方々が出張る、ほどですか」


 川上は出されたお茶で口を潤すと、ビジネスバックからタブレットを取り出す。慣れた手つきでスライドさせて披露したのは、幾つかの写真であった。


「確かにただのGDM搭乗だけなら、GDM特別取扱法違反として、最長でも懲役5年でしょうな。管轄も交通安全課になるでしょうな。今回に限れば危機的状況にあった不可抗力もあるでしょうから、情状酌量の余地は多分にありますな」

「ですよね?ですからどうして」

「搭乗したGDMが曰く付きのものでしてな。私は専門外ですが、要は特別な機体なんですな。ただの国家機密に限定されない、世界機密とも呼べる代物ですな」

「名前はプロメテオ。かの【NED】が発電虫と共に世に解き放った、世界最古のGDMです」


【NED】とは、突如この世界に現れた天才科学者だ。正体不明の存在であるかの者は、国際自然保護連合と国際微生物学会の会合において、前者では発電虫の生態に関する膨大な論文を、後者では実物を発表してみせた。

 そしてGDMの基本設計の全ても同年のIEEE国際会議とロボティクス・サイエンス・アンド・システムズ会議にて発表されたのである。


「世間一般では発表されたGDMは、通称Modelー1です。しかしながら、NEDが公表した設計データは他にも存在し、うち一つが彼の乗ったプロメテオなのです」

「松島君」

「どうせ国家機密保持特別措置法へのサインを強要するのです。変わらないでしょうよ」

「言い方があるだろうよな。全く」


 溜息を吐く川上は、湯呑み茶碗を暫し指で撫で回した。


「……そうでしょうな。やはり、お耳には入れておいた方がいいでしょうかな」

「あの、まだ説明に納得が出来ないのですが」

「その前にお聞きしたいのですがな。御三方は、これから先に待つ苦難をどう受け止めますかな?

 事実を全て知った上か、それとも隠すか?」

「聞かせて下さい」

「秀」

「おい何を焦る秀、粋がるな。物事をよく考えろ」

「いや、聞きたい。俺の疑問の答えもあるかもしれないんだ」

「疑問とな?」

「俺の身体に何かされたんじゃないですか?」


 秀の一言は、大人達の度肝を抜く。困惑する母親とは対照的に、警官二人の反応は一見すれば乏しかった。しかし川上は身体を乗り出し、千恵は椅子に座り直る。


「誰かから聞いたとは思えないから、御自分で考えたのですかな?」

「どう考えても、俺があのGDMを動かせたのはおかしい。何かあるんですね」

「そうですな。そこが問題なんですな。そうか」


 沈黙が続いた後、川上のタブレットが画面を切り替えた。


「……ノアの実態は、ただの教育ベンチャーでは無かったのですな。実の所、日中韓の三カ国に股をかける、生体科学メーカーと言える」

「生体科学」

「表向きは教育用AIの開発運用。本質は、非科学的・非人道的実験を基にバイオチップの試験的運用を行う企業でしてな」

「バイオチップと申しますと、あのコンピューターに埋め込む?」

「それは通常の使い方ですな。私が申し上げたバイオチップはもう少し高度化してましてな。1mm ^3以下の基盤に人工合成された脳組織が固定された、いわばチップを土台にした脳組織と呼べる代物ですな」


 秀は急に頭が冷たくなった。


「ご子息……秀さんは実験台にされたのですな。GDMの操作性に関する脳活動を習得・活性化させる、極めて危険な役割を持ったバイオチップの」



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