公安編
第22話 初?戦闘 ☆
読めない文字列に気を取られていた秀は、突如として差し込んだ眩い光に目を瞑った。真昼間のそれではなく、熱気を帯びる赤々とした夕焼けに近い日光は、隠匿されていた秘密の二足歩行機械を照らし出す。
『レイアン!レイアン!』
『どうしたアリ』
『純白の騎士がいたぞ!』
『馬鹿を言うな。長旅でとち狂ったか』
『いやいや、見てくれこれは大物だ。縁のない筋の話よりも、面白い事になりそうだぜ』
音声通話がダダ漏れだった。襲撃者が何故興奮するかを理解する秀は、焦りからその場でジタバタし始める。
『ジェネラル・ネビルは酔狂な趣味してる。アニメの国に来たら皆こうなるのか』
『さぁな。だが荷物を増やせる余裕はないぞ』
『何。良い情報の一つや二つを、拝借するだけさ』
文字列はいつの間にか消え、周囲の環境が鮮明に映し出されていた。自分の視界が開かれた彼は、正面から手を伸ばしてくる敵の巨体を目の当たりにし、思わず咆哮する。
「つ、つぁぁううううぁぁ!!!」
咆哮とは言い難い、ひ弱な叫びではあった。GDMが声に反応した訳ではなく、搭載された簡易操縦補助システムの一環ではあるが、GDMは右脚を勢いよく伸ばす。
『うおお?!』
「うわぁぁぁぁあ!!!」
金属が打ち合う音が重なり合った。コンテナの外壁がぶつかったのかと秀は思ったが、そうではない。彼のGDMが持つあらゆる関節が、初耳である特徴的な金属音を奏でていた。
【
「あ、あ?」
【カドウプログラムサ動確ニン!確認にン!
「お?あ?」
【戦とうを実行セよ!戦闘を実行セよ!】
「ええ???」
【搭乗者の危険を警告。敵対行動も確認】
『こ、こいつ動きやがった!』
『アリ。お遊びはお終いだ』
『クソ!』
ふざけた機械音声に気を取られたが、現実は厳しい。仰向けに倒した敵が、そのままの格好でサブマシンガンを此方に向けてきた。
バイザーの画面に赤枠が表示され、自動ロックオンが作動する。表示されたT-89という機体名が初見の秀は、どうすれば良いか分からなかった。
【自動迎撃プログラム作動】
「うおぁ?!」
全身から操り糸が伸び、糸人形のように見えざる手によって動かされるようだ。機体を斜めに傾けて照準から晒し、上体部を勢いよく起こされた。
身体が前のめりになった途端、足裏から高回転特有の、音程が外れた音色が響く。
【
「おおおお?!?!」
前世の遠い幼少期、周囲の同年代がこぞって履いていた記憶があった。懐かしきローラーブーツの感覚に驚く間もなく、肩から全身にかけて衝撃が走る。
プロメテオの自動突貫により、T-89が再度仰向けにさせられた。二足歩行では無い車輪の回転エネルギーが乗算されたそれは、機体そのものよりも内部へのダメージが測りし得ない。
『ぬぅおお!?』
『アリ!』
後方に待機していた二機目がトリガーに鋼鉄の指をかけた。が、プロメテオが持つ自動迎撃システムは完全に行動予測を完了しており、次なる一手を繰り出している。
破片が飛び散る地面を滑走して、鋼鉄の右手が獲物を捕らえた。
『なに』
高速の突き手が、T-89の首元にめり込む。手首部分から腕部に装着された専用手甲が展開し、僅かな隙間を逆転の糸口に変えてしまった。
対戦闘用に考慮された装甲すら容易く貫く速度と破壊力は、現場を見た全ての関係者の度肝を抜く。
「うわぁぁぁぁ!!!」
機械で覆われた手先に伝わる金属の感覚に、秀は悶えた。無意識な彼の動きを忠実にトレースするプロメテオは、システムが意図したかどうかはさておき、T-89の内部基盤を引き抜く未来を手繰り寄せる。
火花散る機体を横目にして、プロメテオの三対六個からなるセンサーアイが次なる目標を定めた。
『クソ、クソ!』
アリの乗るT-G15が、ヤケクソの反撃に出る。だがそれよりも早く、秀の右手が鋭い殴りを披露した。
「うおおおおおお!」
喧嘩を知らない中年の、闇雲な両腕の伸ばしを再現しても、プロメテオにかかれば十分な攻撃となる。
銃器による反撃も叶う事なく、ただテロリストは鋼鉄の着ぐるみをきたまま、サンドバッグ代わりになるしかなかった。
「はぁ、ハァ……」
手甲が連続打撃の衝撃で変形し、格納できない。モーターが何度か軋む音を立てて格納を中断した様子を、秀は視界の端で認識はしていた。
『そこのGDM!聞こえているか?!』
「ハァ…ハァ…」
『聞こえていたら返事をしろ!貴方の機体は、現在我々SWATが完全に包囲した!武装解除をしなさい!』
「ハァ……ハァ……」
現状では眼球から与えられる視覚情報の一切が、独立した記憶媒体に保存されているかのようだ。疲れ切った転生者は己のした事を振り返る気力も無く、コクピットを埋める警告信号に煩わしさも感じられない。
『搭乗者は速やかに操縦席から降りなさい!降りなければ抵抗の意志ありと判断し、実力行使に転ずる!』
カウントダウンを始めようとするSWAT隊隊長だったが、側に来た千恵に手で制された。片膝をついたプロメテオのコクピットがスライドした時、空気が抜ける音が虚しい。
「あら……」
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