第21話 BOTO ★
「うあああああ!!」
秀の叫びがコクピットに響く。音を立てて上体部を持ち上げるGDMは、彼の心からの咆哮に木霊するかのように、軋んだ歯車の音色を奏でていた。
格納機能を喪失せしコンテナの残骸から、直立したそれを外気に晒した時、秀は息を整える事が出来たのだ。
コンテナに逃げ込んだ時、中は当然暗闇だった。熱気の籠った内部は蒸し暑く、不快感を助長させる以外の要素を持たない。
微かに存在する灯りは心許なく、秀は勘を頼りに逃げたものだ。中身が何だろうとお構いなく、襲撃者から少しでも身を守れればいい、それだけだった。
爆発の音が鉄板を介して聞こえてくるが、先刻までの耳をつんざく音階ではなくなっている。彼は一息をつかうと、近くにあった壁に背中を預けてしゃがみ込んだ。
「ああ……」
ひんやりとした感触が、火照った身体には心地良い。金属特有の静かさと冷たさが、災難に襲われた青年の心を落ち着かせたのだ。
冷静さが戻るにつれ、秀は辺りを見渡す余裕も持ち始めた。頭を振った彼は、何かしらの箱だと思っていた壁に、思い違いをしていたと気がつく。
(GDMなのか?)
触ってみると、磨かれた金属板であった。伝って移動すれば、平面部分にはデザインされた曲面が存在し、工学的要素を匂わせている。
実物を初めて触る秀は、しっかりとした灯りの中で見たい欲求が募った。薄暗い光の中でも、純白の機体は淡い発光をしているようなのだから。
その光に魅入られてしまったのか、自然と触りながらも奥へと進んでいた。途中で曲面から手が離れたのだが、秀は自分が触っていた面が脚部装甲であり、膝を抱えた状態であると初めて知る。
「あれ?」
彼の知識では、GDMの格納スタイルは直立であった。体育座りのような格好で収納されるなど、聞いた事がない。
「うお?、」
だが疑問を察知した訳ではないものの、外の状況は悪化する一方だ。破壊の限りを尽くすテロリズムの牙が、いつコンテナに襲い掛かるか分からない恐怖が、再び彼を支配しかける。
「ど、どうにかしないと」
慌てる彼は、無意識にGDMの腹部付近に寄っていた。するとGDMの全身が微かに震え、鈍い音が不規則に立ち上がる。
「わ、あ」
腰を抜かす彼をそのまま、GDMの腹部に光の線が走った。空気が抜ける音がすると装甲が箱根細工のようなスライドを始め、前方へと迫り出してくる。
慌てて身を引いた秀は、コクピットが開いたのだと知ったのは、メンタルサポートAIから通知があったからだ。
『トウジョウヲスイショウ』
「え、何で?何で乗るんだ」
『GDMヨリメッセージ。スミヤカナルシンタイホゴヲモクテキトス』
「GDMから?まぁ、でもそうか……?」
疑問は当然だろう。しかし彼の不安を吹き飛ばすかの如く、コンテナ外の爆発音が鮮明になってきた。本能的な危機を刺激された秀は、考えるよりも早くGDMのコクピットに乗り込むべく、迫り出した腹部に手をかける。
「あれ、ん?どこだ?」
薄暗く予備知識もない故に、コクピットへの搭乗方法が分からない。手当たり次第に撫で回していた彼がフックを見つけた時、何故か細かな埃が気になった。
「うおお?!」
脚をかける為のフックであったが、彼は手で握ってしまっている。GDMが調整したのか、緩やかな上昇でなかったら、ちょっとした惨事になりかねなかった。
モーターで巻き上げられた彼は、腹部から胸部に当たる部位にまで到達する。眼前に装甲が無い部分が現れた時、パッと明かりがついた。
「おおお……」
人一人、どうにか入り込めるサイズの空間は意外にも電子部品の類が見当たらない。代わりに人体を囲う配置で、クッションが所狭しと並んでいた。
振動に耐えながら脚を入れた秀は、耳元のブザー音に眉を顰める。何度入れても鳴る警告に首を傾げていたが、自分の身体の向きを変えた事で解決した。
「分からないっての」
ぶつくさ文句を言う彼は、正面を向く格好で身を沈ませる。脚先から覚悟を決めて飛び降りると、マットレスに着地した感覚に似ていた。
「ちょ、おお?、」
身体がコクピットに収まった途端、上部の装甲が閉じる。並行して身体を囲っていたクッションが全身に張り付き、体型に合わせて密着してきた。
驚く暇もなく、事は進む。全身のクッションが張り付き終わると、頭部全体を保護するサイズのバイザーが装着され、文字通り首までロックされた。
(GDMってこんな風だったか?!?!)
聞いた事のない手順に戸惑う秀は、耳の辺りのの締め付けのキツさが気になる。まるで何かを探すかのようにクッションが動き、傷つける気なのかと疑いたくなった。
「いたいたたた!」
うめく彼への刺激が収まった頃、頭部のバイザーが稼働する。OSが立ち上がった音がすると、画面全体に文字が羅列されていった。多量の文字列の意味は不明であったが、左から流れてきた波が渦を巻き、やがては一つの語句へと変わっていく。
『Detekto kaj registrado de pasaĝeraj ekologiaj datumoj』
「わ、あ?」
『La celo estis identigita kiel ekskluziva pasaĝero. Dua faza transiro』
『Preparu konekti kaj sinkronigi Agordojn AI. Konfirmitaj AI-detekto-renkontiĝon postulatajn valorojn』
『Alŝuto finiĝis. Konfirmo de aktivigo de dediĉita AI “PDR“。
Dum ni moviĝas al la tria etapo, krizrespondaj mezuroj estas samtempe aktivigitaj』
「何語だ……」
『Ĉiuj sistemoj ekfunkcias』
『mi PROMETEO』
「PROMETEO……ぷろ、メテオ?」
その時、コンテナの外壁が破壊された。
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