第208話 ケーティー貴子20歳

キュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ、ギュプン!


黒夢の操るF-22ラプターが光学迷彩を解くとバベルの塔に隣接したC滑走路にタッチダウンする、このショックの少ない見事な着陸はやはり黒夢だなと感心する。

格納庫で機体がタービンが止まるとワラワラと整備員とルンバ改2が機体に群がってくる、キャノピーが開くと前の座席にチョコンと座っていた黒夢が僕に手を伸ばしてきた、次に感じるのはフワリとした浮遊感、黒夢に抱き抱えられて地面に降り立つ。


「う~ん、このお姫様抱っこで降りるのなんとかならない?」


「ナラナイ」


黒夢に断言されてしまった。にしても…


「イギリスから帰国してすぐにバベルの塔に呼び出すとは、一体何用だ、貴子ちゃん」


良い加減に貴子ちゃんも20歳なんだからもうちょっと落ち着きがあってもいいんだけどな。

僕はヘルメットを脱ぎながら空を見上げ白い巨塔を仰ぐ、いつ見てもとんでもなくデカイな。





ヒュウウウウウウウウウウーーーッ


僕専用の超高速エレベーターで貴子ちゃんの住む666階に向かう、馬鹿と煙は高い所が好きとよく言われるが、この高さだともう景色もクソもない、窓の外、雲が下に見える。どんだけ高いねん!


「さて、ここがあの女のハウスね」


お約束のセリフを冗談で言った後、貴子のお部屋と書かれた表札がかかった扉をコンコンコンとノックする。


「開いてるよぉ~」


ん、この声?


この階より上は貴子ちゃん専用となっている為に入れる者は限られる、因みに500番台の階はエボラ教授の専用居住区となっていた。




パシューー


空気エアーが抜ける音とともに扉が開くと…。


「あれ?やっぱりエボラ教授だ、それに鈴も二人も貴子ちゃんに呼ばれたの?」


こたつでお茶をズズズと飲みながらみかんを食べているエボラ教授に話しかける、さっきの声はやっぱりエボラ教授か。


「あぁ、後で夏子と京香の奴も来るんじゃないか」


「真澄さんや麗華も塔の下に到着したみたいですね」


お母さんと京香まで、後で真澄や李姉ちゃんも来るらしい、益々何の用だ?そんな皆が集まるような重要な案件あったっけかな?





バァーン!!


「ハッハハー!マーベラス! よく来てくれたマイダーリン鉄郎君!」


隣の部屋のドアが勢いよく開くと貴子ちゃん、白衣を着た幼女が高笑いしながら立っていた。

そう、幼女だ。5年経っても10年経っても貴子ちゃんは幼女のまま成長しなかった、1mmたりとも大きくなっていない、貴子ちゃん一人だけなら発育障害と言うこともあり得たが、鈴やエボラ教授もまるっきり変化が無かったのだ、明らかに若返りの薬の副作用だ。


「まぁまぁ、お座りよ。ほら、エボラちょっとそこ詰めろよ」


貴子ちゃんに勧められてもぞもぞとこたつに入る、この高度なら塔の外は寒いんだろうな、こたつは日本人としては落ち着くのでありがたい。





パシューー、ガヤッ


「いやいやー遅れてもうてすんまへん、ほれ、麗華がグスグズしてるから遅れてもうたやん!」


「人の所為にすんな、あんたが最初に遅刻したんでしょうが」



おっ、真澄と李姉ちゃんが来た、京香さんはまだかな?お母さんはどうでもいいや。





パシューー


「鉄くんお待たせ、愛しの美しいお母さんが来ましたよ!」


「帰れ!!」


「えぇ~、せっかく虎鉄こてつも連れてきたのにぃ~、ほら虎鉄、かっこいいパパにご挨拶は」


「父上、ごぶさたです」


「おう、大きくなったな虎鉄」


ペコリと頭を下げるかしこそうな幼児。


お母さんの横には覇気を放つ3歳児が立っている、実はこの子、黒夢達や婆ちゃんが非常に気にかけている、なんでも王の風格があるとか…。


「夏子さん邪魔だから早くお入りになってくださる、ほら、虎鉄ちゃんは若くて綺麗なお母さんと一緒にお部屋に入りましょうね~」


お母さんの後ろから京香さんがひょいと虎鉄を抱き上げる、うん、虎徹は入っていいよ子供に罪は無いし。


「京香、虎鉄は私の息子なんですけど〜」


結局、お母さんは勝手に入ってきて僕の隣に陣取った。虎徹は向かいの席で京香さんに気持ち良さそうに抱かれている、3歳児だから仕方ないね。決して相変わらず綺麗な京香さんに抱かれてるからって嫉妬はしないよ。そう言えばリカは来ないの?

京香さんと目が合ったらニコリと微笑まれた、あ、これリカは呼んでないな、今度ご機嫌を取らないといけないじゃないか。

広い部屋だから狭く感じることはないけど、随分賑やかになってきたな。

さて。


「そう言えば、こんなに集めて何の用なの?」


「ほら、私あんまり外に出ないから、鉄郎君の誕生日パーティー第1弾ってことで、内輪で祝おうかなって」


「ああ、そう言う事。まぁ、ありがたいことに国家行事にまでなっちゃてるからね」


世界皇帝である鉄郎の誕生日は、今や全世界の祝日に認定され1週間に渡って祝う事が決められているのだ、いまさら1回や2回多く祝われても誤差の範疇だ問題はない。


「それにしても貴子ちゃんもこの前20歳の設定になったんだよね、本当にいつまで経っても変わらないね」


そのせいで貴子ちゃんは公式の行事には出たがらない、ベールをかぶって顔を隠したり高い靴を履くのが嫌なのだ。


二十歳ハタチになったってのに、この姿のせいで外では酒が飲めないんだよ、もう!もう!もう!」


流石に小学生にお酒はねぇ、絵面が良くないからね、おかげで貴子ちゃんもエボラ教授も引きこもり気味なのだ。小さい身体にお酒は大丈夫なのか。


「う~~~~~もう、私はコニャン君の灰原哀の気分だよ」(それは自分は可愛いアピールだろうか)


「じゃあ、私はサザエさんのタラちゃんの気分だな」


貴子の言葉に幼女のエボラ教授が続く、エボラ教授も幼稚園児の姿だしね。だれも成長しない謎のサザエさん時空とコナンくん時空。


「えっ、それでは私は蘭ちゃんですか?」


一人ピチピチの女子高生の姿である鈴がシレッとヒロイン役の蘭ちゃんの名を口にすると、貴子ちゃんがジトォーーーーーーーーっと恨みの篭った視線を向ける。


「児島は良いよな、永遠の17歳だし、エッチもやり放題だし」


「そんなにはしてませんよ♡そんなには~♡」


「うわっ、なんか上から目線だなこいつ、時給下げるぞ」


貴子ちゃんの愚痴が止まらない、よっぽど溜まってるのかな。後、真澄と李姉ちゃんは殺気を抑えてね、虎鉄が怯えて、…ないな、ニコニコしてる。



「私なんかこの前、京香のお子ちゃまの鉄雄ちゃんに「貴子ちゃん」ってタメ口で友達扱いされたんだが」


「私は最近マイケルにやたら抱きつかれるんだが、あやつあんなにお婆ちゃん子だったかな?」


なぜかちょっと嬉しそうな顔でそんな事を口にする貴子ちゃんとエボラ教授の幼女組。

マイケルの性癖(ロリコン)を知る僕や真澄に李姉ちゃんはきっと凄く嫌~な顔をしていることだろう。


「……黒夢、死なない程度にマイケルさんしつけといて、犯罪者になる前に」


「ラジャー、でもあいつ最近受け身だけはウマクなってるから手加減が難しイ、思い切りっていいカ、チャント直すカラ」



貴子ちゃんが思い出したように僕を見つめる。


「そういえば、鉄くんも10年経ってもあんまり変わらない気がするよね、ずっとカッコいいままだ」


「えっ、身長は1cmも伸びてるよ」


「日本人は特に若く見えるからな、嫌なのか? ま、大丈夫だろ、皇帝の子供達は順調にすくすくと育ってるし」


エボラ教授が席を立ちながら貴子ちゃんに問う。


「嫌なわけあるか!ずっと若くてかっこいいなんて最高だ!」


「じゃあ、いいじゃないか」


そこに京香さんが口を挟む。


「あ、鉄ちゃんも普通の人より成長は遅くなってますわよ、だから私も負けじとアンチエイジングは欠かせませんもの」


「「あぁ、やっぱり!!って京香さんアンチエイジングって何してますの!」」


真澄が驚いた声を上げる、知らなかったの?それを京香さんに聞いた時、お母さんが皆んなに言っておくって言ってたんだけど。

そんな事に興味はないのかエボラ教授が声を上げる。



「それより貴子、バースデーパーティーやるんじゃないのか」


「おお、そうだった!児島ケーキケーキ!」


黒夢と翡翠が隣の部屋から大きな誕生ケーキと料理を運び込む、ホールの9号ケーキは久しぶりに見たな、白い生クリームにイチゴが美味しそうだ。

ケーキに立てられた蝋燭を吹き消すと皆んなが拍手してくれた。




鈴にビールが入ったジョッキを手渡される、この歳になってやっとお酒が美味しいと思い始めてきた、僕も大人になったものだ。


「では、改めて鉄郎君、お誕生日おめでとぉー!」


「「「「乾杯ーーッ!!」」」」


「ちょ、日本人は乾杯の時はビールじゃないの?」


「いいんじゃない、それぞれ好みが違うんだから」


確かに見れば貴子ちゃんはウォッカだし、鈴は日本酒、京香はシャンパン、真澄は焼酎、李姉ちゃんは紹興酒、エボラ教授はバーボン?幼稚園児の体でそんなの飲んで大丈夫なの!

なんにせよ、それぞれの個性がこういう所にも現れている、僕はジョッキを傾けながら実にこの国らしいなと思った。


ところで、ケーキ以外はどう見ても居酒屋料理ばかりだな、誰の手配だ?


「うん、やっぱ焼き鳥にはビールだよな」


「プハァ」




あれ?虎鉄、それ水だよね、随分美味しそうに飲んでるけど。

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