第207話 平和な日々?

「じゃあ、もう面倒臭いからこの国以外は全部消滅させちゃうね!」


「ちょ、ちょっと待って貴子ちゃん!」


貴子ちゃんがドクロマークの赤いボタンにゆっくりと指を乗せる。


「ポチッとな」





「うわぁあああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」























ガバアッ!


「はぁ、はぁ、ゆ、夢か?」


「どうなさいました鉄郎様」


「あ、ごめん鈴。起こしちゃったね。なんか凄く怖い夢を見てた気がするんだけど」


鉄郎が突然起き上がったので隣で寝ていた児島も目が覚めたようだ。


「そうですか。コーヒーでも淹れますから、落ち着いてくださいね」


そう言って児島は裸を隠すでもなくままベットから起き上がると、自室に備え付けの台所の方にスタスタ歩いて行った。



「う~ん、色っぽいんだけど出来ればなんか着てから動いてもらいたい、でないとちょっと昨日の夜の事が頭にチラついて凄く落ち着かない」


児島の形の良い揺れるお尻を見て顔を赤くする鉄郎、こればかりはいつまで経っても慣れることはない。





「どうぞ、熱いから気をつけてくださいね」


「あ、ありがとう」


児島が淹れてくれたコーヒーを受け取り口にする、コーヒーを鉄郎に手渡した児島は再び布団に潜り込んで体を寄せて来た。


「どうされました?赤い顔をして」


「いや、鈴がめちゃくちゃエロいな、って」


「もう、鉄郎様は、何人の女性にそんな事をおっしゃっているんですかね〜」


児島が裸のまま上目遣いでじ〜っと鉄郎を見つめる。いや、児島さん全部見えちゃってますよ。


「本当にそう思ってるんだって!」


「まったく、お口も夜もお上手になられて。…あんなに激しくされたらこっちの身が持ちません、やはりそう言う所は父親ゆずりなんですかね」


「えっ、お父さん?」


「この前日本の尼崎さんから送られて来た資料によれば、お父様の松井繁氏に3人目の男子が生まれたそうですよ、一体何人の子供を作るのやら」


「えぇ~、お父さん凄いなぁ、もう結構な歳だよね」


「よっぽどあの時の薬が効いたんでしょうね、いつまでもお若いことで」


「でも鈴も京香さんも、いつまでも若くて凄く綺麗だよ」


「ふ、あの人は若作りの魔女ですから」


鉄郎が落ち着いたのを確認した児島がベットから起き上がると、いつものメイド服に袖を通す、表情が引き締まり仕事のスイッチが入る、甘い時間は終了のようだ。


「あ、明日は麗華総帥との昼食会忘れないでくださいね、この前鉄郎様にすっぽかされて拗ねてしまって大変だったんですから」


「ハハ、李姉ちゃんもいつまで経っても変わらないね」


ストッキングを履きながら児島がジト目で鉄郎を見る。本当、相変わらず綺麗な脚だ。


「そろそろ、麗華さんともご結婚なさってはどうなんです?」


「う~ん、どうしても李姉ちゃんは家族って感じなんだよね」


「でもいい加減にしないと、あの人ももう32歳、貰い手が見つからなくなっても知りませんよ」


「そうかな?あれだけ綺麗なのに貰い手いないの?」




「……可愛そうに」


鉄郎の言葉に一言呟くと、児島は朝食の支度をするために部屋を出て行った。











それは長野の片田舎に住んでいた唯の男子高校生が、世界の頂点に立つ物語。



鉄郎が皇帝になって早くも10年の月日が経過した、この10年で世界の人口は1億人ほど増加を記録している、これは鉄郎以外の男性が体質改善とワクチン接種によって女性の妊娠率が跳ね上がったのも大きい。まぁ、それ以前に鉄郎の遺伝子を求めた女性が膨大な数になった事が一番の原因だ。まさに言葉通り世界のお父さんである。


世界中の男性にワクチンを接種することで徐々に体質改善は進んでいる、後は精神面をケアしていけばもっと世界は愛に溢れた住みやすい世の中になっていく事だろう。



途中に若干の問題はあったが概ね予定通りに世界は進んでいた。だが8年前にインドの男性特区解放時に反対派の元G9のカンチャーナが爆発テロを起こして、まだ貴重な男性を200名以上失ったのだけは誤算だった、その所為で男性特区の解放計画予定が2年は後退してしまった。


そのおかげで世界中を回って粛清行脚をした2年後後、春子がテロを防止出来なかった責任を取って軍部の総帥を辞任、その後は李麗華がその座を引き継ぐことになる。春子の退陣を惜しむ声は数多かったが、春子は曾孫と遊ぶ時間欲しさにあっさりとその総帥の肩書きを捨てる、麗華が泣いてすがりついたがお構いなしだった。


流石に10年では全体的に人口はそんなに増えていないが、この10年だけでも600万人男子が誕生している、当然だが皆まだ10歳未満の子供達だ、このまま行けば後何年か後には一気に男性の数が増える事になるだろう。人口大爆発、空前のベビーブームが来る。(ちなみに現実の世界では1年で約8000万人増えてると言われています)


鉄郎の直系の子供だけで言えば藤堂京香に男子が二人、住之江真澄に男子二人に女子一人、リカ、ジュリア、アナスタシアに男子が一人づつ、児島鈴との間にも女の子が一人、鉄郎にとって痛恨なのは母の夏子にも男子が一人いる事だ、「あの悪夢のような一夜は決して思い出したくない」とは鉄郎が泣きながら語った言葉だ。

その所為で誰も鉄郎にその事には触れようとしない、優しさは時として人の心を傷つける。

補足として夏子は、その後ボロボロの状態で春子の部屋で発見されている。


他、元九星学院メンバーでは副会長の平山智加と委員長の多摩川忍にもそれぞれ男子が誕生している。





「……こう考えると僕も節操がないな、でもお父さんはもっと多くの子供がいるらしいから、これも血の成せる技か?けど人工受精も含めれば僕の方が桁違いで圧勝なんだけど……」


鉄郎は、もうちょっとハーレム王の自覚を持った方がいい。



黒夢には京香との長男の世話係を、他の黒夢シリーズの姉妹達もそれぞれの子供達の面倒を見てもらっている、エボラ教授には世界一の無駄遣いと呆れられているが、それも平和の証拠だと割り切ることにしている。








タッタカタ


「お父さ~~ん♡」


ガシッ!


「うおっ、まことかぁ。よしよし今日も可愛いぞ!」


廊下で後ろから走り寄って凄い力で抱きついて来た娘の真に鉄郎の頬が緩む、わしゃわしゃと頭を撫でると真が嬉しそうに目を細めた。


「えへへェ、お父さんに褒めてもらえるの嬉しい♡」



「コラッ真!何抜け駆けしとんねん、鉄くんはうちの旦那やぞ、早よ離れんかい!」


「ええ〜っ、お母さんより私の方がお似合いだもん!この年増女」


「と、年増って、え、そ、そんなことないわ!まだまだピッチピチや!」



真の世話係の真紅しんくが呆れたように口を挟む。


「真様、それ以上言ってハ、可愛ソウですヨ」


真紅しんくそらどう言う意味や、オウ!」



住之江親子がぎゃあぎゃあ騒いでいると、そこに京香が息子と黒夢を連れてやって来た、鉄郎の側にはやたら人が寄ってくる、やっぱり変なフェロモンでも出てるのかもしれない。

京香はもう50歳もとっくに過ぎてるのに相変わらず色気がある女だ。


「じゃれている所すみませんが真澄さん、今日のG8を集めた会議は鉄郎様の代理としてちゃんと出席お願いしますね」


京香が真澄に仕事の話をすると、真澄は嫌そうな顔を返す。


「なぁ、ほんまにウチが出んといかんの、肩が凝りそうなその会議?」


鉄郎はこの後イギリスに行く予定なので住之江に白羽の矢が立ったのだ。


「仕方ないでしょう、仮にも貴女は鉄くんの第一夫人なんだから」


京香の息子の鉄雄てつおがクイクイと袖を引っ張る。

鉄郎によく似た短い黒髪に黒い瞳、9歳児とは思えないとても利発そうなお子さんだ、だが幼いながらもどこか腹黒さを感じるのは母親である京香の影響だろう。


「ねぇ、もう京香母様が第一夫人になっちゃえば〜」


「鉄雄、わたくしは医療部門で忙しいので無理ですわ、真澄さんは他にお仕事も無いようですし暇なんですから、それぐらいはやってもらわないと、働かざる者食うべからずですわ」


そんなやりとりを住之江の娘、真が鉄郎に抱きついたままじ〜っと見つめた後に、ニコリと笑うと呟く。


「私、将来はお父様と結婚して鉄雄お兄様の子供が産みたいの♡」


ガバァ


「……確実に真澄さんの血が濃いですわ!鉄雄さん、もう絶対にこの娘に近づいちゃ駄目ですわ」


京香は息子の鉄雄を自身の背中に隠すと、住之江と真をキッと睨む。

鉄郎は首を傾げながら、そんな家族の光景を微笑ましく見守る事にした。

こいつ多分よくわかっていない。




一見日々、平和な時間が流れているように見えた。

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