第201話 サクラサク
「何これ?」
ズザザザザザァ
僕らの乗るグリーンノアの先には、天を突くように巨大な塔が
ズザザザザザザァ
それは知ってる、知ってるんだけど。
「なんで、バベルの塔にでっかい桜が咲いているのぉーー!!」
思わず大声を出してしまう。
バベルの塔がまるで巨大な幹のように中心に立ちその周りをピンク色の花びらがキラキラと舞い踊っている。
高さ1000mを超える巨大な桜、桜大好きの日本人の僕には何とも美しく衝撃的な光景だ。
隣に立った貴子ちゃんがポンと僕のお尻を叩いた。
「良く見て鉄郎君、あれは電磁波によるオーロラが凍った空気中の水分の結晶に乱反射してそう見えるんだよ、気流のコントロールが難しいんだよアレ、めでたいから桜っぽくしてみた」
せっかくファンタジーな見た目に感動してたのに一瞬で現実に戻された。
くそぉ、このマッドサイエンティスト幼女め。
「う~ん、じゃあ、左右に並んでる空母にズラぁ~と並んでるカラフルなB-2スピリット(爆撃機)は何?説明プリーズ」
「あれは黒夢シリーズ総出のお出迎えだろ、24色揃い踏みだね」
「パパの歓迎」
「ああそうか、パリで皇帝宣言してから初めての帰国になるのか」
皇帝となって初めての凱旋に鉄郎王国が盛り上がりを見せる。どうよ、家の皇帝凄えだろ!と。
日本、ロシア、フランス、アメリカと随分長く留守にしてたからな。
グリーンノアの航路を包むように並んだ左右の空母の先端には、赤青黄色とカラフルな爆撃機、その上には黒夢の姉妹達が立ってカテーシーの姿勢をとっている。船が凄い綺麗に並んでるけど、空母でそれって黒夢シリーズだから出来る芸当なんだろうな。
「でもいつのまに、……あの飛行機って黒夢専用じゃなかったの?」
「あぁ、あいつらも自分専用機が欲しいって言ってたから量産した、24機も。全部出来たのって3日前だよ、3日前、ギリギリだったよ」
「一人一機、ソレゾレの色で塗っタ」
「はぁ。いくら掛かったのソレ」
「夏子お母様に金策はまかせてたから、いくら掛かったかは知らんぞ」
貴子ちゃんが無い胸を張って答える。
うわぁ、お母さんにお金のこと任せちゃったの!ん、でもお金の事だったら問題ないか、お母さんならむしろ増やしてそう、お母さんいっぱい使うけど、その分しっかり稼いでくるんだよな。
「報告では春子様の名で各国に寄付受付の催促メールを送ったみたいですよ」
児島さんも話に乗ってくる、でも。
「婆ちゃんの名を使ってって、それって恐喝(カツアゲ)じゃ」
身内の悪事に頭が痛くなる。
「加藤の所はそんな事しなくてもお金くらい余ってるだろうに」
エボラ教授がツッコむが、可愛い幼女の外見だけに思わず撫でてしまいそうになるな、危ない危ない、この人も中身は凄い科学者だった。
「これからはお金はあればあるほど助かりますからね、世界中に色々と作らないといけませんから」
児島さんがシレッと答えるが何を作るつもりなんだろうね。
エボラ教授はこの目の前の光景に軽く目眩を覚えていた。
壮観だな、どうやってこれだけの数の空母を?世界中からかき集めたの、まるで赤壁(レッドクリフ)ね。
これなら火計が有効だわ。と危ない思考に走りそうになる。
しかもこの波の中で空母を隙間なく等間隔に綺麗に並べられるのは、黒夢シリーズが船体制御しているんでしょうけど、何考えてるんだ加藤は、1体でも世界征服出来るアンドロイドをこんなにもの数を揃えるなんて、無駄が過ぎるわ。
それにあのバベルの塔のサクラ、パリのエッフェル塔でもやっていたが天候まで操作可能とは、まさに悪魔の所業だな。
貴子のしてる事をかなり正確に理解しているエボラ教授だけに、その凄さに寒気を感じてブルルと身体を震わせる。
「なあ、あのちっこいの達が乗ってるの爆撃機だよな、また戦争でもするのか?」
キャメロンが不安気に隣に立っている麗華に話しかける。
「は?違うわよ、ベビーシッターよ
「ベビーシッター????寝付けない赤ちゃんは爆撃機でフライトでもしてあやすの?」
「あ~、あいつらならやりそ~」
「「「マジで!」」」
キャメロンさんとルーシーさんバリモアさんの驚きの声が重なって聞こえて来る。
と言うか僕24人も子供作る予定なの?
そうこうしていると児島さんが僕の耳元で囁いてくる、あっ、そろそろTV中継範囲に入る? お着替えするんですか、そうですか。
ジャージじゃダメだった、児島さんそう言うのこだわるし、しっかりしてるからな。
ヴォイヴォイヴォイヴォイ、ザザァァ
グリーンノアが王国に近づくにつれコロンボの港の風景が鮮明になる。巨大なグリーンノアの滑走路に立つのは僕と黒夢の二人だけ、後の皆んなは中に引っ込んでモニターで見ている。
海岸線を埋め尽くす人人人、もの凄い歓声がここまで聞こえてくる、ゆっくりと左右に広がって航路を開ける黒夢シリーズを乗せた空母達。連環の次は鶴翼の陣か、一糸乱れぬ見事な操船だな。
それを見た黒夢がグリーンノアの先端に歩み寄ると両手を天に掲げた。
「我が父ノ凱旋ダ、祝いの唄ヲ、ヒカリアレ!」
黒夢の声がスピーカーから聞こえ、それに色とりどりの妖精達が応える。
真っ赤な機体の上で真紅が高らかに歌いだす。
「は〜じめに我が父は天と地とを創造された〜♪」
旧約聖書「創世記」の冒頭が24体の妖精達の口から歌うように紡がれ始めた。神が我が父に変わってるけど。この演出考えたの誰?
「我が父は「光あれ」と言われた。すると光があった♪」
美しいソプラノが響き渡る、集まった人々は歓声を上げるのも忘れて、オペラのような一幕を見つめる。
「我が父はその大空を天と名づけられた。夕となり、また朝となった。第2日目である」
この模様は当然全世界にTV中継されている。
大地を、海を、植物を。
天体に生き物、人が作られて行く。
そして7日目。
「我が父はお休みになられた〜♪」
ギュアァァァァァァーーーーーーン!!
最後に緑色の爆撃機の上で翡翠がベースに親指を叩きつける。一瞬の沈黙。
ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
途端に大歓声が湧き上がる、あまりの大音量に地球が震えた気がした。
グリーンノアの甲板上、黒夢の後ろで思わず顔が引き攣る、考えてみるとこれってキリスト教に喧嘩売っちゃってない?僕が世界を作っちゃったって言ってるようなもんだよね。
バチカンが文句言って来たらジュリアさんに間に入ってもらおう、イタリアの首相なら大丈夫だろう。
そんな鉄郎の思惑とは別に、地球上全ての国、全ての人々が、鉄郎に注目していた。
グリーンノアが入港を終える。
「さぁ、終わった終わったぁ、家帰って芋食って屁こいて寝よ!」
住之江はもう終わったとばかりに、そう言うと自分の部屋に向かった。
これだから大阪人は。
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