第200話 八極拳vs詠春拳2 余計な事を…。

李姉ちゃんとルーシーさんの試合は、中々決着がつかないまま既に30分以上の時間が過ぎていた。


これだけ長引く試合は黒夢や婆ちゃん達のような人外の人の試合では無いだけに、(婆ちゃんの場合は一瞬で終わっちゃうからね)人間の極地とも言える攻防に感動を覚える。(いや、麗華もルーシーも十分人外と言えるんですがね)

李姉ちゃんの八極拳の破壊力は本人に習っているだけに良く知っている、それだけにルーシーさんが互角に闘えている事実に素直に驚く、本当に達人なんだ、始める前は絶対に李姉ちゃんが勝つだろうと予想していたのに、今では白熱した試合に握った拳に汗をかきながら見守っている。


バシィ!パン、パパン、ダン!


「驚くわね、貴女みたいに強い女が鉄郎王国の他にも居たなんて」


「こっちはこの前の夏子戦から自信がダダ下がりだよ、まったく次から次へと強い者ばかり、井の中の蛙とはこう言う事を指すんだろうな」


「ふふ、でも退屈はしないでしょ」


「確かにね」


ビョウ、バシィ!


二人とも笑ってる、やっぱり実力が近い者同士の試合は楽しいんだろうな、強敵と書いて“とも”とかライバルと読むみたいなもんか、まるで少女ジャンプの漫画の世界だ、そんな関係は凄く羨ましい。





婆ちゃん、お母さん、李姉ちゃん、真澄先生に京香さん、東堂会長、貴子ちゃんに児島さん、次々と僕の周りに凄い人が集まって来た、さらには黒夢姉妹にジュリアさんやアナスタシアさん、クレモンティーヌさんも仲間になってくれた、この調子ならこれからもきっともっともっと大勢の人が増えていくのだろう。


僕は皇帝として皆に、「僕に協力して良かった」と思ってもらわなくてはならない。それは決して僕一人の力でどうこう出来る物じゃない、婆ちゃんには「男なんだから前だけ見てシャンとしな!」って怒られそうだけど、世界統一なんて今まで誰もやった事がないんだから、ちょっと迷うくらいは大目に見て欲しい。


ドガァ!


あ、ルーシーさんの蹴りが当たった、でも李姉ちゃんも腕を間に入れてブロックしてる。お、そのまま体を捻ってすぐさま突きで反撃した。


バチィン!


「ちっ、本当に戦い慣れてるわね」


「ふふん、鉄くんの一番の護衛だから当然よ、踏んでる場数が違うわ」


「ふん、こっちも場数では負けてないっての」


ドガガガガッ


本当に凄いな二人とも、格闘では僕じゃとてもすぐには敵いそうにない、じゃあ僕は何をすればいい?今何が出来る?

頭脳でも貴子ちゃんには絶対敵わない、僕に出来る事……? 皆に喜んでもらえる事。


ヨシ!スーーーッ




「頑張れぇーっ!李姉ちゃーーん!!」



「へっ」


僕が大声で応援すると李姉ちゃんがこっちを向いて固まった、ちょ、なんで止まっちゃうの!?


ドバギィッ!!


「あがっ!」


こっちを向いてた李姉ちゃんの顔面にルーシーさんの蹴りが綺麗に炸裂する、無防備の状態でルーシーさんの蹴りが当たれば当然ただじゃすまない、李姉ちゃんが滑走路をガランンゴロンと転がる。

真っ赤なチャイナドレスがクルクルと宙を舞う、香港映画のワイヤーアクションも真っ青な美しいワンシーンだった。


「…………」


蹴ったルーシーさんも吃驚している。


「フ、サスガダナ李麗華、ウプププ」

「うわっ、めっちゃ痛そやな」

「大丈夫なんですのあれ?麗華さん凄く吹っ飛ばされていましたけど」

「はぁ〜、本当に予想を裏切らない負け方してくれますね」


「うん、あれはしょうがない、麗華に同情するわ」

「ふん!私の仇はとってもらった!痛タタ」


皆で言いたい放題である。


「え〜〜〜〜〜〜っ!なんでぇ!!」



アスファルトを転がった李姉ちゃんが白目を向いて倒れている、ピクリとも動かない。けどなんか口元がニヤけて幸せそうな顔してるな。




とりあえず僕は李姉ちゃんのもとに慌てて駆け寄った。










「痛ツツ」


「ほら、李姉ちゃんこっち向いて、湿布が貼れない」


医務室で椅子に座った李姉ちゃんの手当をする、あれだけ派手に吹っ飛ばされたのにほとんど無傷って、どれだけ丈夫なの?受け身なんか取れてなかったよな。


「えへへ、こうして心配されて鉄くんに手当してもらうのも悪く無いわね、でもごめんね、せっかく応援してもらったのに」


「いや、むしろその応援のせいで負けたんやないか」

「修行ガ足りナイ」

「貴子様の作ったお薬を試しに投与してみますか」

「それ、安全な奴なんですわよね」


「お、おい、再戦ならいつでも受付るぞ」

「何々、ルーシー、勝ったのに納得してないの?」

「あの蹴りをまともに食らってあの程度のダメージなの、やっぱり化物」



ガララッ


「むっ、なんだチャイナ、お前また負けたのか」


グリーンノアの地下室にずっと篭っていた貴子ちゃんが、いきなり医務室に入ってきた、なんか久しぶりに顔を見たな、今まで何してたんだ?


「ハッハー、なんだ美髪公、うちのルーシーに負けたのか、だらしないなぁ、ハッハッハッハー!」


あ、エボラ教授も一緒か、幼女コンビだ、お揃いの白衣だから仲良しに見えるな、ちっぱいで金髪と白髪だけど。


「試合だから勝ち負けじゃないわよ!」


李姉ちゃんが涙目で反論するが、幼女コンビは興味ないのか相手にもしない、むしろ勝ったルーシーさんの方が憐れんだ瞳を向けてくれる。うん、良い人だ。




「まぁ、そんなどうでもいいことより鉄郎くん、そろそろ王国に到着するぞ」


「ハッハー、さっき上に寄ったらバベルがチラっと見えたよ」


あら、もうそんなとこまで戻ってきたの、長い船旅もお終いだね。

貴子ちゃんの言葉に皆でゾロゾロと歩きながら、外の滑走路に出た。


ニャアニャアと鳴く黒猫と海猫、真っ青な海に澄んだ青空、目に飛び込んでくるのは天にも届く巨大な塔……。





「えっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る