第199話 八極拳vs詠春拳1

「良いね、体幹がしっかり出来てるから、フォームがとても綺麗だ」


「ありがとうございます!」


「お〜い、鉄くん大物釣れたどぉーー!!」



僕がルーシーさんに拳法を教わっていると、李姉ちゃんとキャメロンさんが2m以上あるミナミマグロ(インドマグロ)をエッチラオッチラ運んで来た、その後ろには黒猫がニャアニャア行列をなしてついてきている。漁獲量の少ない高級天然マグロ(日本で良く食べられるのはメバチやビンチョウ、回らない寿司屋だと本マグロやミナミマグロ)を毎日のように食べれるのは嬉しい、日本人はマグロ大好きだからね、やっぱ寿司がいいかな。でもお肉好きなルーシーさんは二人を見てあからさまに舌打ちした。ルーシーさん生魚がちょっと苦手なんだよな、別に鶏でも捌てあげようかな。


「おいキャメロン、お前まで一緒になって何フィッシングなんぞやってるんだ!新入りなんだからキリキリ働け」


「いや〜、麗華に釣り教わったんだけど結構面白くてさ、ルーシーもやる?」


「魚はそんなに好きじゃない」


「好きか嫌いじゃないんだよ、そこに魚がいるかいないかなんだよ、なぁ、キャメロン」


麗華がパンパンと笑顔でキャメロンの肩を叩く。釣り仲間が出来て嬉しいらしい。


「ふん、それは皇帝陛下を放り出してまでしてする事なのか?」


「あ″ぁん、何か言った?」


麗華が殺気を込めてメンチをきるが、ルーシーは動じることはない。


「ふん、夏子ほどの力があるならいいが、貴様は毎日遊び惚けているだろ」


「うぐっ、いいわ貴女の挑戦受けてあげる、これでも私は鉄郎王国で4、いや6、えっ、ちょっと待って黒ちゃん達入れると今何番目?」


何か重要な事に気づいた麗華の顔が少し青ざめる。今更である。







李麗華とルーシー・リュー、二人の拳法家がグリーンノアの滑走路に立つ。かつて麗華と黒夢が闘った場所だ。二人の黒髪が潮風に揺れる。



真っ赤なチャイナドレスの李麗華が黒の長袍チャンパオを着たルーシーに話しかける。


「夏子さんから聞いたんだけど、あんた結構やるそうじゃない」


「夏子にはケチョンケチョンにやられたけどね」


ルーシーが肩をすくめて両手を軽く上げる。


「そりゃ、あの気狂い相手じゃ仕方ないでしょう、変態よあの人」


夏子の実力を良く知る麗華も呆れたように肩をすくめた、夏子がここにいないから遠慮がない。思い出したように言葉を追加する。


「それはそうと、鉄くん、な〜んかいつの間にかあんたに凄い懐いてるんだけど」


「そりゃ、お前さんが皇帝陛下をほっといて釣りばっかやってるからだろう、職務怠慢だ」


「うぐっ、だってマグロ釣りめっちゃ面白いんだもの、日本じゃこんな大物釣り出来ないんだもん」


「で、危機感を覚えたあんたは、愛弟子の陛下に良いとこ見せようとしてるわけね」


ルーシーが呆れ気味に返事する。


「はぁ、大体皇帝陛下は男なのになんであんなに格闘技が好きなの?あんたが拳法教えてるんだよね」


「はっはっはーっ、そうよ私が長い年月をかけて鍛え育てたの、ねぇ知ってる、鉄くんは強いお姉ちゃんが大大、大好きなのよ!」


「……あんたも色々と凄いな」


「うん、でもここらで惚れ直してもらわないとちょっとヤバい気がしたのよね」(多分手遅れ)


夏子といい麗華といい、鉄郎王国は話が通じない連中が多いとルーシーは心の中で思った、それにルーシーは鉄郎の麗華に対する態度で、こいつは家族同然のお姉ちゃん止まりだなと確信している。


「いや、……うん、頑張ってくれ強いお姉さん」







滑走路脇の東屋で真澄とリカ、黒夢とバリモアさんそれとキャメロンさん達と対峙する二人の人影を見る、李姉ちゃんとルーシーさんだ。

結局、試合する流れになったらしい、凄く強い二人の試合を間近で見れると思うとちょっとドキドキしちゃうね。



「二人で何話してるんだろうね。ルーシーさんも強いけど、やっぱり李姉ちゃんの方が強いよね」


鉄郎がわくわくとした表情で隣の住之江に話かける、あくまでも師匠である麗華への評価は高い。


「あいつ、最近調子こいてるから少しは痛い目見ればええんや」


一応麗華と仲のいい住之江だが、正妻の立場からちょっと上から目線だ、そこに婚約者のリカが話に混じってくる。


「でも麗華さんって黒ちゃんにも勝ってるんですわよね」


「イツの話をしてイル、これダカラ悪役令嬢は頭が悪イ、バ〜カ、バ〜カ」


「なっ!」


ちゃっかり住之江の逆隣に座った児島が鉄郎の耳元でささやく。近いなおい。


「あの二人なら、実力的になかなか良い試合になると思いますよ、勉強になりますから良く見ておいてください鉄郎様」



キャメロンとバリモアも鉄郎陣営に合併されてる為にお気楽に眺めていた、キャメロンの手にはバドワイザーが握られている。


「てか、あの化物ルーシーがボロ負けるとか陛下のお母さんて何者?ドクターじゃなかったの?」


「李麗華も化物だった、痛タタ」









李麗華もルーシーも拳法の使い手だ、それもとびっきりの。

そんな達人同士が試合とは言え闘おうと言うのだ、充分に金を取って客を呼べるカードである。

だが、今いる観客と言えば弟子の鉄郎、住之江、リカ、児島、黒夢、キャメロン、バリモアの7人だけ、それも観戦料など払わない連中のみだ。


麗華とルーシーが互いに歩み寄り拳をトンと合わせる、試合開始の合図だ。途端に空気がピリピリと張り詰める。


麗華の八極拳は接近戦を得意としている、対するルーシーは詠春拳をベースにアレンジを加えた拳法を使う、詠春拳は刀術を基本として徒手拳術に発展した武術だけに夏子戦では剣術にも十分対応出来たが、武器なしでもその実力は人間の世界では10本の指に入る実力者であることは言うまでもない。


ルーシーの構えを見て麗華が呟く。


「へぇ、洪家拳?いや南派か?」


「八極拳士として名高い美髪公にそう言ってもらえると、師である母もきっと喜ぶよ」


構えを見ただけでルーシーの実力を察した麗華、ルーシーも自分の力の理解者がいてちょっと嬉しい。



化物揃いの鉄郎王国の中でも春子、夏子、エーヴァに次ぐ実力を持つ麗華だが、ルーシーも夏子に麗華を超えるとまで言わせた実力者だ、ドラゴンボールで言えばクリリン対ヤムチャ、……あれ?大した事ないのか?


ルーシーが挨拶とばかりに拳を連続で繰り出した。


パパ、パパン、ズパパパパパパパパパパパパパパパパァ


麗華はそれを冷静に受け流す、当然だが常人なら1発当たれば骨が砕けるだけの力を秘めている。


「ちっ、流石は美髪公、バリモアが負けるわけだ」






それを見た鉄郎が興奮して声を上げる。


「おぉ、凄え。ブルース・リーの映画見てるみたい、格好いぃ!」


「ルーシーの拳法はそのブルース・リーと同じなんですよ陛下」


「へぇ、だからあんなにカッコイイんだ」


「チートスペックの黒夢シリーズ戦とは違って見応えがありますね」


「ハッ、ただの人間にモウ興味はナイ」







さらにギアを上げるルーシー、拳だけじゃなく蹴りも混ぜ始める。



ドガァ、ガガガガガガガガガガガガッガガガガガガガガガ


二人の手足が時々消えて見える、もの凄くハイレベルな人間同士の決闘、これはもう訓練ではない、繰り返す、これはもう訓練ではない。


バッチーン


「ふふ、詠春拳の連撃にここまで反応されたのは初めてだよ」


「李氏八極拳を舐めないで欲しいわね、イップマンごときが使ってた詠春拳が!どっちが格下か教えてあげるわ」


李書文は神槍とも呼ばれており、その突きの速さはまさに神のごとしだったらしい。


「ふん、マイナー拳士がほざけ!世界での知名度は詠春拳のほうがメジャーだ!」


ルーシーの拳を流した麗華が突きを放つ、ルーシーもそれを受け流す、体勢が崩れた瞬間を麗華の十八番である鉄山靠てつざんこうの技が捉える。


ズダムッ!!


「くっ、ハァーッ!!」


咄嗟に自身にけいを流し威力を相殺するルーシー、それを見て嬉しそうに笑みを浮かべる麗華だった。


「「ニヤリ」」






「凄ぉ!李姉ちゃんの鉄山靠を耐えちゃった」


「ルーシーの姉ちゃんやるなぁ!麗華と互角やないか」


「フン、あんなの当たらなければイイダケ」



まだ、試合は続く。

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