第198話 家に帰るまでが遠足ですよぉ
ヴォイヴォイヴォイヴォイヴォイヴォイ、ザザァーーッ
「パパ、向こうに見える島がセントヘレナ、ナポレオンが死んだ場所」
「へぇ、あの皇帝(ナポレオン)さんはフランスで死んだんじゃないんだ」
ニューヨークを発った僕達は南大西洋を抜け南アフリカのケープタウンを目指している、グリーンノアで久しぶりにゆっくりした時間を過ごしていた。まぁ、グリーンノアをアメリカに置いとくわけにもいかないしね。
「この先がインド洋だっけ?」
「ソウ、じきにアフリカ大陸の一番下ヲ通過スル」
気分は喜望峰回りの欧印航路を発見したヴァスコ・ダ・ガマだね、黒夢の観光ガイド付きだけに船旅もまた良し。
ケープ半島を回り込む形で薄く雲がかかっているのがテーブルマウンテン。
ケープ半島は地中海性気候だけにそれほど寒ない、この時期ならばむしろ暑いくらいだ。李姉ちゃんなどは連日でっかい竿を持ち出してマグロ釣りをキャメロンさんと楽しんでいる。
グリーンノアなら島ごと動いてるようなものなので揺れも無く船酔いも心配いらない、途中で燃料の補給もしないでいい、なにより広大な敷地だけに長い航行でも自由に動けるから退屈することもない。
貴子ちゃんとエボラ教授は下部の工場施設に籠ったまま出てこない、混ぜると危険な予感がする二人だが、また何を企んでいるやら。
まぁ、急ぐ事も別にないので80日間の船旅を楽しんでいた、あれ?来る時はそんなに時間掛かってないよな、どこにいたんだこの船。
クレモンティーヌさんは翡翠のF-35でパリに戻った、アナスタシアさんもロシアに、ジュリアさんはお母さんと「そんなチンタラした船旅やってられないわよ!」と一足早く鉄郎王国に飛んでいった。
と言うか僕は「色々やる事があるので、なるべくゆっくり帰って来て」と言われているからグリーンノアなのだが?
そして僕はなぜかルーシーさんに拳法を教わっていた、李姉ちゃんが言うには色々な戦い方を知るのも勉強になるらしいと、もっともらしい事を言われたからだ。
「パパ頑張れ、負けルナ!」
「鉄くん、やってまえ!そこでパンチや!キックや!目潰しや!」
「鉄郎様、銃をお使いになられますか」
しかし、外野がうるさい。真澄は妊婦なんだからそんなに興奮しちゃダメだろ。
「あんたら稽古の邪魔だ!向こう行ってろ!後、児島は銃なんぞすすめるな、危ないだろ!」
「「「ブーブーブー」」」
「聞きました奥様、ちょっと前まで敵だった奴が偉そうに」
「ね~、妻の目の前で浮気なんて許せませんわ」
「パパの護衛は必要」
「お~い、麗華、師匠からも何か言ってやれよ~」
ルーシーさんが少し離れた所にいる李姉ちゃんに呼びかける。
「ちょッ、今ヒットしてるんだから勝手にしててよ!」
「うぉー、凄え引き、デカいぞ、大物だ!!」
「はぁ〜、今日も刺身かよ」
「ルーシーさん、フライにしても美味しいですよ」
「それで頼む、まったくアイツらのせいで毎日魚ばっか食ってるな」
ルーシーさんは肉の方が好きなようだ。
「僕はお魚好きですけどね」
「いやいや!あんたの料理に不満はないんだ、むしろ皇帝陛下に料理をやらせている事に、もうしわけない気持ちで…」
「ソウ、言いながら一番食ってるケドナ」
「男性の手料理なんか今まで食べた事がないんだからしょうがないだろ!幸せいっぱいだよ、チクショー!」
ルーシーさんにも喜んでもらえてるようでなにより、ん?
「あっ、マダガスカルじゃないですかあの島」
「おっ、そうだな。もうここまで、速いなこの船」
ケープタウンを過ぎてグリーンノアは赤道に向かって進路を取る、進路上に陸地が見えた。
「バオバブの木が見たい!黒夢寄って行こうよ!」
「あんなのただデカいだけの木だぞ」
「ルーシーさんは見た事あるの?」
「ああ、1月くらいそこで隠れてた事がある、中が空洞になってるから穴開けとけば咄嗟に隠れることも出来るぞ」
「何してたのさ…」
ヴァヴァヴァヴァヴァ
ショッキングピンクで塗られたチヌークで西部の海岸からひっそりと入国?、ついてきたのは護衛として児島さん、ルーシーさん、キャメロンさん、解説・通訳に黒夢。真澄先生は妊娠しているのでヘリは良く無いとグリーンノアに残った、李姉ちゃんは釣りで忙しいからとキャンセルされた、オイ!
マダガスカルは日本の1.6倍の面積で人口は加藤事変後の現在1000万人、首都はアンタナナリボで島の大体真ん中にある、フランスの植民地だった歴史があるのでどこかヨーロッパを思わせる街並みらしい。
今回は残念ながらそこには寄らない。
「落ち着いたら色々な国をゆっくり見て回りたいね」
「「「…………」」」
「何その間は」
(((そんな暇があるわけないだろ)))
島の東西で気候が違うらしく東側では雨量が多くサイクロンにも襲われるが、アフリカ寄りの西側は半砂漠の乾燥地帯だ、生態系も独特な進化を遂げており植物ではバオバブの木が世界的に有名だ、ワオキツネザルやカメレオンの原産地として知られており他にも固有種が多い。
加藤事変で人口が極端に減ったため奇しくも森林が多く残っており、コビトカバもまだ多く残っている、動植物にとっては楽園とも言える環境だ。
ヒュンヒュンヒュン
マダガスカルの西海岸、サバンナ地帯の大地に降り立つ。
「ふあ~~~~~~~~~~っ、凄い!」
高さ30m、直径10mの巨木群が
その光景は僕の中にある樹木の概念を
「来てよかったぁ!この光景を実際にこの目で見られるなんて!」
「良かったですね鉄郎様、ん?」
「大丈夫、武器はモッテナイ」
僕がはしゃいでいるとこちらにテクテクと歩いてくる人がいた、あれ?もしかして男の子?
しばし待っていると同じ顔をした小学生くらいの男の子が二人、目の前に並んでいた。
「「お兄ちゃんは誰?」」
聞き慣れない言葉だったけど胸の翻訳機がすぐに訳してくれる、何語だったんだろう。
「フランス語は喋れる?」
「ちょっとだけ、でもマラガシ語 (マダガスカル語)の方がいい」
海岸部に住んでいるミケア族の双子の男の子、兄がランドリアナンプイニメリナ、弟がランドリアナンプイニルアナ、くそ長いのでメリナとルアナでいい?
この辺の男性は昨日通ったケープタウンの男性特区に集められて住むのだが、この子達は渡航の際に母親が妊娠中で、その後生まれたので今はこの地に居るとの事だった、珍しい。
「多分ここ最近、政府がバタバタしているのでここまで手が回らなかったんだろう」
この子達は目立つピンクのヘリが降りてきたので見にきたらしい、そしたら僕(男性)がいたので吃驚したと、やっぱりピンクの機体って目立つよね。
自分より年下の男の子と話すのは久しぶりで楽しくなってきた、しばしメリナとルアナ達と話をしながら近くを案内してもらった。
「あの横にピョンピョン飛んでるサルがベローシファカ!」
「木の上にいるのがワオキツネザル!」
「あの木の穴にはイタチキツネザルがいる」
「へぇ~ありがと、サルが多いね」
「東部に行けばまた違うサルがいる」
「サル好きなのかな?」
それにしてもやはり男性特区にいる男性とは違うな、なんか健康そうだし、笑顔がイキイキしてる。顔色は真っ黒だからわからないけど。
「ランドリアナンプイニメリナ、ランドリアナンプイニルアナ!!」
「「あっ、ママだ!」」
お母さんが捜しに来たのか、メリナとルアナがお母さんに駆け寄る、僕は軽く頭を下げる。
すると僕の顔を見たお母さんが固まってしまう。
「あ、貴方、この前TVで出てた、皇帝陛下?」
「ああ、パリの中継の時か」
「こ、この子達をどうするおつもりですか?」
メリナとルアナを庇うように前に出るお母さん。
「あ、違う、違います!ただの観光です、危害をくわえる気はありません!」
「「ママ、テツお兄ちゃんはバオバブの木を見に来たんだって」」
「へ、あんなただでかいだけの木を見に?」
「「サルの方が可愛いのにね」」
「えっ、サルが食べたいの?」
「う~ん、この世界の女性はもうちょっと自然や遺跡に興味もって欲しいなぁ、あと僕はサルは好きじゃないし、食べないよ」
皆でしばらく散策した後メリナとルアナの家に招待された、普通にフランスの田舎に建ってそうなお洒落な一軒家だった。いや、服装も普通だったしどこかの部族みたいなのは期待してなかったよ。
マダガスカルは基本的に米が主食だが雨量の少ない西部では、モロコシやキャッサバ(芋)を食べるらしい、食卓にはアクフと呼ばれる肉を生姜とニンニクでソテーした料理をふるまってくれた、まさかサルの肉じゃないよな?
「「テツお兄ちゃん、また来てね」」
「今度は僕の家に君達を招待するよ」
「「えっ、でも」」
「大丈夫、この先皆が自由に旅行が出来るようにするから」
「「……うん、楽しみにしてる」」
二人の頭を撫でてあげると目を細めてはに噛む、で、黒夢は何で頭を出してくるの?撫でないよ。
帰りに李姉ちゃんが釣ったでっかいマグロを持ってきてもらって、お裾分けしたらとても喜ばれた、ご近所の皆さんと焼いて食べるらしい、けど隣の家ってどこ、ああ、1km先にある。
兜焼きは美味いから分けてあげてね。
ヘリから見えるサバンナ、夕日の中でバオバブの木のシルエットが凄く神秘的だった。
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