第197話 世界一の○○○集団!

「んぅ、ここは…」


「あ、本当に目覚めた、貴子ちゃんの言った時間通りじゃん。エボラ教授、私よ、わかる?」


「ルーシー?…ここは天国か?」


視界に入る知らない天井とルーシーの顔、あぁ、まだ私は生きているのか?


「ふ、バットで顔面を殴られるとめちゃめちゃ痛いんだな…」


最後の記憶を辿り、天井を見ながら小さく呟くと隣からバリモアの声が聞こえてくる。


「内臓潰されても凄~く痛いわよ」


続いてルーシーも。


「刀で斬られてもドッバドバ痛いな」


バリモアとルーシーが教授の声に応える、視線を横にずらすと包帯グルグル巻きのバリモアが、ギプスで固められた手をベッドに横たわりながら上げて見せた。ミイラみたいだな。

すると廊下からガヤガヤと話し声が聞こえて来る。


カチャッ


「だから言ったじゃない、あのコーベットの部品はもう手に入らないんだって!」


「私のポルシェターボのリアウイングだって特注のワンオフの超希少品ですよ」


「もう、二人共いつまで言いあってるんです、いっそ違う車にすればいいじゃない」


「「そう言う問題じゃありません!」」



「ん、えっ、あれ?教授、目覚めたの?」


キャメロンと児島、それにマディソン・リーが部屋に入って来た、おいおい幹部全員生きてるのかよ。いや、生かされているのか?

キャメロンが目覚めた私に気付いて部屋の入口で立ち止まる。




「邪魔だ、早くどけ!ヤンキー!」


ドカッ!


「ちょ、痛いなぁ蹴るなよぉ~」


そして加藤も登場か、こりゃ完全に敗北だね。





「よぉ、ババア気分はどうだ?」ニタリ


「いいわけないだろう、この通り身体もボロボロで動かんよ」


あれだけ無理な筋肉増強を重ねたんだからもう2度と歩く事は出来ないだろう。電動車椅子でも買うか。


「ん? あぁ!もう拘束を外していいぞ、もう安定しただろ」


「はぁ?」


加藤の言葉にルーシーがベットで固定されている私の拘束ベルトをカチャカチャと外して行く、もう動けない私を拘束してどうするつもりだったのだ?


「チマチマ治すのも面倒臭いので、鉄郎君の許可とって薬を使ったからな、これからはキリキリ働けよ」


貴子の意味不明な言葉を耳に、手に力を込める。


ギュ


「動く?」


さらに顔の前に手をかざす。


「ん?」


子供の手?冷や汗が出る、ま、まさか!


「はい教授、鏡」


ルーシーが手鏡を渡してくる、震える手でそれを掴むと自分の顔をそっと写す。


「つっ!!」


やられた!キンダーガーテンチャイルド(幼稚園児)に戻ってるじゃないか!

驚く私を覗き込む加藤、なんだそのドヤ顔、殴るぞ。


「ハッハー!ちっちゃくて可愛いじゃないか、よしよし」


「気安く撫でるな!ぶん殴るぞ!」


ワシャワシャと髪の毛をいじられて殺意が湧く。小さくなった手を振り回すが加藤には届かない、やはりこの女は好きになれん!



カチャ


「エボラ教授の目が覚めたんだって!」


やれやれ、皇帝陛下までご登場かい。








ガバァ


「すいませんエボラ教授。勝手に薬を使ってしまって!」


皇帝陛下が頭を下げて謝罪の言葉を口にする、隣の加藤がそれに口を挟む。


「鉄郎君、こんなのに謝る必要なんてないよ、あのままじゃ自分で寝返りも出来ない寝たきり老人にしかならなかったんだ、感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはないよ!」


ベッドの背もたれをルーシーに起こしてもらい、病室で皇帝の話を聞く。やはり加藤の仕業か、こいつわざと自分より幼くしやがったな、幼稚園児のように小さくなった自分の手をにぎにぎさせる。


「でも、本人の了解も取らずに…いきなりは」


「い、いや、そ、それは神のお告げがあったから!!早くやっちゃえって」


「貴子ちゃんに神様のお告げが?」


皇帝がジィ~っと加藤を見つめると加藤はその目を逸らす、こいつは人類で一番神を信じていない奴だ、ハイ、ギルティ!


「いいですよ、皇帝陛下。所詮私は敗残の身だ、何をされても文句は言えない立場です」


「いやエボラ教授。貴子ちゃんも悪意でそんな身体にしたわけじゃなくてですね、僕の為だと思うんです」


「皇帝陛下の為、それはどう言う?」


「鉄郎君の全人類を救うって目的の為だよ、今回のお前の起こしたテロで少なくとも11万人は死んで6万3千人はゾンビウイルスに感染した。これは先のインド、フランス、アメリカとの戦争被害にも匹敵する人的被害だ、この1ヶ月に満たない短期間で人類は30万人以上の命を失ったんだよ」


「そこでエボラ教授が元気だったら、その何倍もの人々を救う事が出来ると言われて、つい」


再度、深々と頭を下げる若き皇帝、犯罪者にも下げる頭を持つか、なんとも好感の持てる男子だ。この男なら加藤のような変態でも。


「頭を上げてください皇帝陛下。先ほどの加藤の言葉ではないですが、健康体で生かされておいて文句を言うほど、私は恩知らずじゃありません」


「では、許して…」


皇帝の言葉を右手を上げて遮ると加藤に視線を向ける。


「しかし加藤!貴様ァ、わざと自分より幼くしただろう!仕返しのつもりか!」


「な、何を言ってらっしゃるのかな、その薬は調合が非常に難しいのだ、その年齢設定は、ぐ、偶然に決まってるだろ」


「私の目を見て言え!」


「うぐっ」


「戻せるのか?」


「それは無理。薬の2度目の投与は結果が読めない、私自ら実験してるから間違いない!」


「威張って言うな!」


加藤に文句を言ってると、皇帝陛下がおずおずと口を開く。


「で、負けたばかりのエボラ教授に言うのも強制するみたいで言いづらいのですが…」



「これからは鉄の為に働きな!女だったらそれぐらいのプライドは残ってるだろ!」


「ば、婆ちゃん!」



ふ、皇帝に言わせないように武田春子が言葉をかぶせて来る、なんとも愛されてるね皇帝陛下は。


「フフ、武田の長にそう言われては従うしかないね。皇帝陛下、今回世界を騒がせたお詫びとして、エボラ財団の全てを貴方の為に捧げましょう」








静まりかえる病室に残されたのは私とルーシー、マディソン、キャメロン、そしてまだベッドから動けないバリモアの5人だった。

私は4人に向かって頭を下げた。


「すまん、お前達を私のエゴで巻き込んでしまって!」


キャメロンが私の謝罪に軽い口調で応える。


「いいよ、私は教授に拾われた身だし、私達にだって守るルールはある、恩知らずにはなりたくないじゃん」


「……」


「それに、これからは人助けも出来るんでしょ、殺すだけよりは精神的に楽になるし全然OK牧場だよ!」


キャメロンはそう言ってニパッと笑顔を見せる、そりゃまともな人間は人助けの方が好きだろうな。


「すまなかった…」


自分のエゴに付き合わせてしまったコイツらに対して途轍もない罪悪感が生まれる、加藤達に完膚なきまでに敗れて初めて、自分がどれだけ冷静な判断が出来なかったのか思い知らされる。


「これからはお前達には人を救う事しかさせないと誓おう」


「犯罪者はどうする?」


私の誓いにルーシーが口を挟む。


「そんなものは強者の役目だ、あいつらに任せるさ、負けた私達は地道に人助けだけをやっていればいい」


皆でニタリと悪い笑顔で笑い合う。一度は死んだも同然のこの身だ、次は自分ではなく誰かのために使うのも悪くない。



コツッ!


「ん?」


ドアの外に誰かいる気配が有った、ルーシーが口を開く。


「この感じ、多分、フラン…」






カツカツカツ


「ヨウ!クレモンティーヌ、フランスに戻るナラF-35で送っていくゾ、初乗り運賃400円デ格安!」


「ああ、お願いするよ翡翠、そろそろ本物のボルドーワインが飲みたくなった」



廊下の会話が聞こえて来る、ああ、クレモンティーヌだったか。


「そう言えば、あいつも私と同じ罪人だったな」















「へっくちょーい!、また誰か噂してるな」


「貴子ちゃん風邪じゃないの、ちゃんとあったかくして寝るんだよ」


「鉄郎きゅんが添い寝してくれれば絶対に治るよ!」


「ちょい待てや!そこは正妻であるウチが先やろ!こんだけ時間あったのに手ださへんかったヘタレ幼女が」


「真澄、ちょっと口悪くなった?」


「「ガ〜〜〜〜〜ン」」


人類史において唯一、たった一人で地球上の人口の半分近くを虐殺したテロリストも十分に大罪人なのだが、規模が大きすぎて実感が湧かないのはある意味卑怯と言える。

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