第195話 百鬼夜行

エボラ教授と婆ちゃんが距離を取って睨み合う、お互いが折れた刀やナイフを放り投げるとカリーンカラ~ンと硬質な音が乾いた荒野に響いた。

無手となり次の一手をどう切り出すかに頭を使うのが悩ましい、現状軽いこう着状態に入った。


そんな二人を見守っていた、僕と貴子ちゃんの後ろから突然声がかけられる。



「ありゃりゃ、ババアの奴苦戦してるじゃん、しっかも自慢の刀折られてやんの、やっぱ歳には勝てないか」


「あ、お母さん」


「げえっ!!夏子ぉ、お、お義母様…」


「あぁん? ふん、まぁ一応鉃くんの婚約者だから、そう呼んでも構わないけどね」


「あれ、でもお母さんどうやってここに?インディアナポリスに居るはずじゃ…」


「いや~ん、鉄くんに早く会いたくて来ちゃったの〜ぉ♪」


「そう言う冗談はいらないから」


僕の返しに拗ねたように頬を膨らます実母、京香さんならそう言う仕草も可愛いけどお母さんの場合は、何か企んでいそうで怖い。ほら、貴子ちゃんも引いてるじゃん。


「ぶぅ~、あれあれ↑」


お母さんは上空を指差す、釣られて見上げるがこれといって何にもない、綺麗な青空が広がってるだけだ。

と、思ったら突然僕達の立っている場所に太陽の光を遮って大きな影が差した。え、この機影の形は。


「え、えぇ~~っ!!B-2スピリット!黒夢か!」


『パパ、黒夢参上』


ハァ~、流石UFOのメッカであるエリア51だな。ましてや黒夢のB-2スピリットは特殊光学迷彩、こう言うふざけた機体が未確認飛行物体に見間違われてUFOって言われてるんだろうな。




エボラ教授が黒夢の機影に気づいて空を見上げる。


「チッ、B-2だと。あの怪物まで来やがったか、私のレーダーにこの距離まで引っかからないなんて、どんなステルス性能してるんだい」


「よそ見とは余裕じゃないかい、エボラ教授」


ヒュパ


「どわぁ!」


婆ちゃんの手刀がエボラ教授の隙をついて頬を掠める、あれ?今バリアを素手で。


「くそっ!バリアの出力が!」





「鉄郎くん、あの婆さんのバリアが薄くなってるよ、もう出力を維持出来てないね、ダメだなぁ!出来損ないめ」


可哀想に、貴子ちゃんにダメ出しされるエボラ教授。


「いや、でもエボラ教授も貴子ちゃんと婆ちゃんの2連戦だししょうがないんじゃないかな」


「ふふん、私のこのバリアだったら1週間は衛星レーザーに耐えながら維持出来るよ」


得意気に小さな胸を張る貴子ちゃん。

マジで!でも、実際にエボラ教授のバリアが切れたのなら婆ちゃんにはチャンスだな、けどな~んか婆ちゃんも戦いにくそうに見えるなぁ。




「ちっ、素手は久しぶりだから加減が難しいね、鉄扇は前の戦いでダメにしちまったし、そのうえバリアもほとんど消えちまってるから、全力だと…、殺しちゃ駄目なんだよね、あ~!エボラ教授はババアのくせに強すぎるんだよ!本当に面倒臭いね!」


ここにも人斬りの化物が、貴子と同類の手加減の仕方がわからない馬鹿が一人居た。まぁ、エボラ教授が中途半端に強くてその反面身体は普通にお婆ちゃんなのが原因とも言えるが。


ガォオン!!ガォン!!


けどエボラ教授の目はまだ死んでいない、左右の頬からポタポタと血を垂らしながらも、反撃の機会を窺うエボラ教授だが単発の攻撃では春子には簡単に避けられてしまう。グリズリーだって一発で仕留める破壊力を持つM107の12.7mmも避けられては意味がない。


「くぅ、こりゃ流石に無理かな。貴子に春子、その娘の夏子に機械人形、化物相手に4対1じゃ勝ち目はないね」


エボラ教授としてもこの状況ではポジティブな考えは出来ない、次々現れる凶悪なモンスター達に打つ手が少なくなって来て背中に冷や汗が流れる。

だがもう一方の春子も殺さずの制限がある以上、慣れない無手での戦闘は非常に戦いずらい現状ではあった。

だって全力なら即死だが、手加減すると反撃を喰らうのだ、何事も中途半端が良く無い。




ちょっとイライラし始めた婆ちゃんがこっちを見て声を張り上げる。


「夏子ぉ!あんたの刀貸しな!!」


「嫌よ!折られたんだから素直に降参すれば良いじゃん、選手交代ならいつでも受け付けてあげるわよ」


「ちっ、誰がお前なんかに、息子の前で人殺す気かい」


いやいや、まったくこの戦闘狂親子は。

ここでお母さんに交代したら流石にエボラ教授が可哀想でしょ、エボラ教授もそろそろ諦めて降参してくれないかな、このまま戦闘が続けば下手すりゃ本当に死んじゃうよ。鉄郎の中ではすでに戦闘の勝敗は決している、後は気持ちの問題だけだ。





『お婆チャン、ナンカ交代しろト言ってイルガ、ドウスル?』


そんな時、いきなり上空から黒夢の声が聞こえて来た、交代?誰に?お母さん以外にもB-2に誰か乗って来てるの?アナスタシアさんじゃないよね、まだ車でぐったりしてるし。



「はぁ、誰に代われって言うんだい?」


婆ちゃんも訳がわからないのか黒夢に思わず聞き返す。



『大阪女』




「「「はぁ~!?」」」

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