第189話 圧倒する力
ガガガガァアン！！
「くっ」
目の前で姿が消えたかと思えばいきなり横から剣戟が迫る、辛うじて防げているがルーシーに余裕など一滴も残っていない、両手がもう限界に近い。
夏子の打ち込みをもう何度受けただろう？ 頭が極度の緊張でボォ〜ッとして思考がブレて反応しきれない。
「くっ、この女、スピードもさることながらパワーがゴリラ並に半端ない、刀を持つ手にもう力が入らなくなってきた」
加えて夏子の心底楽しそうな笑顔がルーシーをじわじわと絶望に追い込んでゆく。
「あぁっ、もうだめ！楽しい、やばいイキそう♡」
夏子の上段の打ち下ろしがルーシーを
ドガッ！パキィィィン
「ぐおっ！」
とうとうルーシーの刀が夏子の打ち込みに耐えられなくなった、防御の為に頭上に上げた刀が真ん中で断ち切られる、奇跡的に1歩下がれた事と刀身の短い脇差だった為に左目の
「ハァ、ハァ、今のはやばかった、開きにされるところだった。一瞬死んだ母さんがお花畑でカモ〜ンと手招きしていたぞ」
真っ二つに断ち切られた刀を投げ捨て、残った1本を両手で掴んで握力と刀の状態を確かめる。この残った刀ですらいつまでもつか？
「ハァハァ♡、いいわ貴女、最高よ、黒ちゃんやババアを抜かせば間違いなく今までで1番強いわ、はっきり言って麗華より強いもの」
「ハァハァハァ、お褒めに預かり光栄だが、その余裕ある顔はなんとかならないわけ？こっちは気持ちも折れそうなんだけど」
「それはしょうがないじゃない、世の中は広いんですもの、上には上が居るもんだわ、諦めなさい」
「くっ、貴様より上が居ると言うのか……」
「人だけじゃないけどね、結構ゴロゴロ居るわよ、しかもどんどん増えてるし」
「ゴロゴロ、って嘘でしょ……こんな化物が……」
夏子の言葉で今度こそルーシーの心がポキッと音を立てた、こんな化物がゴロゴロってどんなホラーだ、刀は落としそうになるし、脚も生まれたての子馬のようにプルプル震えだす。
「…………」
「あぁああああああああああああああああああああーーーーーーーーーっ！！」
やり場のない感情に思わず天に向かって叫ぶ。その魂からの叫びに夏子もビクッとなる。
「な、いきなり何よ、吃驚するじゃないの」
「夏子、もうやめてあげて、その娘もう限界よ」
バイクでも格闘でも圧倒的な差で負けた。
ルーシーの気持ちがなんとなくわかるジュリアが見かねて夏子に声をかけた、その言葉に夏子も再度ルーシーに目を向ける。
カランッ
「エボラ教授、駄目だ、とてもじゃないが勝てる相手じゃないよ」
空を仰いで一言呟きカランと刀を放り投げ両手を上げる、これ以上は闘う意味がない、無駄死にする気の無いルーシーは降参の意志を示し両手を上げた。
「……降参する」
キョトンとする夏子、まだまだやる気満々だった夏子にとっては突然の申し出だが、確かにこれ以上続ければ思わず
「あら、もうお終い？ まぁ、結構楽しめたからいいけど、じゃあ、服脱ぎなさいよ、治療ぐらいしてあげるわ」
夏子もルーシーの降参をあっさりと受け入れた、楽しい時間は長く続かない事はよく知ってる、それに闘いが終わったならば元々医者だけに怪我人はほっとけない、もっとも怪我させたのは夏子本人だからマッチポンプもいいとこだが。
防刃加工がされているはずのライダースーツを脱げば現れるのは鋼のような筋肉、だが身体中に切り傷が出来ていて、血が滲んでいる。中には止血しないとやばい深い傷も有り夏子は目にも止まらない速さで縫合していた。
「イテテ、ちょ、痛いって、麻酔ぐらいないの！！」
「これぐらいの怪我で贅沢言わないでよ、それより降参するなら爆弾の場所ぐらい教えなさいよ、どうせ世界中色んな所に仕掛けてるんでしょ」
「……やっぱバレてるか、でももう間に合わないよ、電波でジャミングされるのは予想がついてたからね、時限式のウイルス拡散爆弾だ」
レース場のパドックで麻酔もせずにルーシーの額の傷を治療し始めた夏子、見てるほうが痛いと目を
「ふ〜ん、まっ、いいから話なさいよ、まだ間に合う所もあるかもだし」
チラリと腕時計を見たルーシーが申し訳なさそうに口を開いた。
「一番早いので日本の大阪だよ、だけどあと2時間もない、次は上海、デリー、パリ、モスクワ、ローマこれも2時間おきだからそんなに時間ないわよ」
「なんだ、まだ時間あるじゃない。黒ちゃん、聞いてた？あと2時間はあるって」
インカムに向かって声をかける夏子、すぐに返事が帰ってくる。
『
「これで良し！それにしてもまた人口の多い男性特区ばかりね、男になんか恨みでもあるの？」
「さぁ？エボラ教授の指示だからな」
時を同じくしてシカゴのルート90では真っ赤なコーベットのV8サウンドと黒のポルシェターボの水平対向エンジンのサウンドが大合唱を奏でていた。
ガロロロォ！！
ヴァガァァァァァァァ！！！！
「リカさんちょっとハンドル持っててください」
「えっ、ちょ、ちょっと！」
児島は助手席のリカにハンドルを持たせると、ポルシェの天井に貼り付けたベージュ色のH&K HK433アサルトライフルを手に取った。
「11インチバレルだけど、この距離じゃ外さないでしょ」
ポツリと呟くとセーフティを解除、
ガガガガァアン！！
「キャーーー！！」
ハンドルを託されたリカは耳を塞ぐことも出来ずに至近距離で銃声を聞く事になる。当然耳がキ〜〜〜〜〜〜ンとなった。
「ん？」
隣に並んだポルシェターボのドライビングシートから銃身がニョキっと出てくる、キャメロンはギョッとするも冷静にブレーキペダルを思いっきり蹴り込んだ。
ズギャギャギャ！！
コーベットのブレーキローターを真っ赤にさせ白煙を上げながら急減速、だが銃声とともに自慢のアイアンバンパーが火花を上げて弾け飛ぶ。
「こんにゃろ！貴重なアイアンバンパーを……ゆるさん！」
キャメロンは車体を左右に振りながらグローブボックスに手を伸ばす、ズシリと手に重量を伝えてくるのはデザートイーグル50AE。
50口径で自動拳銃では最強の破壊力を持つ、グリズリーでも当たれば確実にポックリ逝く、気狂いが大好きな銃だ。
フルチューンの350ユニットに鞭を入れるとサイドマフラーからホゴォと火を吹く、7400ccは伊達じゃない、一気にポルシェの後ろに迫る。
右車線にハンドルを切ると左手に構えたデザートイーグルの50AE弾7発を反動も気にせずに一気に撃ち込んだ。
（良い子の皆は運転しながらの銃撃戦は大変危険なので真似しないようにね）
「ちっ！」
児島はサイドミラーを見ながら舌打ちするとアクセルを踏み込みながら回避の為にハンドルを切る、クルリと１回転するがポルシェターボの大きなリアウイングが50AE弾が着弾して吹っ飛ぶ。
「おのれ！貴重な特注リアウイングを……ゆるさん！」
「もうイヤ！下ろしてぇ！！」
リカの叫びがハイウェイに木霊する、ここシカゴでも開戦のゴングが鳴らされていた。
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