第190話 弾丸スピード/48の瞳
ゴウッ!
風切り音が凄い、公道で時速300kmでバトル、どこの湾岸ミッドナイトよ!私が乗ってるのって黒い怪鳥か(私が会長だけにウププ)と言いたくなるが、私の置かれている状況はそこにもれなく銃弾がトッピングとして
「あぁー、もう!窓開けてるから髪が舞ますわーーっ!スピード落としてくださいまし!!」
ズガガガガガァン!!
隣の児島さんがベージュ色のデッカいライフルを後ろに向けて撃ちまくる、そんなにジャカスカ撃っても当たらない?ヘタクソですわと密かに思っていると、後ろの赤いスポーツカーからも反撃の銃声が聞こえハイウェイに反響する。
「ぎゃーーーですわ!」
ガオォンガオォン!ガオォーーン!
「ちっ、これは全部は避けきれないか」
児島さんはそう呟くとライフルを私に押し付けた、そしてどっから出したのか彼女愛用の銃が手品のように左手に現れ即座に後ろに撃った。
パァンパパァン、カツカツーン
「ウソ!!弾に弾を当てた!CG?」
児島が急ハンドルで左右に車体を振り弾を避ける、一般に拳銃の弾丸速度はライフルで秒速約800m (マグナム弾は450)、大体音速の2倍のスピードと言われる、つまり撃たれてから動いていては本来遅いのだ、撃つタイミング、狙いを直感で予想して先読みして動かないとたちまち蜂の巣にされてしまう。
児島もキャメロンもその域に達している者同士だけにこのバトルは拮抗しているのだ、
当然だがそれに付き合わされる一般人?はたまったものじゃない、リカは持ち前の優れたフィジカルでいつむち打ちになってもおかしくない児島のラフなドライビングに必死に耐えていた、伊達に九星学院で生徒会長を務めていたわけじゃない、文武両道の精神万歳。
「ちょっ、児島さんもう少し優しく、く、首が……し、死ぬ」
横目でチラリとスピードメーターを見るが290kmの目盛りより針が下がる事はない、この
まだ夏子お母様の戦闘機よりはマシですけど、それでもいい加減車酔いしそうですわ!そんな事を考えていると児島さんがスカートの中から先ほどとは違うオモチャのような1丁の拳銃を渡して来た。グロッグ?カエルさんですの?
それにしても綺麗な脚ですわね、鉄郎さんが好きそうですわ。
「リカさんも撃ちます?」ニコッ
な〜んか黒さを感じる笑顔が怖いですわ。
「へっ、
「大丈夫、9mmだから反動も少ないですし、簡単簡単♪ストレスも吹っ飛びますよ」
「えぇ~~~!!」
鉄郎が過去に高嶺の花とまで言ったリカと児島の美少女コンビ(一人は中身がババア)だが、対するキャメロンも
「フフ、180マイル以上のコンバットスピードとは痺れるわねぇ、悪いけどこっちはニトロも積んでるんだよねっ!」
カチッ、キュィイイイイイイイイイイイイイイン、バシューーーーーッ!!!!
スキョキョキョキョ!!
ボンネットのスーパーチャージャーから薄ら白煙が上がり、メーターの針が200マイルを振り切り急加速する、シートに身体がギュッと押しつけられる。
仲間のバリモアが高回転型にフルチューンした350ユニットが悲鳴のような唸りを上げ児嶋達のポルシェターボに迫る。
600馬力のポルシェターボと500馬力のコーベットが互いのプライドをかけて加速する、もはやハイウェイを走る他の車はもうパイロンにしかならない、コブラのようにスラロームを繰り返しながらぶち抜いて行く。
「ふん、フラット6エンジンを舐めないでほしいですね、10秒だけブースト1.8に上げます!プラス100馬力!!」
「ひいっぃぃーーーーーーーっ!!」
ヴォァガァアアアアアアアアーーーーーーーー!!
横並びで加速する2台、リカの悲鳴だけがドップラー効果で後ろに流れて消えて行く。
ニューヨークの男性特区を囲む塀の上に、ロックコンサートで使うような巨大なスピーカーがズラリと並べられている。
一人のゴスロリ幼女が緑色の髪を揺らし、身体に不釣り合いな大きさの5弦ベースを持って歩いて来た。
コツコツコツ
バツンッ
カチカチカチ
ボン
ボンボン
ベギィィィイイイイイン、ィィィィン
アンプにシールドを突っ込むと歪み系のエフェクター・ファズのスイッチを無造作に入れる、音がぼやけるので初心者には向かないエフェクターだが翡翠はおかまいなしにアンプのボリュームをマックスに放り込む、キーンと軽くハウリングを起こすが納得したように頷く。
『全員、
頭に直接響く
それに伴ってご家庭のTVやPC、ラジオなどのチャンネル操作が出来なくなった。
だがすぐにゴスロリ衣装の幼女達に画面が変わる。
『5・4・3・2・1…』
翡翠の高く掲げられていた腕が勢い良く振り下ろされる。
ギュァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンーン!!!!
ギャギャギャ!!ボンブベキョベキョ!
強烈な爆音、増幅された音が共鳴現象を起こすとさらに増幅され、世界中に隙間なく大音量で鳴り響く、その衝撃波たるや各地の男性特区の窓という窓が砕け散るほどだった。
黒夢により電波ジャックされているためTV中継で世界中の音響機器が鳴り出し人々が耳を抑えた。
世界中に鳴り響く曲目はカール・オルフのカルミナ・ブラーナおお、運命の女神よ。
この時地球は一つの音楽に包まれた。
……………♪…♪
「何、この音楽?クラシック?」
「やだ、どこから聞こえるの」
「凄い荘厳なんだけど」
「この子達が弾いてるの?」
「えっ、世界の終わり?」
黒夢シリーズが奏でる楽器は翡翠のベースだけじゃない、チェロ、ギター、ドラム、銅鑼など多岐に渡る、それを完璧に時差のないタイミングでそれぞれ違う場所でセッションしているのだ、人々が皆立ち止まるのも無理はない。
そしてそれはゾンビも同じだった。
「はっ!このベース音は…」
アメリカから離れたイギリスのバッキンガム宮殿の門前では、突然鳴り響いた音楽に赤い服に黒い帽子で有名な近衛兵士グレナディアガーズの面々がキョロキョロと辺りを見回していた。
エリザベス女王は大層喜んでピアノのある音楽堂に走ったと言う。
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