第182話 エボラ財団

チャッチャラチャラチャチャラチャーーーン♪


カーステから昔流行ったカーアクションドラマの軽快なメロディを垂れ流しながら、真っ黒なポンティアック・ファイヤーバード・トランザムが時速300マイル?(約480km、そう言う設定なんだよ)で土埃を巻き上げひた走る。


オクラホマを越えると景色の色から緑が減ってベージュに変わった、広大なアメリカ大陸だけに気候が地域によって変化する。

地平線をボケーッと眺めながらパリバリと口の中に放り込んだプリングスを噛み砕く、パラパラと食べカスが高級そうな本革シートに落ちるがドライバーに気にした様子はない。


『プロフェッサー・エボラ、車内での飲食はもう少し優雅にお願いします』


機械音声の男性の声で注意されるが、エボラ教授はどこ吹く風だ。パワーウインドウで窓を開ければ乾いた風が車内に入ってくる。

ナイト財団の開発した車載用AIであるキッズは、貴子が開発した黒夢シリーズの異常なまでの性能に比べれば数段落ちるが、それでもルンバ改に近い演算力を持っている、そのおかげで免許も持っていないエボラ教授でも勝手に自動運転で目的地まで運んでくれる、そのうえ会話までしてくれる優れものだ。ぼっちにはうれしいので日産も見習って欲しい。


「そんな事より、後どれぐらいで着くんだ、いい加減この乾いた景色も飽きてきたのだがね」


『ご自分で運転してるわけじゃないんだから文句言わないでくださいよ、後2時間って所ですね』


「じゃ、着いたら優しく起こしてくれたまえ、キッズ」


『Yesマスター、よい夢を』


ガバァ!


寝たと思ったエボラ教授がいきなり起き上がり声を上げた。


「あっ、ついでだからラスベガスに寄ってスロットやっていこうじゃないか!」


『……』


どうせ勝てもしないのにとは優秀なAIであるキッズは言葉にしなかった、これが黒夢なら確実に言っていることだろう、ある意味コミュ力は優れている。








エリア51。

前アメリカ大統領メアリー・ブルックリンが密かに建設した実験機用の空軍施設だ、その昔はUFOだの宇宙人だのと荒唐無稽こうとうむけいでSFチックな噂話も数多くささやかれた場所だが現在はナイト財団と言う一企業が所有している。

ナイト財団と言えば世界でも第3位の巨大企業だ、ナイン・エンタープライズとは大きく差をつけられてはいるがそれでも世界有数の企業に違いはない。


ヴォヴォヴォ


エリア51を仕切る鉄条網に黒のトランザムが近づくと敷地を分ける赤白のゲートがガコンと音をたてて跳ね上がる、遠くに見える滑走路にはこれまた真っ黒に塗装されたC-17の巨体がちょうど舞い降りて来るところだった。

エボラ教授が滑走路まで来てC-17の黒い機体を見上げると側面にはチェスのナイトの駒が大きく描かれている、後部ハッチが開くと真っ赤なC3シボレー・コルベットとガルフカラーのフォードGT40がドロドロとV8サウンドのエンジン音を響かせバックで降りてくる。

さらに奥からシルバーのハーレーV-RODがやかましくアクセルを吹かしていた。

その作業を見ながらエボラ教授は満足気に大きく頷いた。


「よし!役者は揃ったな!これで加藤の奴に勝てる!」







場所は変わってシカゴ。

捜査本部の会議は続いている。ちょっと飽きてきた貴子が眠そうに口を開く。


「犯人の特定と所在なら30分もあれば出来るぞ、黒夢。姉妹、ルンバ、衛星全部使っていいからとっとと割り出せ」


「ラジャー」


指示を受けた黒夢がウニャウニャと変な踊りを始めた。暗黒舞踊?


しばらくすると黒夢が踊るのをやめた。おりょ、まだ10分も経ってないぞ。


「1年5ヶ月前の東京の男性特区のカメラにあやしい人物が映ってイル、解析、身長182cm、体重67kg、犯罪リストから該当者を検出、一致、その後の足取りを追ウ、地下鉄に乗った後、成田でアメリカ行きの飛行機に乗っタ、アメリカに着いてから古いコルベットに乗ってラスベガスに、そこでスロットで5万4800ドルを散財、男性を口説いてマス、現在は、あっ、居た、アメリカのエリア51」


すぐに黒夢の瞳が光って、スマホのスピーカーかから亜金あかねの声が聞こえてくる。本当に姉妹総出でハッキングしているらしい。


「黒夢姉様、その女ナラ半年前のタイとインド、イスラエルの男性特区の映像にも映ってマス、後、世界各地の男性特区デ何名か怪しい者がいます、現在、映像を解析中、42名の所在は特定しまシタ、指示があれば爆撃しますガ」


「ご苦労、次の指示があるまデ解析範囲を徐々に広げて索敵、漏らスナ」


「ほへぇ~、黒夢達って本当に凄いんだね」


素直に感心してしまう、黒夢もちょっと得意気に小さな胸をはる。


「現代はカメラに映らない方が難しい、衛星からの映像も合わせれば私達ニ死角はナイ」


なるほど、これなら世界中どこでも監視出来るのか。






明けて翌日。


ヴォイヴォイヴォイ、低いモーター音が響く。


場所はシカゴから北、マサチューセッツ工科大で知られるボストンに移る、ナインエンタープライズ極東マネジャーの巨大船、青龍のクレーンに吊り上げられた4つのコンテナが港に下される、真っ赤なコンテナの扉が開くと港にオォーと歓声があがる。

現れたのはパガーニ・ウライア・トリコローレ、世界で3台限定の7億円はするモンスターマシンだ、このマシンにはイタリアのパガーニ・ウライアにドイツのAMGが手掛けたV12エンジンが搭載され1tちょいの軽量カーボンボディを時速360kmで加速させる。濃紺のボディにサイドには赤緑白のイタリアンカラーのラインが入っていた、


「すいません、李マネージャー直々に届けてもらっちゃって」


「いやいや、今や皇帝となられた鉄郎さんの頼みとあらば、この李華琳どこでも駆けつけ致します」


僕が頭を下げるとチャイナドレレスに身を包んだ李マネージャーも深々と頭を下げる、まだこう言う挨拶には慣れないだけにワタワタしてしまう。


「鉄郎くんそんな奴に気使わんでもいいぞ、うむ、必要なマシンはちゃんと届いたようだな」


「ええ、ご注文の品確かにお届けしましたわ」




春子がパガーニのボンネットにそっと手を置きながら振り返る。


「悪いね、こんなの用意してもらって」


「大丈夫、あそこの社長とは友達だから、それに私はドゥカの方が乗りやすいから」


「一応AMGには最高のエンジンをと頼んでおきました、性能は保証します」


ジュリアが笑顔で自分のマシンのタンクをポンポンと叩き、ラウラは真面目な顔で敬礼しながら言葉を返した、今回春子は自身の愛車RX-7(FD)ではなくこのパガーニをジュリアとラウラの二人に頼んだ、より高い戦闘力が必要と判断したからだ、そこに資金を出してきたのがナインの李マネージャーだ、国を代表する二人に世界で一番の金持ち、それに世界最強が加わるのだオーバーキルもいいとこだ。



夏子はNSR、ジュリアはドゥカティ、春子とアナスタシアはパガーニ、児島と東堂はポルシェ、鉄郎はS2000、ラウラと黒夢はバベルの塔でお留守番となっている。

目を血走りながらアナスタシアとリカが哲郎の助手席を掛けジャンケンを繰り返すがその隙に貴子がS2000のナビシートに座ってしまう。


「ちょ、あんたは児島さんの車に乗ればいいでしょ!!」


当然リカは文句を言うが


「お前らじゃ戦闘力低くて鉄郎くんを守れないだろうが!」


「クゥー、この泥棒猫ですわ!」


「フシャー!!」


貴子が大人気なく髪の毛を逆立てた。



こうして両サイド、戦闘準備が整った、後は戦いのゴングが鳴るのを待つばかりだ。

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