第181話 やたらと主張してくるアメリカ
キュイイイイイイイイイイイイイイ
滑走路でアイドリングをしている漆黒の機体、開いた下部ハッチから乗り込むのは鉄郎、貴子、春子、夏子、児島、東堂、アナスタシア、ジュリア、シェルビーの9名だ。
シルバー仮面 (クレモンティーヌ)と
「ウヒョー、ジーザス!!鉄郎様とご一緒の飛行機に乗れるなんてもう死んでもいい!嬉しくてオシッコ漏らしそう!」
「死んでも漏らさないで!」
それほど広くないコックピット、一人はしゃぐシェルビーがやかましい、彼女にとって鉄郎は神と同格だけに同乗出来るだけでテンションマックスだ。イエス・キリストにあやまれ。
「うるさいぞヤンキー、くそっ、この機体の定員数いっぱいいっぱいなんて、もっとでかく設計すればよかった、ソーシャルディスタンスが保てんでわないか」
「貴子様、ミサイル格納庫なら空いてますがあのヤンキーはミサイルに詰め込んできますか?」
「児島。そうだな、あまりうるさいようならぶち込んでこい!なんならそのまま発射してもかまわん!」
アメリカ人にカミカゼ精神はない、その言葉にシェルビーがお口チャックのジェスチャーをした後に沈黙する。
B-2に備え付けられた10個のシートが珍しく全て埋まっている、なかなかに蜜な状態になっていた。米国オリジナルのB-2スピリットは本来二人乗り仕様だ、なので貴子が設計したこの機体は随分と大型化しているのだが、これ以上の大型化は戦闘爆撃機として機動力や旋回性に支障をきたす恐れがあるのでこのサイズに収まった経緯がある。
操縦席の黒夢の瞳がチカチカと青白く点滅した。
「ン、パパ、TV電話ガ入ってル」
「誰?」
「マイケルトミオカ」
「マイケルさん、なんだろう?繋いでくれる黒夢」
「了(ラジャー)」
コクピットの上部のモニターにマイケルが映し出される、ちょっと見ない間にまた痩せた感じだ、すっきりしてちょっと精悍な顔つきになっていた、おかげで最近チャンドリカの喫茶店で人気が出始めているがこの国でさらにロリコンを
そんなマイケルがモニターの向こうでいきなりガバリと頭を下げた。
『鉄郎くん、すまない!私のお婆さまが迷惑をかけて!』
「へっ?」
『ん、あれ?マイエンジェル
「あぁ〜、エボラ教授って人がゾンビウイルス撒いちゃってゾンビ映画みたいに、ってお婆さま?」
『ジョージ・エボラ教授は私のグランマの妹だ』
「…………」
鉄郎は昼間会ったエボラ教授を頭に浮かべた、芝居がかった仕草で高笑いをする姿が浮かんできて次にマイケルを思い出す、あぁ、そう言う血筋かとなんとなく納得がいった。マイケルに懐かれていた春子も知らなかったのか少しビックリした顔になっていたが。
『ん、どうした?黙り込んで』
「いや~、マイケルさんも苦労してるんだなぁと思って」
鉄郎のその言葉にマイケルはパァと瞳を輝かせる。
『わかってくれるか、そうなのだ、あのお婆さまは妙に芝居がかってしゃべってくるし、いつも嫌味を言われるのでちょっと苦手なのだ』
マイケルの隣で
『だが数年前から消息がわからなくなっていたのだが、今回のテロの首謀者がお婆さまとマイエンジェルに聞いて慌てて鉄郎くんに電話したのだ、私のお婆さまが迷惑をかけて本当に申し訳ない』
「ああ、大丈夫ですよ、なんか癖の強い人だったけど、あれくらい(の変態)は僕慣れてるから」
そう言って鉄郎は貴子に視線を向けた。
「?」
「それよりマイケルさん、エボラ教授を捕まえようと思ってるんだけどいいかな?」
『捕まえる?殺さないでくれるのか?』
「だってマイケルさんのお婆ちゃんならしょうがないじゃん」
『……鉄郎くん、恩に着る』
「いいって、友達でしょ」
モニターの向こうで目に涙を溜めながら深々と頭を下げるマイケルに人懐っこい笑顔を向けると、鉄郎は黒夢に出発の指示を出した。
「じゃ、行ってくるね」
『ああ、お婆さまを頼む』
鉄郎達を乗せたB-2スピリットはニューヨークから約1,190km離れたシカゴ・オヘア国際空港に向けて飛び立った。
所々煙が上がるニューヨークの街を眼下に、鉄郎はと言えばエボラ教授の乗っていたナイト2000が気になっていた、あの車本当に映画みたいに会話出来るのだろうか。
イリノイ州クック郡の都市シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐアメリカの3大都市の一つだ。超高層ビルが立ち並ぶ中にあって群を抜く大きさ高さを誇る白い巨塔、その135階の1室に煙草の煙?が立ち込めていた。なぜかブラウン管の古臭いTVの向こうではシカゴブルズの赤いユニホームを着た選手が豪快なダンクを決めて観客が大きな歓声を上げていた。神(マイケル)はそこに居た。
ゾンビ殺人?事件捜査本部、綺麗な筆文字で書かれた紙(春子著)がドア横に貼られた部屋で会議が始められた。
わざわざ汚ったない
ホワイトボードにはピースサインのエボラ教授の写真とマイケルの写真が容疑者としてマグネットで留められていた。
机の上にはGiordnanosのデリバリーケースに入ったシカゴ風ピザの代表格ディープディッシュ・ピザ、トッピングにはソーセージが乗せられている、深皿で焼かれたずっしりと厚みのあるピザをガブリと頬張りながら夏子が声を上げる。生粋のイタリア人であるジュリアはそれを見て嫌そうに顔をしかめる。ここはシカゴでナポリとは違うのだ。
「やっぱり
「そこんとこどうなの?貴子ちゃん」
「ん~、ウイルスの種類から見て分離させるのに数年、手間は掛かるけど戻せないこともないかな」
「おぉ、戻せるんだ!」
「私の計算上ではね、実際にやってみないとどうなるかわからないけどね、LCLの濃度調整は結構めんどーなんだよ」
ウエイトレス服に着替えた児島がローラースケートで近寄って来て、ステンレスコーヒーポッドから鉄郎のマグカップに深煎りコーヒーを注ぐ(アメリカ演出)、ちょっと苦目のコーヒーを一口飲むと安堵のため息をつく。
「そっか、でも貴子ちゃんがそう言うなら大丈夫だね、じゃあニューヨークの
部屋の隅でジミ・ヘンドリックスばりのブルースギターでレッドハウスをBGMに奏でていた
ニューヨーク男性特区前。
キュピーーン
「
ズコンとアンプにシールドを差し込むと右手を天高く
E7 (#9)、ジミヘンコードが翡翠のベースからゆっくりと奏でられると、ベースならではの低音がスピーカーからベキョベキョと溢れ出す。
いきなりベースを弾き始めた翡翠に、その隣でFBIに指示を出していたシルバー仮面が慌てる。
「お、おい、何をするんだ!」
「フフ、哀れなゾンビ共、私の魂のブルースを聴くがイイ」
ガッキャーーーーーン!!
ニューヨークの街に重低音のパープルヘイズのメロディが鳴り響く。
尚、アンドロイドに魂が有るかは知ったことではない模様。
シカゴ、バベルの塔に戻る。
「まぁ、戻せるならそれに越したことはないか、これ以上人口減るのも困るしね」
夏子がグラスの氷をカラカランと鳴らして琥珀色のワイルドターキーを飲み干した。執拗なアメリカ演出描写にあざとさを感じる。
「そうだね、でもエボラ教授はどうする、マイケルのお婆ちゃんなんだろ」
春子がフゥーと紫煙を吐き出すとキャメルを灰皿に押し付けて火を消す、春子お前もか!
「出来れば殺さない方向でお願いできるかな」
「いいんですの、あの人(エボラ教授)やってることはかなり酷いですわよ」
リカがちょっと心配そうに鉄郎を覗き込む。
「流石に友達の身内を殺すのはね、それにそんなこと言ったら……」
「ん?」
隣でコソコソと312ビールを飲もうとしていた貴子と目が合う。不思議そうに首をポキュリと鳴らして傾げた。アメリカの飲酒年齢は21歳です。
こんな時でもいつも通りな貴子を見て鉄郎も少し肩の力を抜いた、そう、戦いは始まったばかりなのだ。
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