第180話 窮鼠猫噛み、いや油断大敵?
「ハァハァ、それにしてもあの世紀の天才科学者である加藤貴子が、今やこんな色ボケのちんちくりんとは、あぁ、時の流れは残酷というものですね」
エボラ教授が顔を手の平で覆い
「むっ、馬鹿にするな、私は昔からこんなもんだぞ、私の科学力は常に鉄郎くんへの愛の上に成り立っているんだ!」
「ねえ~、どうでもいいけど、あんたは何がしたいわけ、アレってあんたの
貴子ちゃんとエボラ教授の言い争いが続くなか、お母さんが割り込みをかける。お母さんが向けた指の先、バリアの中ではゾンビさん達がいまだうようよと動きまわっている。ふむ、やっぱりあのゾンビさん達の発生にエボラ教授が関係しているのか?
「フフ、そうだったな、私としたことがライバルとの再会に少々興奮していたようだ、つい話が脱線してしまったな。その通り、あのゾンビ達を生み出したのは私の開発した新薬だ!フフこんな
「あ、やっぱり貴子ちゃんの仲間だ」
「失敬だな鉄郎くん、私は男しか滅ぼそうとしなかったぞ」
人はそれを目くそ鼻くそを笑う或いは、五十歩百歩…。
「フフン、つまり、両方に対応してる私の方が優れた科学者と言うことだね」
「はぁ~?脳みそゾンビに食われてんのか、私だって人類滅亡くらい出前を取るより簡単だぞ、ちょちょいのちょいだ、やってやろうか!」
「ちょっ、貴子ちゃん、携帯出して何しようとしてるのかな?」
「ハッ。 はっはー、サイエンスジョークだよ、やだなぁ、鉄郎くんジョーク、ジョーク」
いやいや、目が結構マジだったぞ、なんでこんなに沸点が低いんだ貴子ちゃんは、危うくこの物語が最終回(バットエンド)になりかけたじゃないか。
その貴子ちゃんに張り合うように歯噛みするのはエボラ教授だ。
「グヌヌ、天才だからって私の薬を馬鹿にするなよ、ゾンビウイルスの感染力は1年もあれば全世界に広まるほど強力なんだぞ」
「タブン本当。空気感染ジャナイカラ、大体その位のスピードだヨ、正確ニハ13ヶ月と10日」
黒夢がエボラ教授の言葉を補足してくれた、たぶん凄いんだろうけど普段から貴子ちゃんを見て来たからかあまり恐怖を感じない、貴子ちゃんならば1年もあれば確実に止められるだろう。けど……。
「でもこのバリアでゾンビさん達は外に出られなくなったんじゃないの?世界には広がらなくない?」
単純に思いついた事を教授に言ってみた。
「フン、ご心配めされるな陛下!この天才エボラ、そんなこともあろうかと世界中の男性特区に仕込は済ませてあります!男性特区から広がれば女どもには阻止しずらいからなハーッハッハ」
「ほ〜ら、やっぱり貴子ちゃんの同類だ」
「私あんなに性格悪くないもん、私の場合は空気感染だから誰であろうと100%防ぎようがないもん」
「あっ、貴子ちゃんの方がタチが悪かった」
お母さんが珍しく?殺気を放ちながらエボラ教授に問いかける。あ、やっぱ珍しくはないわ。
「じゃ、あんたを
「あたりまえだろう、
「ふ~ん、黒ちゃん、世界中の男性特区を今すぐ閉鎖して」
「了解(ラジャー)」
「ええっ!!困るよお母さん。せっかく男性特区を解放しようとしてたのに」
「大丈夫、お母さんは鉄くんさえいればなんの問題もないから」ニコッ
「うわぁ、一番危ない人が身内にいるの忘れてた!」
「貴子、あのおばさんに聞いとく事ある?無ければ
そう言ってお母さんは腰を落として刀をスラリと抜いた、瞬間その場の空間が歪んで見えるほどの殺気が溢れ出す。
悪・即・斬、いつもの居合じゃない、刀を持った片手を後ろに構えた突きの姿勢、斬るんじゃなく突くのか。ゴクリ
「ちょっ、待て待て!今日は挨拶しにきただけだ、いきなり殺そうとするな!この野蛮人め!」
「うふ、心配いらないわ、眉間のあたりがちょ~とチクッとするだけだから、お注射より痛くないわよ~」
嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべるお母さん、貴子ちゃんはポンと手を打つとエボラ教授に顔を向けた。
「あ~、え~とエバラ教授だっけ、ベースはリッサウイルスとして、MERSとRSの比率は?」
「誰が焼肉のタレだ!そ、そ、それにそんな重要な事を貴様に教えるわけないだろう!!」
貴子ちゃんの言葉にエボラ教授がわたわたとしながら口を滑らす、うん、言ってる事はよくわからんが重要な事なのはわかった。
それにしてもわかりやすい人だ、裏表なさすぎて友達いなそう。
「じゃ、もう
「OK牧場」
ダンッ
貴子ちゃんがOKマークを手で示すとお母さんが勢いよく飛び出す。速っ!
「くっ、魔王対策くらいしてるわ!!」カチッ
エボラ教授の白衣の下、背中からアームのような物が出て来て教授の前面にギュイーンと突き出される、空気バリアだけじゃない物理的なガード。
その姿はまるで蜘蛛のようだ。
お母さんはそれを見てもおかまいなしに突きを放つ。
ガッツーーーーーーーン!!
エボラ教授のなんかめっちゃ硬そうな金属製のアームについたサスペンションがギシギシと
「フフ、どうよ!!って、えぇ~っ!!」
メキャ、メキョ、メキョキョ、グバキャッ!
止めたと思った刃が尚も突き進む、耐えきれなかったアームとサスペンションが弾け飛ぶ。
「くっ!嘘でしょチタン製なのよ、この化け物め」カチッ
ボヒューッ!!
悪態をつくエボラ教授の靴から白煙が噴き出す、まったく次から次へと、とっさに貴子ちゃんに手を引っ張られ引き寄せられる、何ぞと思うも貴子ちゃんのバリアの中に包まれたのがわかった、煙は遮断されるが辺りは真っ白になって視界が悪い。
その煙幕の所為でエボラ教授の姿を見失う。
「ちっ、逃すか!!」
ピューーーーイ!
「口笛?何かの合図?」
煙が晴れた時にはエボラ教授はもうその場には居なかった。壁の下には1台の黒い車が走り込んでくる。
「あっ、居た」
バタム!ギャギャギャギャーーーーーッ!!
「クッソー、これで勝ったとおもうなよぉーーーーーーーーっ!!」
走り去る真っ黒なポンティアック・ファイヤーバード・トランザム、ボンネットの先では赤い光が左右に流れている、どうみてもナイト2000です、かっけー!
ナイトライダーか!?あの教授もマイケルなのか!!
「フム、このメンバーを前にして逃げれるだけでも、油断出来んな」
婆ちゃんやお母さん、あの二人が仕留められなかった事実、それだけにアウラさんがぼそりと言った一言が妙に心に刺さった。
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