第179話 伝染する狂気

「ジャ、ヤルヨ」


貴子の命令で万歳の姿勢をとった翡翠ひすいの瞳が青白く点滅する、自身のAI(アーティフィシャル・インテリジェンス)を人工衛星にリンクさせるとニューヨークから約1,190km離れたシカゴに打ち込んだバベルの塔アメリカシカゴ支店を起動させた。


急にヴヴヴンと音をあげて震える白い巨塔にシカゴの住民が超ビビる、そりゃこんな巨大建造物だ、まだ慣れないだけにおっかなびっくりなのは仕方ない。ミシガン湖に映る巨大な塔が蛍光管のように徐々に発光しだすと爆発を恐れたのか皆一斉に塔から離れようと駆け出す始末だ。

当然だがシカゴから遠く離れたニューヨークに居る鉄郎達にとってその光景は知るよしもない。


大電力の電磁波の放出によってシカゴの上空に虹色のオーロラが発生する、その美しく輝く空に逃げ出そうとしていた人々が足を止めしばし魅入られていると、次は何本もの稲妻が街を襲う(正確には電力施設にだが)。街中が地鳴りのようにゴゴゴと空気が震え、街灯の灯りが勝手に点灯する、余剰電力で帯電した空気の所為でで通電したらしい。(まだ配線も設置出来てないのに出力を上げたので勝手に通電した)


そしてそのシカゴから1,000km離れたニューヨークにも。


「来ル」


黒夢が空を見上げながら呟く。


バチッバリバリバリバリッ!バッシャーーーン!!


突然目の前に電気の壁が出現する、思わず手を伸ばそうとするが貴子ちゃんに止められる。


「鉄郎くん、まだ安定してないから触っちゃだめだよ、ビリビリーってなって死んじゃうよ」


「ヒッ!!」


伸ばそうとしてた手を急いで引っ込めると、貴子ちゃんに説明を求める視線を送る。


「電磁バリアでこの特区を封鎖させたんだ、本国の1号機と違って遠隔なうえ調整不足だから1時間は安定しなくてちょっと危ないかな」


「バリア?本国? あぁ、クリスティーヌさん達が撃ったミサイルを空中で防いだっていうアレ、僕は見てないけど」


特区の中で壁に近づいたゾンビさんが光った後に倒れた、それを見たゾンビさん達がクルリと身を返して近づかなくなる、かしこいぞ。あの倒れたゾンビさん大丈夫なの?

あっ、立ち上がった、良かった~。


「まぁ、これで感染が拡大する事はないでしょ」


「えっ、まだ感染してない人が中にいるんじゃ?」


「そこまでは知らないよ、それにあれ、発症しちゃうと戻せそうもないし感染の判断は見ただけじゃわからないよ」


貴子ちゃんが黒夢が捕まえて来たソンビさんを見て言った。マジか。





パチパチパチパチ!


「ハッハー、流石は、世界最恐のテロリストだ、言う事が違うねぇ~」


拍手と共に後ろから声がかけられる。振り返ると黒夢を挟んで白衣の中年女性がニヤニヤと笑顔で立っていた。

いつの間に、思わず貴子ちゃんと一緒に首を傾げる。


「「誰?」」





「お初にお目にかかる皇帝陛下。私はこのアメェリカで科学者を名のる、ただのしがない天才です」


ペコリと深々と芝居掛かった礼を取る白衣の女性。どこか貴子ちゃんに似た雰囲気を感じる。この人やばそうだな。


「貴女、エボラ教授……」


「んん、誰だお前は?」


児島さんが白衣の女性を知っているのか、僕の前に割り込んできた。ん、何か空気が重いぞ。


児島鈴こじまりんですよ、お忘れですかエボラ教授」


「んぅん児島ぁ? あぁ!悪魔サタンの手下の怪物女(モンスター)か、なるほど貴様も若返っていたのか、流石は悪魔だ、もう何でもありだな!ハーッハッハ」


手の平で顔を覆いながら高笑いを始めるエボラ教授? 貴子ちゃんの知り合い? 貴子ちゃんを見ればまだ首を傾げている。


「誰だっけ?」


「はぁぁ~、貴様、ライバルである私を忘れたか!!」


「知らないよお前なんか、誰だよ」


「うぐっ」


あっ、orz。プルプル震えてる。すかさず児島さんが僕に耳打ちしてくる、ちょっとくすぐったい。


「まぁ、エボラ教授はいいとこ私のライバルぐらいの科学者ですからね、覚えていなくてもしかたないかと、貴子様の足元にも及ばない下っ端科学者ですから」


「あ~、そうなんだ」


貴子ちゃんを見て納得する、この娘本当に人の名前覚えられないんだな。



ジャリ


「おいおい、マッドサイエンティスト同士の同窓会なら世界の隅っこでひっそりやってくれないかい、カタギの人間にとっちゃいい迷惑だよ」


「婆ちゃん」


愛刀来国長を肩でトントンと叩きながら一歩前に出てくる、ん、雰囲気がいつもと違うぞ、殺気立ってる?


「婆ちゃんもあの人、知ってるの?」


「貴子のせいで目立たないが、世界で2番目に危ない細菌兵器の科学者だからね、最近名前を聞かないなと思っていたがまだアメリカに居たのか?」


「フフフ、武田春子まで。ハハ、前のメアリー大統領と違ってシェルビーちゃんはお前達と戦う気が無いみたいだからね、私がアメェリカを代表して勝負を挑ませてもらおうか」


カチリ、バヒュ


エボラ教授がバサリと白衣をひるがえし手にした何かのスイッチを押した。次の瞬間教授の身体が半透明な霧のようなもので包まれる。


「あーっ、それ私のバリア!!」


貴子ちゃんが珍しく大声を出して教授を指差した、えっ、貴子ちゃんのバリア?


「フフッフ、貴様に作れたものを私が作れないわけないだろう、まさかこんなバリアを纏ってるとは思わなかったがね」


「なんか私のより透明感がないな」


「うっさいな、その分防御力はコッチの方が上だ!!計算上密度がコッチの方が高いんだよバ~カ!!」


言い方、子供か、ますます貴子ちゃんの同類だ。


ピョウ


婆ちゃんが一瞬で間合いをつめて逆袈裟で斬りかかる、しかしその刃は教授の身体を捉えられない、纏う霧がまるでこんにゃくのように刃を包んで軌道をそらす。


「……」


婆ちゃんがびっくりした顔で自分の刀を見つめている。おぉ!凄い、あの婆ちゃんが斬れなかった。けどエボラ教授も吃驚した顔してるぞ。


「フ、フフフ、ど、どうだ、あの人類最強の武田春子でも斬れないぞ、し、しかしいきなり斬るのはやめろよ、吃驚するじゃないか!!」


「斬れないなら殴ればいいのよ!!」


今度はお母さんが笑顔で殴りかかる、おいおい武田の親子は喧嘩早いな。


「なっ!!」


ドムッ!


「おっ!?」


「なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


お母さんの抉りこむような右ストレート、ボムンとゴム毬を殴ったような音をたててエボラ教授が壁に向かって吹っ飛ぶ、だけど特区を覆う電磁バリアに跳ね返される。その激しい揺れに生身の人間が耐えられるわけがない。


「うっげぇーーーーっ!」


あっ、ゲ○吐いた。きちゃないな。

貴子ちゃんがそんなエボラ教授を見下して口を開く。


「はっ!愚かな科学者だ、愛が足りないんじゃない?」


そんな功夫(こんふー)が足りないみたいに言われても。


「う、うるさいどチビ、小学生になった貴様に何がわかる!!」


「へっへーん、私にはもう婚約者がいます~!!しっかも超かっこいいで~す!」


「くぅ~、このおマセさんめ!!リア充の科学者なんて死ねばいいのに!」



貴子ちゃんとエボラ教授が子供みたいな言い合いを始めた。隣の児島さんいに聞いてみた。


「科学者の人って皆んなこんな感じ?」


「失礼ですよ、鉄郎様。あんな連中と一緒にされては、科学への冒涜です!」


「あ、ごめんなさい」


児島さんに冷たい目で睨まれた、どうやら貴子ちゃんやエボラ教授が特別らしい、ちょっと安心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る