第178話 閑話 姫はじめ
20XX年1月。
「あけまして、おめでとうございま~す!!」
年が変わって新年、長野にいた頃と違い雪かきをしたり寒さに身を縮こまらせることもない、常春の鉄郎王国である。
バベルの塔と言う馬鹿でかいアンテナがあるおかげで世界中のテレビ番組が見れる居間には大型テレビが置かれ、朝から大勢の者が集まってお
(本来、お屠蘇とは山椒の実や桔梗の根などの薬草を漬けた酒の事だが、家ではそんなの飲んだ事ない、日本酒を普通にお屠蘇と言ってますね。)
まぁ、大晦日である昨日の夜も普通に飲んではいたが。
TVではお笑いタレントの女性が凄い勢いで餅の早食い競争をしている、実に平和だ。
「鉄君、鉄君、日本には姫はじめと言うと〜っても大事な行事があるんやが知っとる?」
僕がみかんの皮を剥いていると真澄先生がやってきた、何やら真剣な顔で何を言い出すかと思えば、貴子ちゃんみたいな事をほざいた。これだから酔っぱらいは、これはまともに相手しないほうがいいか。
「あ~柔らかく炊いたお米を食べるんだっけ」
「いややわ~、鉄君。そないなボケかましてぇ、新年最初のエッチのことやないの、日本じゃ常識やろ、ウププ」
「ここは日本じゃないよ」
ちょっと冷めた目で見つめるが、住之江に堪えた様子はない。酔ってやがる。
「せやけど心は日本人やんか」
真澄先生は大阪弁で話しているため、アナスタシアさんやジュリアさん、クレモンティーヌさんは「何語?」と理解が追いつかないのか首を傾げている、でもお母さんや李姉ちゃんは耳ざとく隣にすすすっと寄ってきた。
「何々? 面白そうな話してるわね、エッチな事ならお母さんも混ぜなさいよ」
「いや、これ夫婦の話やから、家族の方々は向こうへ行っててくれへんかな」
チャキリ
「はぁ~、随分と大きな口叩くようになったじゃないの、
真澄先生の首元に突然現れる刀の切っ先、抜いた瞬間がまるで見えなかった。
「しょ、正月から
「いやね、かわいがってるだけじゃない」
「相撲部屋か!」
(意外かもしれませんがこの世界でも相撲は有ります、女子相撲ですけど)
チョンチョン
「ん?」
真澄先生とお母さんのやりとりを見ていると、袖を引っ張られる。そこには東堂会長が上目遣いで僕を見ていた、心なし顔が赤いような。
「ウフフ、鉄郎様、あんな人達は放っておいて私の部屋で飲み直しましょうよ~」
「あ、こら東堂、抜け駆けすなや、いてまうぞわれ!!」
「きゃ~!住之江先生こわ~い、鉄郎さま~」
僕の腕に抱きついてくる東堂会長、これは。
「誰か、会長にお酒飲ませました?」
「あ、
あ~、京香さんだったか、東堂会長お酒弱いのかな?
「鉄郎さま~、会長なんて他人行儀な、婚約者なのですからリカとお呼びくださいまし」
おわぁ、会長の綺麗な顔がキスするくらい近くに。うみゅ、お酒くちゃい。
「京香さん何飲ませたんです?」
「へっ、ウォッカをストゼロで割ったものですわ、意外と口当たり良くて飲みやすいですわ」
それ、初心者にはレベル高いんじゃないかな、度数いくつだ。このままじゃなんだし会長は寝かしてくるか。
「はーい、会長。お部屋でおねんねしましょうね」ヒョイ
会長の背中と足に手を回して横抱きにして立ち上がる。
「へっ」
「「「あーーーーーーーっ、お姫様抱っこぉ!!会長ずっこーーい」」」
「うわっ!」
皆して一斉に僕と会長に群がってくる。
ちなみにリカは一気に酔いが覚めたが降りようとは決してしない。
「い、いや違うって、会長を部屋で寝かしつけようと……」
「そのまま姫はじめかい!させへんぞ、そんな羨ま、いや破廉恥なこと!」
真澄先生に詰め寄られ、藤堂会長にはぎゅーっと抱きつかれどうしたもんかと迷っていると。
「やっぱここは皆、平等にチャンスを与えられるべきよね」
ジュリアさんがワイングラス片手にバイーンと胸を張って主張する。
「「「「賛成ぇーっ!!」」」
「鉄郎さまもそれでよろしいですね」
いつの間にか隣にいた児島さんが抑揚のない口調で聞いてくる、これは頷かざるをえない状況かな。
だが鉄郎はわかっていない、そんなものを賭けられた女の執念を、その結果がどうなるかなど女性陣には分かりきっていた。
臨戦態勢に入った面々、ピリピリとした空気が場を満たしていた、基本戦闘力が高い連中が集まる鉄郎王国だけに、まるでそこだけ空間が歪んでるかに見える。怖いんですけど。
「じゃ、じゃあ、武器無し、殺し無し、致命傷は避けるってことで、皆さん怪我のないよう穏便にね」
カーーーーーーーーーーン!
鉄郎がゴングを鳴らすと皆真っ先に夏子に襲いかかる、バトルロイヤルはまず強い者を先に潰すのが定石なのだが。
ズガッ、バキョ、スドム!!
2時間後。
「しゃーーーーっ!!舐めるなよ小娘共、鉄くんとのエッチは絶対に譲らんぞーー!!」
積み上げた屍の山の上で夏子が勝どきの声を高らかにあげた。大人げない以前に母親としてどうかと思われる。
「お母さんとするわけないでしょーーっ!!」
「じゃ、鉄くん行こうか」ニコッ
「えっ、ちょっと、お母さん、どこ行くの?えっ、えっ、えぇーーーーー!!」
夏子にずるずると引きずられて行く鉄郎、涙目で助けを訴えるも春子は酔いつぶれて寝ており、他の者もすでに立ち上がれる者は残っていなかった。
黒夢はにこやかに手を振っている。
本当に新年早々、何をやっているのだか。
※なろうの時は正月投稿でした(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます