第175話 角出せ、槍出せ、頭出せ。

「あ、そうだ鉄君、次はアメリカに行ってもらえる?」


「あ、そうそう、そうですの。鉄郎さん、北米でシェルビー大統領に頼まれましたの」


「何を?」


思わず首を傾げる。

宮殿見学を終え休憩がてら庭に戻る、ラウラさんが持ってきてくれたソーセージを頬張っているとお母さんに話しかけられ、東堂会長がそれにのってきた。本当に美味いなこのドイツソーセージ。


「何か、ニューヨークの男性特区の男共がデモを起こしたらしいのよ、まったく普段は働かないくせにこんな時ばかり頑張っちゃって、本当に馬鹿じゃないの、死ねば良いのに」


「きっと、鉄郎さんの存在に危機感を覚えたのですわ」


「どういうこと?」


「だってこのままでは、鉄郎さんに自分達のパトロン全部取られてしまいますもの」


「僕しないよ、そんなこと」


「鉄君、人には色々な考え方があるの、何でも自分基準で考えちゃだめよ」


お母さんが抱きついて来て耳元で呟く?くすぐったいからやめて。 それにしたって男性がデモって、そんなに人数多くないだろうにアメリカ軍で鎮圧出来ないのか?


「爆弾でも作ろうか?」


「貴子ちゃん、その、すぐに簡単にすまそうとするのやめようよ」


「いや、鉄くん、どんな綺麗事を言おうが、最後にものを言うのは暴力的な力だからね」


「物騒な世の中だ」


「鉄郎様、この時代の女性は男性に嫌われるのが恐怖で攻撃的な態度など取れません、きっと、だからこそ鉄郎様が呼ばれてるのではないですか」


「私だったらすぐに黙らせてあげるよ、そんなゴミ虫」


考え込んでいた僕に児島さんと貴子ちゃんも会話に混ざる、だがコメディだからゆるく流されているが、貴子ちゃんはれっきとした大量殺人犯の前科持ちだ、もう危険な発言はやめてもらおう。


「ちょっと、次はイタリアに行くんでしょ!ミラノのピッツァとジェラートを絶対に鉄郎君に味わってもらうんだから!」


「本場のピッツァ…ゴクリ」


あらいやだ、僕ともあろうものがはしたなくもジュリアさんのピッツァという言葉に反応してしまった、これじゃあ食いしん坊だと思われてしまう(今更)、でも本場のイタリア料理は是非味わってみたい、思わずすがるようにお母さんを見つめてしまう。


「チッ、パルマハム(生ハム)もつけなさいよ」


「あら、義理母おかあさまにはフランチャコルタ(スパークリングワイン)の上物もつけてあげるわよ!」


ジュリアさんが大きな胸を張ってふふんと鼻を鳴らす、こういう仕草が凄く似合う人だよな。


「じゃあ明日はイタリアで、その次にアメリカだね」


ふむ、アメリカだったらやっぱりステーキとかハンバーガーのイメージだよな、いかんいかん、これでは本当に食べ歩きツアーになってしまう。

目的はテロを防ぐ為、あれ?デモだったっけ。









一般的にスターと呼ばれる者には、人を惹きつける何かがある、それは決して外見に限ったことではない、例えば地味な私服姿で街中をただ歩いていたとしよう、たったそれだけのことですらスターと言う存在はすれ違いざまに振り返りられ首を傾げられたりする。


鉄郎はこの世界で希少な男性というだけでなく、体格、器量ともに王子様と呼ばれる素質満載である。

当然その存在はそんじょそこらのスターなんて比べるべくもなく、圧倒的な存在感を示す、だが本人が小さい頃から周りに女性しかおらず、常に自分に向けられる視線には慣れっこになっていた、おかげで街中を歩くだけで行列が出来ていてもさして不思議に思うことなく自然体を保っていた、まぁ、そんな態度も原因で雪だるま式に信者を増やしている現状、今や新興宗教の教祖と言えた。

ヴェルサイユを出ると、どこからともなく集まってくる人々がそろぞろと鉄郎達を先頭に行列を成す、これには陰から警備している者達も気の抜けない事態となる、まぁ対象の周りに世界トップクラスの武力の持ち主がぞろぞろといる事だけが救いだ。






僕達は黒夢のB-2が停めてある凱旋門近くクレベール通りのホテル、ホテル・ラファエル パリに今夜は泊まることになった、目の前に凱旋門、ちょっと向こうにエッフェル塔が見える、そう言えば黒夢は戻って来てるのかな?

いかにも格調高そうなロビーにシルバー仮面さんを先頭に入ると、執事服のような格好のコンシェルジュのおばさんが深々と頭を下げる。


「ようこそ当ホテルへ、皇帝閣下をお招きできることをとても光栄に思います」


うわ、もう皇帝呼びだよ。さすが高級ホテル、そつがない。


「皇帝閣下、当ホテルは全部屋装いが違っています。ご自分でお部屋をお選らびになられますか」(これは今夜は鉄郎達で貸切にしてる事を意味している)


「えっ、そうなの凄いね」


「オススメとしてはテラススイートですね、こちらですとエッフェル塔がお部屋からよく見えますよ」


部屋の写真を見せて貰えば確かに内装も間取りも各部屋で違っている、迷っているとコンシェルジュさんがオススメを紹介してくれた、僕はエッフェル塔がよく見える部屋にしてもらった。それにしてもヴェルサイユ宮殿に寄ってなければ、気後れするほど豪華なホテルだ、まるで貴族にでもなった気分だね。




コンコン


お、誰か来た。

部屋で休んでいるとノックの音が聞こえた、誰かと思えば黒夢がドアの前で立っている、公園から帰ってきたのか?

説明会ご苦労さまと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めてもっと撫でろとばかりにすり寄ってくる。




「パパ、はい、お土産」


「おっ、エッフェル塔の置物、東京タワーと同じようなの有るんだね」


「ソレ変形してロボにナル」


「超合金魂か!おー、かっけぇ!!」





どうやら黒夢は夕飯のお知らせに来てくれたらしい、ホテル7階のテラス席に行くと皆がもう席に着いていた、パリの夜景とライトアップされたエッフェル塔がキラキラと輝いていてとても綺麗だ。


「おまたせ、ここは夜景が凄く綺麗だね」


「B-2をあそこに停めちゃったからな、近い方が明日の出発が楽だろう」


シルバー仮面さんが凱旋門の隣に停まってる黒い機体を見ながら呟く。あれって駐車違反にはならないのかな?


「まぁ、一月ぐらい滞在できれば私としてももっと色々な所を案内できるのだが」


「クレモン…、皇帝閣下はお忙しい身だ、無理を言うな」


「なんだと、このキャベツ野郎!」


「ザワークラウトをバカにするな、めっちゃ美味いだろうが!」


いつの間にか煽れんばかりのザワークラウトにソーセージを挟んだホットドックを手に、ラウラがシルバー仮面に噛み付く、他国の食文化をバカにしてはいけません、特に日本人は気をつけないとマジで喧嘩になります。


さて食事だ、シルバー仮面さんがフランス中から料理を取り寄せたらしい、無駄にしたらシェフさんに申し訳ない、心して食さねば。もったいない精神は日本人の美徳だよね。

前菜としてエスカルゴ、パセリやニンニクが入ったバターソースが実に香ばしい。


「美味いなカタツムリのくせに」


しかしフランス人はよくカタツムリなんて食べようと思ったな、けど日本もタニシ食べるから一緒か。食文化大事。

その後、鴨のコンフィ、鯛のポワレ、ビーフブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)と続き、

最後はラクレットチーズをかけてもらったフランスパン、正直、これが一番うまかった。フランスのチーズ美味い!

締めのデザートにはクリームブリュレと、とても満足感が強い夕飯(ディナー)だった。

しかしフランス料理は素材の味よりもソースの主張が強い、これは逆に素材の味を活かす和食に馴染んだ僕には新鮮な驚きだ、国に帰ったらこのソースの味の再現にも挑戦してみよう。


「どうだろう満足いただけたかな、我が国の料理は?」


シルバー仮面さんが自信満々で聞いてくる、自国の料理に絶対の信頼を寄せているのだろう、実に誇らしげだ。


「うん、美味しかったー、こういう時ってシェフさんを呼んだ方がいいんだっけ?」


「おお、それはシェフも喜ぶ!是非とも声をかけてやってくれたまえ」



しばらくすると高いコック帽をかぶったおばちゃんが緊張した様子でテーブルまで歩いてきた、安心していいよ怒ったりなんかしないから。


「ほ、本日の料理を作らせて頂いたロブショアと申します」


おばちゃんが深々と一礼する、見事なお辞儀、日本人なれしてるのかな?


「凄く美味しかったです、特に鴨のコンフィ、あのオレンジソースは日本料理にはない発想で驚きでした」


「おお、わかって頂けましたか、あれは私としても自信の一品でございます」


僕の感想に笑みを浮かべるおばちゃんシェフ、料理の道は実に奥が深い、もっと世界の料理を味あわねば。


「次にフランスに来た時も、またお料理を作って頂けますか」


「もちろんでございます。このような大役、他の者に譲るわけにはいきません」


ありゃ、おばちゃんシェフさんのスイッチが入っちゃたか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

一流職人の自負に煽れた笑み、これは次に来る時が楽しみだね。

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