第174話 焼肉焼いても家焼くな
「はぁ、はぁ、た、助かりましたわ、ありがとうございます」
セーヌ川に落ちた東堂会長を
「東堂会長、大丈夫ですか?」
僕は駆け寄って声をかけるが、東堂会長は青い顔でへたり込んでいる、どこか痛めたのかな。
「はぁ、はぁ、夏子お母様にいきなり空に放り投げられた時は死ぬかと思いましたわ、それにここに来る途中でも旋回する度に首がなんどもグキッと、途中でどこかの空軍に撃たれた時なんか、こうグルングルン回って意識が……連続でバンジージャンプをしている気分ですわ」
「うわぁ〜、それはきつい」
「武田の嫁になろうって者があれぐらいでギャーギャー
お母さんが僕の腕に抱きついてくる。
「いや、お母さんの運転はスピード出し過ぎだから、僕も吐いたことあるし」
「鉄郎くん、お母様の乗ってきたのって私がフルチューンした戦闘機だからね、車みたいな感覚で言わないで」
(一般的に戦闘機の旋回時には5Gの負荷がかかると言われている、体重60kgならば300kgに感じる、そう考えるとこの程度で済んでるリカのスペックの高さが伺える)
貴子ちゃんが僕とお母さんの会話に呆れている、もう、お母さんのせいで貴子ちゃんなんかに呆れられちゃったじゃないか。(何気にディスられる貴子)
この会話を聞いていた観衆の反応と言えば。
「えっ、あの東洋人、あれが神のお母様、つまりマリア様、黒髪が素敵だわ」
「たしかマリア様って、この前の嫁取りバイクレースでイタリアの首相と競ってたわよ。凄く速いの、最後は僅差で負けちゃったけど」
「イタリアの首相ってレーサー上がりでよくスピード違反でよくニュースになってる人でしょ、プロじゃない」
「そんなのと接戦って、流石、神のお母様だけのことはあるわね」
「それより、あの川に落ちた娘、マリア様に嫁とか言われてなかった?」
「「「空耳よそんなの(怒)」」」
「と言うか、あの戦闘機2人も降りたら無人なはずだけど、どうやって帰ったの?」
「さぁ、グレムリンでも乗ってたんじゃない」
ざわつく観衆の声にお母さんがふふんと鼻を鳴らす、フランス語わかるんだ。僕なんか貴子ちゃんの翻訳機がないと会話できないのに。
「鉄くん聞いた?私のこと聖母マリア様だって、わかってるわねフランス人」
「えぇ〜、鉄郎くんは神じゃないよ、私の旦那様だよ〜、フランス人なんかに分かるわけないよ」
お母さんの言葉に貴子ちゃんが頬を膨らます、確かに神様扱いはやめてほしい。しかし、お母さんの登場でなんかぐだぐだになっちゃったけど、いい加減この場を丸く納めないといけない、さてどうしたもんだろう。
「ねえ、貴子ちゃん、そろそろおひらきにしたいんだけど、どうしよう?」
「歌でも歌ってしめれば、皆んなチンパンジーみたいに手を叩いて喜ぶよ」
「えっ、そんなんでいいの?凱旋門も近くにあるし、うまひょい伝説でも歌う?」
「いや、ロンシャン競馬場は近いけど、あの歌は…バキューンってやられちゃうから色々危ない」
ふと頭に浮かんだ凱旋門賞で思いついたんだけど、今はあのノリは受けないか?僕は嫌いじゃないんだけどな。
まぁ、宴会じゃあるまいし歌でしめるわけにもいくまい、ここは真面目にやろう。
再び演説台の前に立つ。
「あ〜、皆さん大変お待たせしました。最後に一言。国民の登録と人工授精の受付は役所かホームページで明日から開始しま〜す、詳しくはwebで」
ガクゥ
集まった人達が一斉にコケる、だが詳しく話してたら何日かかるかわかったもんじゃないからしかたない、後の説明は黒夢にでもまかせよう。
すると黒夢と翡翠が巨大なモニターを広場に引きずって来て演説台に設置する、解説に使うのかな?
えっ、僕の映像流すの?しゃべってるけどなんで?こんな映像いつの間に……あ、CGなんだ。
「説明ヲ開始スル、綺麗にナラベ」
観客の視線はモニターに釘付けだった。
モニターの前で作業をしている黒夢と翡翠。婆ちゃん達はツカツカと先に行ってしまう、あれ?二人を待たないでいいの?
「大丈夫よ、あんなちびっ子よりお母さんのほうが色々(エロエロ)と役に立つわよ」
あぁ、そうか、あの二人がいなくてもお母さんが来たから護衛がいらないのか、黒夢と翡翠を残して公園を後にする。
これでやっとゆっくりと出来る、東堂会長にも留守中の話聞きたいしね。
観客に手を振りながら公園を出ると、シルバー仮面ことクレモンティーヌさんが話かけてくる。
「で、この後どうするね?ルーヴルでも観に行くかい?」
「う〜ん、ルーヴル美術館もいいけど、フランスと言ったらヴェルサイユ宮殿じゃない、ここから遠いの?」
「ふむ、そんなに遠くはないが歩くには距離があるな、車を回そう」
そのタイミングでジュリアさんが何か思い出したように声を上げる。
「あれ、そう言えばドイツからラウラ呼んでなかった?」
「もう、とっくに来てるわよ」
「わっ、びっくりした!いきなり出てこないでよ、ビックリするじゃない」
ジュリアさんがラウラさんに文句を言う、軍服だからてっきり警備の人かと思ってたわ。
「出て行くタイミングがなかったのよ、それにこの緑の子がずっと貼り付いて来てたから」
ラウラさんの隣にはいつのまにか
「ラウラ、ちゃんとソーセージ(お土産)持って来た!どうせならヴェルサイユの庭でBBQといこうじゃない!」
「ちょっと、ジュリア!どこで焼こうとしてるのよ、あそこ一応世界遺産よ」
戻って来たシルバー仮面さんが文句を言う。仮面をかぶっていると表情がわかんないね。
「いいじゃない、ちょっとぐらい、あんなに広いんだから」
「そんなに広いの?なら、お庭の隅なら邪魔にならないんじゃない」
僕がそう言うとシルバー仮面さんが少し離れてどこかに電話し始めた。
「私だ、ヴェルサイユを2時間ほど閉鎖出来るか、そうだ、今からだ…」
それを見ながら僕はお母さんに小声で話しかける
「あ、やっぱりまずかったかな?」
「大丈夫でしょ、あそこ本当に広いし焼肉の匂いなんか気にならないわよ、あ、どうせなら焼肉のタレは日本食研の宮殿がいいな」
「あ、僕は中辛がいいな」
あ、シルバー仮面さん帰って来た。
「よし、ラウラ、ソーセージとビールはヴェルサイユに運んでちょうだい」
「えっ、本当にいいの?」
「当然。皇帝命令ですもの」
フランス王ルイ14世によって1682年に建造された宮殿である、宮殿内には有力貴族の居住空間も用意され、当時フランス絶対王政を象徴した豪華絢爛の建物だ。セーヌ川の川岸より引いた水を使った噴水庭園は、絶大な権力がなくては成し得なかった美しさを誇る。
アポロンの泉水前の広場、今そこでは香ばしく食欲をそそる匂いが漂っている。横長のバーベキュー台が中央に置かれ、その周りを給仕役の女給が忙しそうに動き回っていた。
パキュン、ジュワ
「うわ、うまっ!このソーセージ超美味い! し、しかしソーセージは美味いんだけど…」
これルイ14世さんに怒られないかな?
いや、僕は庭の隅でやろうって言ったよね、なのになんでこんなど真ん中の一等地でお肉焼いてるの?
(まぁ、当時ルイ14世は誰でも庭園に入るのを許したので、BBQくらいでは怒らないかもしれないが)
「いかがかな皇帝陛下、我が国自慢のヴルスト(ソーセージ)の味は」
「あっ、ラウラさん。これ凄い美味しいです!歯応えといい、味といい、さすが本場ものは違いますね」
「はは、その顔を見れば良く分かるよ、実に美味そうに食べていらっしゃる」
後ろを見れば春子と夏子がビール片手に競うようにソーセージを頬張っている、ラウラもその光景には安堵の息を吐く。
「鉄郎くん、これ食べて!シルバー仮面が持ってきたフォアグラ、美味しいよ」
「へぇ〜、これがあの有名なフォアグラ、ガチョウの肝臓だっけ?家じゃ食べたことなかったんだよね」
貴子ちゃんがフォークに刺したフォアグラを僕に差し出してくる、どれどれ、ぱくっ。
「むぐっ、なんかあん肝みたいな食感だね、高級そうな味だ」
一度蒸したものを鉄板でソテーしたのか表面はカリッとしてるのだが、中はトロッと柔らかい、意外と美味いな。
ん、貴子ちゃんが顔を赤くしながら固まっている、どうしたの?
「大丈夫です、鉄郎様があまりに自然に自分の手にしたフォークからお食べになられたので、ビックリなさってるだけです」
「児島さん」
いつのまにか隣にいた児島さんが飲み物を渡してくる、お酒?
「ノンアルコールのシャンパンですよ」
「ありがとうございます。うん、良く冷えてて美味しいです」
「ふふ、当然だ。それに今日はボルドーの当たり年のものも用意してある、ロシアのウオッカなどにひけはとらん」
「あっ、私も本場のウオッカ飲みたかった〜」
「私、普通に水でいいですわ、エビアンかヴォルビックで」
いつのまにかシルバー仮面さんやお母さん、それに東堂会長まで僕のまわりに集まってくる、場所は若干問題あるが、皆でワイワイと賑やかな食事はやっぱり良いものだ。美味しいものを食べる時はこうじゃなきゃね。
「うわぁ〜、凄いヨーロッパな感じ」
王室礼拝堂、ヴィーナスの間、マルスの間と圧倒的な豪華さが目に飛び込んでくる、日本の迎賓館、ロシアのクレムリン宮殿も凄かったがここヴェルサイユ宮殿はこと豪華さでは世界で一番かも知れない。
食事も終わりヴェルサイユ宮殿内を散策してる僕達、鏡の間に入った時、ラウラさんが突然僕の前で膝を着いた。えっ、何?
「皇帝陛下。それでは正式にドイツも陛下の傘下に入ることとさせていただきます」
シャンデリアと鏡、金色の彫像、煌びやかな空間が水を打ったように静寂に包まれる。
「ちょ、ラウラさん、そんなにかしこまらないで下さい、頭を上げて!」
「いえ、先ほどのエッフェル塔での出来事を拝見しました、我が国の技術ではとても太刀打ちできるものではありません、まさに世界を制するお力、感服です」
おお、貴子ちゃん。あの演出効果あったみたいだよ、それにしても順調に進んでいるな、世界征服なんてもうちょっと反対する人がいると思ってたんだけど、アメリカとロシア、フランスにイギリス、そしてドイツ。中国は問題ないって貴子ちゃんも言ってたし、イギリスのエリザベス女王の言う通りだったな。
そんな事を考えながら僕はラウラさんに右手を出した。
「ラウラさんのドイツにも協力を頂けるなら、とても心強いです。一緒に世界を救いましょう」
「喜んで」
ラウラさんは僕の言葉に一瞬キョトンとした顔になったが、次の瞬間には破顔して握手を返してくれた。
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