第168話 コマンドサンボって寝技と言うより関節技なんだよな
チチチ……チュンチュン
夜が明けて鳥のさえずりが聞こえ始める朝のモスクワ、クレムリン宮殿。朝靄の中一見、平和な時間が流れているように思われるが裏では暗躍する者が
一瞬の判断が未来を変える時が人生にはある。人生の分岐点、アナスタシアは自分の選択が決して間違ってなかった事を神に感謝した。
まだ昨夜の感触が残る自身の身体をブルリと震わせると、湧き出る欲望を抑え込むように腕を巻きつけ自身の裸体を掻き抱いた。
「あぁ、健全な肉体には神が宿るとも言うが、もしかしたらこの方は全ての女性を魅了する悪魔かもしれないわね」
隣で静かな寝息を立てている鉄郎の唇を起こさないようにそっと触れるように奪うと、ベッドの脇に脱ぎ捨てられたネグリジェを身に
パタン
「ロシア女、編集は出来テル、春子お婆様以外はスデニ防音室で待ってイル」
隠し扉を開ければそこには黒夢が華麗に一礼、待っていたとばかりに次の行動を催促してくる、思わず回れ右で鉄郎の眠る部屋に戻ろうかと思うがそうも行かないんだろうと諦める。
「黒ちゃん…、うん、少しは余韻に浸っていたかったですわ」
アナスタシアの言ってる意味が理解出来ないのかポキュリと首を傾げる黒夢、しかし大して重要ではないと判断したのかとっとと歩き出した。
「へっ、へっ、へっ、昨夜はお楽しみでしたなぁ、ぐあぁ~、頭痛い」
「こら、ジュリア。品がないぞ、あぁ~ワインと違って翌日に残るわぁ~」
「翠ちゃん、始まったら起こしてね」
壁1面がスクリーンになっている部屋にはジュリア、クリスティーヌ、麗華達がソファーにだらけた格好で座っている、まだ昨日のウォッカが抜けきっていないのか翡翠が各自に水をくばっていた。
「なんですの皆さん?二日酔い?情けないですわね、…チッ、だったらこんな朝から集まらなくても」
「いやよ、一刻も早く見たかったんですもの!」
「黒ちゃん、もう編集は終わってるんですよね」
「無問題、バッチリ!」
ビシッと親指を立ててジュリアとクリスティーヌに応える黒夢、特に今回は高感度の4Kカメラをあらゆる角度から撮影出来るように設置し、カメラワークも経験値が上がっているので会心の自信作だ。
尚、被写体のプライバシーは黒夢はアンドロイドの為知ったこっちゃない模様。アナスタシアは女として誇らしく若干自慢もあるのだが、鉄郎がこの鑑賞会の事を知ったら悶絶して自殺しかねない。
カシューーーッ
「ふぁ〜、おう!お前ら早いな、どんだけスケベなんだ」
「貴子様がなかなか起きないからですよ、あやうく鉄の処女(アイアンメイデン)に突っ込んでしまうところでした」
「児島…、それやったら私、物理的に目覚めなくなるからな」
電子ロックの扉を開いて貴子と児島が遅れて合流する、貴子は子供の身体なので朝は少し弱いのだ。
「デハ、上映を始めるゾ」
メンバーが揃うと黒夢の瞳が青く光り部屋の照明が若干落とされる、プロジェクターがウィィンと小さな音を鳴らし始めた。スクリーンにタイトルがドドーンと写し出される。
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアナスタシアさん』
「「「オォ~、デレるのかぁ~」」」
「って黒ちゃん!タイトルが色々と危ないですわ!」
「デレるのは否定しないんですね」
タイトルに文句が出るも黒夢は無視して、アナスタシアVS鉄郎の一戦を1時間に編集して大きなスクリーンに等身大で映し出した。部屋に集まったメンバーが一斉にゴクリと喉を鳴らした。
「おおぉ、すっげぇな、これどうやって撮ってるんだ、丸見えじゃねえか」
「うわぁ、されるがままじゃない、こう言う事って年上、それも女がリードするんじゃなかったの?」
「鉄くん、しゅご…」
「最初のターンは私の流れだったんですが、鉄郎様のターンになると完璧に逆転されてしまいました。途中何度もお花畑が頭の中に咲き乱れ、死んだはずの祖母が遠くでニコニコと手を振っていました。アハハハ、天国は本当にあったんですね」
画面を見ながらぶつぶつと語り出すアナスタシア、恥ずかしさもあるが昨晩の事を思い出したのか、顔は真っ赤になりながらも呼吸は荒い。
今回のロシア立ち寄りはアナスタシアの生理周期がバッチリだった為に予定が組み込まれた、貴子の説得はウォッカとキャビアが効果を発揮した、不満の溜まる国民に鉄郎との婚約を確認させる意味もあったが、子供ができればこれ以上ないアピールとなる、行き遅れの姫と言われるアナスタシアとしては昨日は超やる気満々だったのだ。そのわりにあっさり鉄郎に返り討ちにあったが。
「お前、京香や住之江の映像は見たんじゃなかったのか?」(予習と覚悟はできてたんじゃないのか)
「見るのと、やるのでは全然違かったんですよぉ〜!あんなのに耐えられる女なんかいませんよぉ〜」(泣)
アナスタシアはもう上も下もグショグショだ。
「「「「確かに」」」」
再度スクリーンを見ながら女性陣がうんうん頷いていると、いつのまにか貴子の膝の上に乗っていた猫のゴルバチョフが「何してんだこいつら」とばかりに大きなあくびをした。
一方、鉄郎と言えば。朝起きてみれば隣にいると思っていたアナスタシアの姿が無い、もしかして夢だったのかと確認の為にパンツを覗けば「もう一戦いくかい?」とばかりに元気な状態の息子がおり、布団をめくればシーツの真ん中にはしっかり昨夜の痕跡が残されていた。
「……………………」
「はぁ〜、アナスタシアさん、すっげえ色っぽかったなぁ〜」
流石に4人目ともなると精神的に開き直る余裕が出来たのか、一人しかいないベッドの上、鉄郎は天井を見つめながら呟くのだった。
これも血筋のなせる技か………………。
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