第166話 翼よ!あれがロシアの灯だ。

日本を発って7時間、ロシアの首都モスクワの赤の広場が見えた頃だった、僕はライトアップされたスパスカヤの塔頂で光るルビーの赤星をぼんやりと眺めていた、流石に大国ロシアの首都だけに街並みが美しい。そんな状況、黒夢の瞳が青白く点滅したのを僕は見逃さなかった。


黒夢クロムどうしたの?」


「パパ……。大丈夫、無問題(ノーマンタイ)」ニヤリ




ズゥヴヴうううううううううううウウウウウヴウウウウウウウウ!!


「うわぁぁああああああああ!!」


白壁に緑の屋根、馬鹿でかいクレムリン宮殿の前を流れる河川沿い、そこに設置されてる1秒間に75発発射出来るC-RAMファランクスから20mmの弾丸が一斉に吐き出され、モスクワの夜空に分厚い弾幕を貼りつける、これだけ厚ければ弾幕にはうるさいブライトさんにも文句は言われないだろう。が、鉄郎にとっては自分の乗る飛行機がいきなり攻撃されているのだ、そりゃ悲鳴の一つも上げたくなる。


「なんでロシアの首都にファランクスが配備されてるノォ~!!」



黒夢が操るB-2スピリットの横をかすめるように弾丸が後方に流れて行く、コクピットから見る限り結構ギリギリに避けているが、一般人の鉄郎は心臓バックバクだった。


翡翠ひすいあわせテ」

「ハイ、黒夢姉様!」


黒夢の指示で翡翠が操縦桿を握ると迷いなく先端の赤いボタンを押し込む。


ヴァヴァヴァヴァァアアアアアアアアアア!!ギィンギィンギィンギィンギギギギギギギッギギギギギギギ!


こっちに向かって飛んでくる弾丸を狙いすましたようにB-2の25mmのガトリング砲で次々と打ち堕とす。空中で弾がぶつかり合い花火のように火花が散る。翡翠のドヤ顔がちょっとうざい。


貴子によってフルチューンされた4基のターボファンエンジンが大型化されたB-2の機体で戦闘機並みの旋回性能を実現する、黒夢の優れた演算能力は操縦が難しいとされる機体を自由自在に操り、地上からの弾幕を避けながら猛然と赤の広場に突っ込んでゆく。

黒夢が放ったAGM-158巡航ミサイルがC-RAMファランクスを撃ち抜いて沈黙させるとようやく静寂が戻ってくる。


「「フゥ、中々面白かっタ」」


「ちょっと何やってるのよ!あれ(ファランクス)凄く高かったんだから、弁償してくださいね」


「人生に刺激は必要ダゾ」


一仕事やり終えた感を出している黒夢と翡翠にアナスタシアが吠える、昨年ナインエンタープライズから仕入れた自慢のファランクスを一瞬にして鉄クズに変えられて怒り心頭のようだ。


「ほぅ、やはり凄いな黒夢は、とても爆撃機の動きとは思えん、翡翠の射撃も正確無比で素晴らしい」


「貴女(シルバー仮面)もなに普通に感心してるの、この二人、絶対にわざと攻撃させてぶっ壊したのよ、ウキィーーーーーーッ!」


アナスタシアの言う通り貴子謹製のステルス機であるB-2スピリットは、現在各国の防空レーダーをあざ笑う性能を誇る、ロシアのファランクスだけが反応したのは明らかにおかしい、黒夢が暇潰しに何かやった可能性が高い。







先ほどの迎撃戦で騒然としている赤の広場、その中央に静かに降り立った漆黒の爆撃機、熱くなったエンジンが冷気で冷やされてキンキンと音を立てている。一体何事かと人がゾロゾロと集まりだし、AK-12を持った地上軍が遠目に取り囲む。ちなみに赤の広場はクソ広いが飛行場と言うわけではない。


パシューーーッ


ズタァーーーーーーーーン


下部ハッチが開きメイド服姿の児島が広場に降り立つと手に持ったカラシニコフを夜空に向け銃声を轟かせる。


「今日という日を祝いなさい、貴女達の真なる王の降臨よ!」


いつもノリノリの児島にすでに諦めたのか、鉄郎がボソリと苦言をこぼす。


「児島さん、ほんとそう言うの好きだね」




ロシアで最も美しい建物とされる聖ワシリィ大聖堂からレーニン廟聖、ロシアの地に降り立った鉄郎が広場をぐるりと見渡すと、童話に出てきそうなカラフルな玉ねぎ状の屋根が特徴的なワシリィ大聖堂、少し目線をずらせば宮殿のようなグム百貨店が見えた。

しかしライトアップされた美しい街並みよりも、自分に向けられる熱い視線の方が気になるのは鈍感な鉄郎にしては珍しいと言えるだろう。



ザワ、ザワ


「アナスタシア様の夫?」

「武田鉄郎、CGじゃない、本当にいたんだ」

「あれ?アナスタシア様ってあの美少年の腕折ってなかった?」

「それなのに結婚出来たの?」

「もしかして、激しいのが好きなのかしら?」


ゴクリッ


「「「「「「「「「「「ハラショー!!」」」」」」」」」」」



「おい、ロシア人はいつからこんなに馬鹿になった」

「すみません、すみません、私が鉄郎様のお腕を折ってしまったばかりに」


いきなりのハラショーコールに呆れた貴子がアナスタシアをジト目で見る、自国民ながら恥ずかしさを覚えたのかペコペコと鉄郎に向かって頭を下げている。


なんにせよ鉄郎のロシア初来訪である。





大クレムリン宮殿は全長125m奥行き63m、外観は3階建てだが内部は2階建の建築となっている。宮殿の南棟の1階、今は王族であるアナスタシアの居住スペースになっている、謁見の間はロココ様式で、金メッキされた重さ1tを超えるシャンデリアが6基もズラリと並び、その全長は61mにもなり荘厳な雰囲気と威圧感を感じさせる。


「日本の迎賓館も凄かったけど、ここはまたとんでもない広さだね、天井も高っか!」


「ふふ、お気に召したのでしたら、ずっ〜とここに住んでもよろしいですよ」


「けど、冬は寒いんでしょ?」


「暖房くらいガンガンに効かせます!むしろ暑て服なんか着てられないくらいに」


アナスタシアの言う通り宮殿の中は暖房が効いていてとても暖かい、実際半袖でもいいぐらいだ、外と中でこれだけ温度差があると体調を崩しそうだ、北海道民が意外と冬の寒さに弱いのと通じるものがあるかもしれないと鉄郎は思った、ちなみに長野県民は家の中も冷えるので寒さにはとても強い。


食事の間に通されると部屋にはブロンドの髪にブルーの瞳、頭にはヒラヒラした大きなリボンをつけた少女達が忙しく動き回っていた。


「メ、メイドさん?」


「ああ、シュコーラ(ロシアの学校)の生徒です、ロシアではワンピースにエプロンドレスと決まっていますから」


「しかも皆すっごい可愛い」


ボソリとつぶやいた鉄郎を他のメンバーが凄い勢いで見てくる、貴子はなぜか得意気だ。

ロシアの女の子は可愛いので有名なのだが、鉄郎が年上属性じゃなくロリ属性を持っていたら非常に危なかった、貴子や黒夢で小さい可愛さには耐性がついていたのも幸いした。


「あ、あの!アナスタシア様の旦那様ですか? あ、私、ユーリーと言います」


その時、メイド服?を着た中学生くらいの女の子が鉄郎に突然話しかけてきた。殺意や武器は持っていないのか麗華や黒夢に動きはなかった、貴子だけは凄くメンチを切っていたが。


「う〜ん、この前婚約したばかりで、まだ結婚はしていないんだけど」


「きゃー、噂は本当だったんですね、どうですアナスタシア様みたいな野蛮な女より、私の方が若くて可愛くてお得ですよ」


「貴女ねぇ、仮にもこの国のトップに向かって何をほざいているのかしら、鉄郎様はジャリガキに興味はないの、とっとと仕事に戻りなさい」


「ふん、こんな素敵な殿方の腕を折った女に言われたくありませんわ、では鉄郎様、失礼いたします」


キャーキャー言いながら走って同級生のもとに去って行くユーリーを見ながら鉄郎は思う、どうやらアナスタシアの国での立場は思ったより良くなさそうだった。やはり世界中継で鉄郎自身が戦ったのは印象が良く無かったらしい。


「ぷぷ、アナスタシア。貴女随分と国民になめられてるのね」


「うっさいわね、早く席に着きなさいよ!」


後ろにいたジュリアにからかわれるも、本人も自覚があるだけにごまかすように返すことしか出来なかった。

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