第163話 許せる事、許せない事

各国のお偉いさんを前に自身の精子提供を宣言した鉄郎だったが、会場からの去り際にシェルビーの前で立ち止まり礼を述べた。


「プレジデント・シェルビー、あなたのおかげで随分と話が順調に進みました、ありがとうございます」


「か、か、か、神よ、私ごときに頭を下げるなどおやめください!そ、それに私のことなどプレジデントなどと敬称をつけて呼ばなくてもいいですから!犬で結構です、犬で!」


「か、神って…」


慌てふためくシェルビーを前に若干腰が引ける鉄郎、流石に神呼ばわりは勘弁だし大統領を犬呼ばわりなんてとんでもない。


鉄郎にしてみればこの会議の成功の鍵はアメリカにあると思っていた、貴子に異常な執念を燃やしていた国、あんな戦争があったばかりだし少しは抵抗されると想像していた、それなのにどの国より真っ先に全面降伏してきた、これには正直罠でもあるのかと疑ったぐらいである。

まあ、ことなかれ主義の国民性を持つ日本で育った鉄郎には理解しづらいが、国のトップが変わるというのは本来こう言う事なのだ、人が変われば考えも変わる、貴子と激しく対立していた前大統領メアリーから鉄郎を崇拝するシェルビーに政権が移行する、その所為で今までとは180度違う対応となるのだった。


「あっ、そうだ、これ僕のアドレスです、ご質問とか気軽にメールしてくださいね」


「O、OH、このアドレスにご神託が…。アァ、そのお姿が眩しくて涙が止まらないデ〜ス!」


「サングラスでもかけてくださいね」


なんだかんだで雑なフォローである。




「じゃ、じゃあ、失礼しますね、細かい話は後日書面で」


なんかイっちゃった顔でスマホを握りしめ涙を流すシェルビーが怖くなってきた鉄郎が、そそくさとその場を後にする、貴子が横目で睨んでいたが鉄郎は気づく様子はなかった。








ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…


迎賓館赤坂離宮 彩鸞の間、正面玄関の真上に位置する部屋に各国の代表が場を移し先ほどの会議の内容について話し合っていた。

アンビール様式の特長である赤の地に銀糸で模様が刺繍された椅子に深く腰を下ろした楊夫人が、正面に座る新米アメリカ大統領であるシェルビーにギロリと鋭い眼光を向けた。老人とは思えぬ迫力に一瞬ビビるも今のシェルビーは上機嫌の塊だ、これぐらいで引き下がることはない。


「な、なんですか? そ、そんなに鋭い目で睨まれたってこのアドレスは教えませんよ」


「アホかい、G9のメンバーなら全員知っとるわ!! まったく、呆れてるだけじゃよ、犬みたいに簡単に尻尾を振りおってからに、尻軽女が! これだからヤンキーは信用ならん」


楊夫人としてはアメリカの利権を奪いたい所だっただけに、非常に機嫌が悪い。


「な、揚夫人と言えど今の発言は無視出来ません、神からお声を掛けて頂いたのですよ、従うのは当然でしょうが!」


シェルビーに取って鉄郎の存在はすでに神となっている、その手に握られている神からの贈り物 (アドレス)を胸に抱き恍惚の表情を浮かべている、はっきり言ってそのだらしない顔は鉄郎に決して見せられる顔ではない。

ちなみにこの鉄郎のこのアドレスは、知っている者は増えてきたが黒夢の監査が途中に入るため意外と繋がらない。バンコクの知事がガパオライスの美味しい店に誘った時はなぜかすぐに繋がったらしいが。












ズダムッ!!


「もぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!我慢出来ん!」


貴子が部屋に入るなり爆発した、拳を壁に叩きつけビリビリと壁が揺れる。事前に打ち合わせしていた事とは言え、いざ鉄郎がいやらしい視線にさらされたのがどぉ〜うにも気に入らなかった。

握り締められた拳が小刻みに震えている、本気で怒っていた。


「ちょっと、貴子ちゃん落ち着いて、もう話はまとまったんだから、今更蒸し返さないの、各国のお偉いさんは納得してたじゃない」


よしよしと鉄郎が貴子の頭を撫でるも、貴子の興奮は収まらなかった。


「だけど鉄郎くん! う~~~~~~~~~~~っ、やっぱり、他の国なんぞ全部滅ぼして鉄郎王国のみでパラダイスを作ろう、うん、そうしよう!!」


「コラコラ貴子、今更そんな事したら世界大戦に、いや勝てるからいいか」


「ちょっ、婆ちゃんまで~」


春子が壁に寄りかかったまま止めようとするが、途中でトーンダウンしてしまう、春子も可愛い孫が視姦されるのは気に入らなかったらしい。


「だってこれから鉄郎くんは世界中の女共からすっげーエッチな目で見られるんだよ、常に鉄郎くんが視姦されてるようなもんだぞ!いいのそれで?」


「エ~、だったら早く全ての男性に効く薬の開発を急ごうよ、それで解決するじゃん」


「いや、それだとどうスケジュールを詰めても最低で後2年はかかるんだよ、私が出来ない間に鉄郎くんの精子で一体何人の女共がががががガッガッガッっががっがががががが、うがぁ〜!!」


貴子が頭を抱えて壊れ出す、最後は言葉にならないほどだ、しばらくゴロゴロと上等な絨毯の上を転げ回ると児島に向かって指をさした。


「おい!児島。お前が今回の会議のシナリオを書いたんだから、なんとかしろ!」


「なんとかしろとおっしゃいましても、鉄郎様の言う通り世界が一つにまとまったのですからいいではないですか」


「だったらお前は鉄郎君が世界中の女共に犯されても良いと言うんだな」


「あまり独占欲の強い女は嫌われますよ」


「うぐぐっ、し、しかし自分の夫も守れんようでは妻としての立場がだな」


珍しく食いさがる貴子に面倒くさくなってきた児島がパンと手を叩く。


「ではこの話の続きはご飯を食べながら致しましょう、せっかくの日本です、皆で美味しいものでも食べに行きましょう」


「…焼き鳥」


後ろに立っていたシルバーのマスクからボソリと声が発せられる。


「お前昨日さっちゃんで散々食べただろうが!それに東京に来たらやっぱり銀座で寿司だろう」


「えっ、そうなの?」


鉄郎が疑問を呈したが、貴子は人差し指を左右に振りながらチッチッチッとわかってないな鉄郎君と口を開く。


「日本と言えば寿司と天ぷらだよ、イタリアならパスタ、ロシアならボルシチ、フランスは…何があったっけ?」


「フレンチを舐めるな、何食べても美味いわ! 特にアルザスのフォアグラなど最高だぞ」


シルバー仮面がなんか興奮しだした、これだからフランス人はプライドが高くて付き合いずらい。


「あっ、それじゃ僕天ぷらが食べたい、お寿司はこの前大阪で食べたし」


鉄郎がニコニコと手を上げて提案してきた、この時点で天ぷらに決定しているのは言うまでもない。


「うん、天ぷらいいね、えっとこの近くだとどこがいいかな、おい、児島!」


「そうですね丸ビルの天正はいかがです」


「そうだね、どうせ一度は長野に戻るんだ、駅の近くなら丁度いいんじゃないかい」


春子も児島の案に賛同すればもう迎賓館に用はない、一同は館を後にした、春子の元部下であった自衛隊の幕僚長である蒲郡がまごうりが戦車で送ると申し出てきたが、丁重にお断りし散歩がてら駅まで歩く事にした、美少年がゾロゾロと引き連れた戦車や自衛隊員に道行く人々がビックリする。

皇居外苑をグルリと囲むように行列が続きこの辺り一帯の交通が麻痺したのはご愛嬌である。



いざ、食さん!天婦羅!

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