第161話 いや!そんな目で見ないで、恥ずかしい。

エリザベスと鉄郎が見つめ合う。孫ほど歳の離れた二人だがお互い国家を背負う立場の者同士、その眼差しは真剣だ。

時間にすればわずか数秒だが不思議と長く感じられた、エリザベスは小さく息を吐くと口を開いた。


「キング鉄郎、貴方の事は信用しているつもりです、個人的には貴方のやろうとしている事には協力したいのがわたくしの本音ですね」


「ならば……」


「しかし我が大英帝国は誰の支配も受け入れるわけにはいきません、つまらない意地とお思いでしょうがそう言う国なのです、たとえそれで国が貧困に喘ごうがイギリス国民は他国に支配されることを良しとしないでしょう」


「けっ、これだからジョンブルは、そんなチンケなプライドで腹は膨れんぞ、いっそのこと力で支配しても私はいいんだぞ」


イラついたように貴子が思わず会話に割って入った。貴子にとって鉄郎に従わない者は敵としか見えていない、非常に心が狭い人間なのだ。


「ケーティー女王、仮にもキング鉄郎の伴侶となるなら、もう少しお言葉には気をつけなさったほうがよろしいですよ、それに力による支配をキング鉄郎は望んでいないのではないですか」


「うぐぐっ」


激昂することなく諭すような口調で返され、貴子としては非常にやりづらい、元々エリザベスと貴子は性格的に相性が悪いのだ。

激情の貴子、策略のエリザベス、まるで炎と水のような二人。

エリザベスは鉄郎にそっと向き直ると、優しく目を細めて笑みを浮かべた。


「それに貴方達が間違った方向に進んでしまった時に1国ぐらいそれを正す者は必要でしょう、その役目は我がイギリスが責任を持って請け負いましょう」


「でも、それでは…せめて…」


エリザベスはニッコリと笑って鉄郎にその先を言わせない。


「ふふ、やはり貴方はお優しい方ですね、でも心配はご無用です、そう簡単に大英帝国は滅んだりしませんよ、しぶとい民族ですから自力で足掻いて見せます」




「それでは、この後どんな条件が示されるのかはわかりませんが、貴方の支配を拒む以上、部外者となる私はここで退場させていただきますね」


クルリと踵を返すとそのまま出口に向かって歩き出すエリザベス、扉に手をかけようかというタイミングで鉄郎が大きな声で呼び止めた。


「エリザベス女王!今度うちの国の紅茶を飲みに来てください、とっても美味しい茶葉があるんです」


きょとんと珍しく驚いた顔を見せた後、エリザベスの頬が緩む。




「ふふ、ずるいですね。イギリス人にその誘い文句は。いいでしょうお茶会ぐらいはいつでもお付き合いいたしますよ」


そう言うとエリザベスは鉄郎に向かって深々と一礼すると、今度こそ会場を後にした。

鉄郎はその威厳ある後ろ姿に静かに頭を下げるのだった。


イギリスは鉄郎の手を取ることを拒んだ、それは自力で復興出来ることを意味するのか、かつての世界の覇者たるプライドゆえなのかその思惑は鉄郎にはわからなかった。






エリザベスが去った扉を見つめていた楊夫人が苦い顔を作る、深い皺の奥に光る瞳は鋭い。


「チッ、やられたわ、あの女狐ババァ、実際は何もしてないのに恩着せがましい、奴はああ言う所がずる賢いのぉ、腹黒さが滲み出ておるわ」


同じく扉を見ていたラウラが言葉を返す。


「確かに今の話の流れだと、他の国は鉄郎王国の傘下に入らざるを得ない雰囲気にさせられますね」


「ふん、あの提案は先に言った者勝ちじゃからな、あえて支配から抜けることで鉄郎王国と対等な立場に持って行きおった。おそらく鉄郎氏の性格を読み切った上での言動じゃろう、彼の性格ではこうなった以上そのままあ奴を放っておくことは出来はしないじゃろうからな」


「しかし、それによるデメリットも大きいのでは」


「それは条件次第じゃが、私としては損する予感はないがな」



ザワ、ザワ、ザワ


大国アメリカの無条件降伏にイギリスの離脱、相次ぐ衝撃の展開で会場は混乱していた、そのタイミングを狙ったように鉄郎は語り出す。


「では、お待たせしました。僕から皆さんに飲んでもらいたい条件は3つ、人口増加への協力、戦争の全面禁止、男性特区の縮小・分散です」


ザワ


「男性特区の縮小なんてしたら、人口の増加なんて出来ないんじゃ」

「それは、鉄郎王国で男性を独占するということ?」


カツンと音をたてて杖を突くと楊夫人が一歩前に出る、それに合わせて麗華が一歩前に出ると牽制するように睨みを利かした、楊夫人が仕込杖を持っていることは知っている、その間合いには決して入らせない。


「ふぉふぉ、そんなに警戒せんでも何もしやせんよ、鉄郎氏、よろしいか」


「はい、なんでしょう」


「戦争の禁止はわかったが男性特区の縮小、まして分散などしたら数少ない男性の安全が確保出来ないのではないか、それともそれに見合ったメリットを我々に与えてくださるのかのぉ」


「もちろんです、世界各地に電力施設であるバベルの塔の建設、治安の維持には我が国から今ロシアで増産が始まった優秀なロボットを派遣します、このロボットは全世界を網羅するネットワークで情報を共有しているので犯罪は見逃しません」


ルンバ改と人工衛星カメラによる監視網、それを瞬時に情報処理できる黒夢シリーズに死角はない、情報戦に置いても鉄郎王国は他国を圧倒している、どこかのカメラに映ってさえいれば、たった一人の犯罪者を世界中から見つけるのに1分とかからないだろう。


「後、今の男性にとって男性特区はとても健全と言えるものではありません、慢性的な運動不足による体力低下、閉鎖的社会による鬱状態、強制、あるいは義務化された性交・搾精、それによって本来の生殖能力が低下しているのも人口が増えない原因の一つになっています」


「ふぉふぉ、しかし、男性にとって急激な生活環境の変化は、受け入れられるものかの」


「そうですね、急には無理でしょうから、10年を目安に徐々に分散出来ればと思っています」


「ふぉふぉ、では最後に人口増加への協力と言ったが、私等は何をすればいいのかのぉ、こればっかりは無い袖は振れんぞ」


「そうですね~、では僕から精子を提供するというのでは、どうでしょう」


ザワッ!!


「なっ、そ、そそ、それは神から直接頂けると!!」


アメリカのシェルビーが凄い勢いで食いつく、他の集まった者もゴクリと唾を飲み込んだ。

見目麗しい美少年からの精子提供となれば、常に飢えている獣達にとってこの上ないご褒美だ、皆の視線が自然と鉄郎の股間に集中する。

それに比例して鉄郎陣営の女性陣の苛立ちは急上昇する、自分の愛するも者がエロい視線に晒されているのが我慢ならない、貴子に至っては今にも衛星落としのスイッチを押してしまいそうな雰囲気だ、事前に鉄郎に注意されていなければ間違いなく押していただろう。


ザワ、ザワ、ザワ


「う~ん、僕も婚約者がいる身ですので流石に直接とはいきませんが、男性出産率80%の物を人工授精用に提供させていただきますよ」ニコッ


「「「「は、80パァ!!」」」」


「はい、10000人いれば8000人は男子が生まれますよ」


今は世界規模で慢性的な男性不足で欲求不満が蔓延している、一向に増えずに全く足りていない男性人口、どれだけ働いても結婚も出来ずに老いて行く身体、人は衣食住だけでは満足出来ない事がある、人間の本能である3大欲求、睡眠欲、食欲、性欲、人にはトキめくような恋愛が必要なのだ。


出口の見えない暗雲立ち込める中で差し込んだ一筋の光明、それにすがってしまうのは神ならぬ人間としては当然の事ではないだろうか。



世界統一の餌としてこれ以上ない物を眼の前でぶら下げられ、今この会場にいる者の気持ちが一つとなった、エロは世界を救う。

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