第158話 東京

東京。

言わずと知れた日本の首都である、人口1000万人の巨大都市は日本に4つ有る男性特区でも最大を誇り男性40万人が暮らしている、人口密度が高く、世界的に人口が減りつつある中でこの場所だけは人々がひしめき合い、人類絶滅の危機を人々に感じさせることはない、だがよく見れば男性の若年層が少なくなっているのがわかるだろう。

まぁ、日本では東京、大阪、博多、名古屋の男性特区を抱える都市以外では、男の姿を見ることはまずできないのが現状だが。



東京駅丸の内口。レンガ作りの駅舎を眩しそうに見上げるのは濃紺の制服に身を包んだ年配の女性、その襟には四つの桜星が陽光を浴びてキラリと輝いていた。

歳の頃は50代後半、だがその鍛えあげられた肉体のせいかあまり衰えを感じさせない、それよりも厳つい顔の頬に大きく走った刀傷がこの女性の印象を決定付けている。

自衛隊幕僚長である蒲郡がまごうりは隣に立つ小林1佐にヤクザ顔負けの鋭い眼光を飛ばす。


「おい小林、到着まで後何分だ?」


「はっ、後27分で到着予定であります!」


「よし、なんとか間に合ったな、まったく尼崎の奴、昔から決断が遅いんだから」


蒲郡は辺りを見渡し満足気に頷くとポケットから携帯を取り出した。


トゥルルルル、ピッ


「もしもし」


「おう、尼崎、今東京駅に着いたぞ」


「あ、着いた? 悪いわねあんたに出迎えなんて頼んで、こっちは予定が立て込んでて手が離せないのよ」


「いや、春子さんを出迎えるのに不満なんてないさ、まぁ、もうちょっと早く連絡はもらいたかったがな、ギリギリだったぞ」


「しょうがないでしょ、春さんから連絡もらったの今朝の事よ、前日から日本に来てるなんてわからなかったんだから」


「わからなかったってお前、空自のレーダーに引っかかるだろ」


「貴子の所の機体はレーダーに映んないのよ、松本空港からはダミーデータ走らされて隠蔽されるし、そうなったらもうお手上げよ」


「空自は随分とたるんでるな」


「そうじゃないわよ、この前のTV中継でも見たでしょ、黒い貴子。あれ、電子の怪物よ、あれにかかれば今のレーダー技術なんて簡単に目隠しされるわ、しかもそんな化物が4体も映ってたじゃない、私あれ見てゾッとしたわよ」


「そんな機械にばかり頼ってるからお前は駄目なんだ、経験と勘が大事なんだよ」


「うるさい脳筋。それより失礼のないようにね、イタリアとロシアも一緒にいるらしいんだから」


「はっはっは、任せとけって、ちと戦車が数台遅れてるが今集められる部隊はなんとか終結が間に合った、アリンコ一匹通しゃせんよ」


「は? ちょっと蒲郡、今戦車って言った?」


「ああ、練馬と目黒から10式と90式全部引っ張ってきた、中々壮観だぞ」


「あんた馬鹿じゃないの!!市街地に戦車なんて持ち込んで、戦闘でもしようっての、敵対行動に見られるでしょうが!」


尼崎の大声に耳から携帯を遠ざける蒲郡。


「おっ、そろそろ着く頃だ切るぞ」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


ピッ


「全く昔から小心者だなあいつは、よ〜し整列だお前ら!!」


元々軍で同期だった尼崎と蒲郡だけにどうにも砕けた会話となる、二人の今の立場からすればもう少し威厳が欲しいところだ。

蒲郡の号令で一斉に動きだす東部方面部隊、オリーブドラブ一色に染まる東京駅丸の内、乱れなく整列する様に満足したのか大きく頷く蒲郡だった。






東京駅の20番線ホームに新幹線あさまが静かに停車する、乗客のほとんどが上野で降ろされたためにホームに降り立つのは鉄郎と愉快な仲間達だけであった、いつもなら人混みでごった返している東京駅だが今日は随分と閑散としていた。

ギターケースを担いだ翡翠を先頭に人もまばらな構内を進む。


「ありゃ、全然人がいないね。東京には検査で何度か来てるけどこんなのは初めてだ」


「離れナガラ付いてクル熱源はアルゾ」


「危険な感じはしないけど、うっとおしいわね」


鉄郎の呟きに隣に並ぶ黒夢と麗華が反応する、どうやら離れて監視されてるようだ。

それでも、駅から迎賓館に向かうため鉄郎達は丸の内に出る、静寂に包まれる無人の構内の先に見える光景に鉄郎は息を飲んだ。


「何、あれ、戦車がズラリと並んるんだけど囲まれた?」


「自衛隊?」

「怪獣映画の撮影じゃないの」

「オオ、ガッジーラですか!」


鉄郎の言葉にクレモンティーヌ、ジュリア、アナスタシアが反応する、アナスタシアは日本の特撮が好きだった。


呆然としているとツカツカとこっちに向かってくる一人の女性、あれ?たしかあの人って婆ちゃんの。


「春子の姐さん、おつとめごくろうさまです!!」


制服を着てなければ違う職業の人に見える蒲郡が深々と頭を下げると、後ろに並ぶ自衛隊の隊員達も一斉に敬礼を取る、中々に圧倒される光景だ。



「おう、蒲郡か、出迎えご苦労、元気にしてたか」


春子が声をかけると蒲郡が厳つい顔で嬉しそうに笑みをこぼす、鉄郎達の頭の中には出所した組長の出迎えがイメージされた。


「はい、春子の姐さんも相変わらずお美しい、不肖この蒲郡、姐さんの護衛をするべく参上いたしました!」


「相変わらず暑苦しいねあんたは、にしても随分と物々しい出迎えだね」


「はっ!短い道中でありますが私の部隊で固めてあります、ご安心ください!」


春子が呆れ気味に手を顔に当てていると鉄郎が横から蒲郡に声をかける。


「お久しぶりです蒲郡のおばちゃん、元気そうで何よりです」


「若!! おぉ、ご立派になられて……」


蒲郡が鉄郎に最後に会ったのは小学生の頃だ、身長も伸びスーツを着るようになった鉄郎に感極まったのか、涙ぐむ蒲郡、なにかと熱い女である、鉄郎も苦笑いだ。


「おう、お前ら! 若の凱旋だ、祝砲を上げろぉ!!」


バッ、ズーーーーーーーーン!!ズッ、ドーーーーーーーーン!!


蒲郡が叫ぶと丸の内を包囲していた10式の120mm戦車用空砲が一斉に撃ち出された、ここは富士の演習場ではない。

高層ビルに反響した発砲音が大都会にこだまし、窓ガラスがビリビリと震える。


「ジャパンではこんな派手なお出迎えをする風習があるの?」

「あるわけないだろ!!」


春子達の後ろでジュリアが貴子に尋ねるが大声で否定される、その声に反応して蒲郡の目が貴子に向けられる。


「それにしても、加、いや今はケーティー貴子か、こうして目の前に実物がいるってのに実感が湧かないな、本当に若返ったのだな」


「誰だ、お前?」


「春子さんの部隊にいた蒲郡だよ、忘れたのか何度かやりあっただろ」


「ん、そう言えばこんな顔が居たような居ないような」


「貴子様は人のお顔を覚えるのが苦手なんですよ、お久しぶりです蒲郡さん」


「誰だ、お前?」


「いやですね、お忘れですか児島ですよ」


「は? こ、児島って児島鈴、2丁拳銃の?いや、だって私より歳食って、え?」


ふふふと優越感溢れる笑みで蒲郡を見下す児島、蒲郡の頬に傷を作ったのは誰あろう児島だ、結構バチバチとやりあった仲だけに蒲郡の驚きも当然である、記憶の中にある児島は修羅のような女だった。


「お前、結構可愛かったんだな」


「どう言う意味ですか!!」






10式戦車を先頭に幌をかけられた自衛隊色の7トントラックに乗る鉄郎達、国賓を迎えるのに軍用トラックもどうかと思うが、物珍しさから鉄郎が目を輝かせているので良しとした、後ろを見渡せばどう見ても軍事パレードである。

変な気を効かせた隊員が某怪獣映画で自衛隊の登場シーンで使われる曲をスピーカーから大音量で流すと、沿道には多くの人がわらわらと集まって来た、何かの映画撮影と勘違いした者が多かったが。


日比谷通りから国会議事堂前を通り青山に抜ける、目的地である迎賓館 赤坂離宮に到着すれば…



「蒲郡!! 鉄郎君のお迎えに軍用トラックって何考えてるのよ!! 戦車もすぐに撤収ーーーーーッ!!」



息を切らし額に青筋を立てた尼崎総理が仁王立ちしていた。



一番大きな車でって言ったじゃねえか、とは蒲郡の談である。

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