第157話 怪しい集団

その日、成田空港は異様な緊張に包まれる、続々と滑走路に降り立つ各国の政府専用機、空港周辺の機動隊の数は軽く見積もっても通常の20倍の数が投入されている、周辺千葉県民も何事かと誰もが目を見張った、まさに超厳戒態勢である。

第一ターミナル 北ウイングに真っ先に降り立ったのは真っ赤な機体に黄色い星のマークがついたCOMAA C919、中国のヤン夫人だ、搭乗口に立つとカツンと仕込み杖を鳴らし70過ぎの老人とは思えないしっかりした足取りでタラップをカツカツと降りる。


「ふん、相変わらず醤油臭いしみったれた国じゃな」


「……いきなりご挨拶ですねマダム楊」


「ふぉふぉ、鉄郎氏の提案でなければ、わざわざこんな極東の島国に足は運ばんよ、むしろ中国にお呼びしたかったわ」


日本の総理である尼崎が直々出迎えるも、いきなり悪態をつかれ苦笑いした、内心でこの妖怪ババアと思いつつも、ストレスでちょっとお腹痛くなってきた尼崎だった。



今回、鉄郎の希望で国際会議はここ日本で開催されることとなった、先の戦争では何の行動もとれなかった日本だがその穴埋めの意味があった、もちろん鉄郎にとっても母国だけにたまには帰ってみたかったことも大きな理由であるが。



「総理、ドイツ空軍のA350が着陸の許可を求めてきてますが」


「何、もうラウラまで着いちゃったの、皆んな早く来すぎでしょ! 受け入れ側にだって準備ってものがあるのよ、もう!」


その後イギリス女王エリザベスを乗せたエアバス A330 MRTTも早々に到着して、尼崎の忙しさと胃痛に拍車をかけた。頑張れ尼崎。






尼崎が痛む胃を摩ってるその頃、鉄郎達はと言うと、長野駅のホームで立ち食いそばをすすっていた。

その右腕にあったギプスは先日外されたばかりだ、黒夢の手術が良かったのか鉄郎の若さゆえの回復力か、わずか2週間でここまで回復していた、お箸だって普通に使えている。




「ずずずっ、う~ん、やっぱこれだよね、うまっ!!」


「これがジャパーニーズパスタ、そばなの、ちょっと汁が甘過ぎるわね、チーズでも入れたらどうかしら」

「あら、寒い土地ではこう言う料理があたたまっていいんです、私は好きですよ鉄郎様」

「フランスでそば粉料理といったらガレットだが、これはこれで、ずずっ」

「麗華、八幡屋の七味とってくれるかい」

「春さんガシガシかけ過ぎですよ、あ、おばちゃんコロッケ追加ね」

「こら、チャイナ、かけそばにコロッケ入れるのは邪道だろ!」

「貴子様、ここは人目もあります、ビールはお控えください」


店のおばちゃんが何この集団とちょっと引きぎみだが、そのうちの一人が美少年となれば自然と顔も緩む、エビ天おまけしようかしら?と本気で悩んでいた。

それにしても変装のつもりか全員でサングラス姿は駅の構内(ホーム)では怪しさ満点、完全に浮いていた、そのうえなんか妙な迫力があるので男性である鉄郎がいるにもかかわらず近寄ることが出来ず、遠巻きにヒソヒソと指をさされ注目を集めていた。鉄郎にとっては結構よくある光景だ。


「パパ、荻野屋おぎのやの釜めしカッテキタヨ」

「キタゾ」


そこにゴスロリにグラサンかけた幼女が2人追加されるもんだからカオスである、手には釜めしの入った紙袋、一人は真っ黒なドレス、もう一人はギターケースを背負った緑色のドレス、要は黒夢クロム翡翠ヒスイだ。


「お、ありがとう黒夢、翡翠。新幹線で食べたかったんだ、鉄道の旅にはやっぱり駅弁だよね」


「鉄、そんなに時間かからないだろ、向こうに着いてから美味しいもん食べりゃいいじゃないか」


「これはこれで美味しいんだからいいじゃん、僕釜めしに入ってる杏好きなんだよ」


「あれって酢豚に入ってるパイナップルみたいでわたしゃ好きになれないね」




この集団のメンバーとしては鉄郎、貴子、春子、麗華、児島、ジュリア、アナスタシア、クレモンティーヌ、それに黒夢と翡翠がいる。

鉄郎達が日本に着いたのは昨日の事だ、世界会議に向けて黒夢専用機であるB2スピリット爆撃機で長野県の松本空港に前乗りした一行は、昨夜は久しぶりに旧武田邸に泊まった。いつもならついてくる夏子だが、今回の会議は平和的な話し合いなので脅し役はいらないと春子に言われ(肉体言語含む)渋々お留守番をさせられている、住之江も長野にも行くことを告げると当然行きたがったがタイミング良く妊娠が発覚、京香のいるバベルの塔に検査入院で放り込まれた、ならば私がとリカが名乗りを上げるが翡翠とのジャンケンに敗れ去った。翡翠の超高速後出しに人間が勝てるわけもなし。



昨晩はゆっくりと松代温泉の黄金の湯を堪能し、夕飯には居酒屋さっちゃんにも顔を出した、店主の幸子もいきなり鉄郎や外国のお偉いさんの来店に驚かされたが、ジュリアが1国の首相とは思えない気安さで場を盛り上げた為、楽しい一時をすごすことが出来た。

クレモンティーヌなど、焼き鳥がいたくお気に召したのか、かなりの数を平らげて他のメンバーを呆れさせていた。






フウィィイイイイイイイイ、プシュー


白と青にカラーリングされた流線型のボディ、北陸新幹線E7系あさまが上りのホームに入ってくる、鉄郎と愉快な仲間達は一番後ろの車両の12号車に乗車した。

入口に立つ2名のアテンダントに案内されたグランクラスの車両には、横3列で並んだアイボリーのゆったりとした専用シートが1車両に席数18と余裕を持って配置され、落ち着いた内装は見るからに豪華な雰囲気を演出している。

(普通車の2号車は横5列の98席、グリーン車で横4列の63席、ちなみにこのグランクラスのシート、レクサスのシートを作ってるトヨタ紡織製でお値段なんと1席300万もするという噂)


「うわぁーグランクラスなんて初めて乗ったよ! 凄い、本革シートふっかふか、いいの? お高いんじゃないのこの席」


「尼崎の奢りなんだから金の心配なんかすんじゃないよ、それに鉄は国王なんだから国賓扱いは当然だろ、いいから早く座んな」


「私、鉄郎くんの隣の席取ったー!!」ボフッ


「貴子、あんたね実質一番年上のくせにはしゃぐんじゃないよ、遠足じゃないんだよ」


すかさず鉄郎の隣席にダイブする貴子を春子が嗜める、子供か。




それぞれが席につくと早速アルコールを注文するのはもうお決まりなのか、春子がメニューに目を通す、それにつられて他の連中もメニューを手に取った。麗華は一応護衛役だけに黒ウローン茶を泣く泣く選択。ドリンクは飲み放題だが、居酒屋ではないので節度ある飲み方をしてもらいたい。


「おっ、日本酒は天狗舞じゃないか、いいね〜」

「ワインはメルロー、スパークリングはシャルドネなのね、私メルローをお願いするわ」

「あら、ウォッカはないのですね」

「日本の鉄道はボルドーの赤ぐらい用意できんのか、向こう(東京)に着いたら尼崎にクレームをつけよう」


このクラスになると車内販売のワゴンは回ってこない、シートについたアテンダントコールを押すとすぐにスチュアーデスのようにビシッと制服を着たアテンダントさんがやってくる、いつもよりスカートの丈が短く気合が入っていた、だがメンバーの素性がわかっているだけにその表情は少し緊張気味だった。



「お姉さん、僕はお弁当食べるのでお茶ください」


「あ、あの、お客様、軽食のご用意もございますが…」


鉄郎がアテンダントのお姉さんの前でおぎのやの釜めしを掲げて見せる、本革シートの豪華な内装にはチープな益子焼の器が若干不釣り合いだった、この時点でJRが鉄郎のために用意していた高級弁当は無駄になった、料理長号泣。


そんなこんなで鉄郎達は時速260kmの速さで一路東京を目指す。

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