第156話 戦後処理

「この世界は今から僕が預かります」


鉄郎のその言葉はこの場にいる者に大きな衝撃を与える。特に現世界政府G9のメンバーであるイタリアのジュリア、ロシアのアナスタシア、フランスのクレモンティーヌにとっては決して無視出来ない発言である。

反対に鉄郎王国のメンバーはと言うと、春子や麗華などは鉄郎の成長に感心し、貴子にリカや住之江など「鉄くん超絶かっこいい」と目を輝かせ、黒夢と白雪はさも当然というように小さな胸を張った。


「武田鉄郎、その発言は君が世界政府のトップになるという意味か?」


クレモンティーヌが鉄郎に問いかける、鉄郎はその問いに微笑みながら答える。


「ちょっと前にジュリアさんに言われたんですよね、僕が世界統一しちゃえばいいって、この際だからやっちゃいましょう」


クレモンティーヌがジュリアを睨む、ジュリアがちょっとばつが悪そうに目をそらすのを、アナスタシアも冷たい目で睨む。


「うむ、世界統一、そんなことは、いや、君ならやれるのか」


他の者が言ったなら一笑にすような言葉だが、なまじ頭が回るクレモンティーヌにはその実現性の高さにすぐに気づく、現状、世界政府とは言っても各国が同盟を組んで管理しているに過ぎない、だが鉄郎が言っているのはそれとは意味が異なる真の世界統一だ、貴子の持つ圧倒的な科学兵器に鉄郎の持つカリスマがあれば十分に可能だと結論つけた。


「いいね〜、鉄郎くんのためなら世界征服くらいチャチャっとやっちゃうよ」


「貴子ちゃん、間違えないで。征服じゃないよ統一だよ、でも貴子ちゃんのことは凄く頼りにしてる、お願い力を貸して」


鉄郎が床に転がっている貴子を優しげに見つめる。


「鉄きゅん♡」


チョロい。


人類史上最高の頭脳をあざとい言葉一つで操る鉄郎に、春子は呆れと恐怖を感じる、孫が本気だ。

これは大人として間違った方向に行かないようにしないと、暴君と呼ばれかねない、改めて気合いを入れ直す。




「さて、善は急げだ。黒夢、今回の戦争で協力してくれた国と連絡とってくれるかな、僕からお礼を言わなきゃ、それと世界会議を開く準備を進めて」


「ラジャー、敵対したアメリカ、フランス、インドはドウスル、滅ぼスカ」


「どうしてそう好戦的なのかな君達は。そうだな、とりあえずクレモンティーヌさんはどうします?」


鉄郎は少し考え込むとソファーに座るフランス代表に尋ねる、クレモンティーヌとしても今更足掻くつもりもないが、戦争を引こ起こした責任は取らねばならんだろうと思い始めていた。


「私は敗戦の将だ、どうもこうもないだろ、君の処分に従うよ」


「じゃあ、僕の国で働きませんか」


「は?」


「だってクレモンティーヌさんって首相なんてやれるくらいなんだからとても優秀なんでしょ、一緒に新しい世界をつくりましょうよ」


「だ、だが、今回の件で私が責任を取らねば世間に示しがつかないだろ」


「責任の取り方にも色々あると思いますよ、死んでしまった人に償うなら、その1000倍の人を幸せにすれば死んだ人も苦笑いで許してくれるんじゃないかな、表に出れないと言うなら裏方でも力を貸してくれてもいいですけどね、どうです、責任を取るというならこれぐらいは世界の為に働いてくださいよ」


なかば脅しの形になった勧誘だが、鉄郎としてはこれからの世界統一に優秀な人材を遊ばせる気はないし無償で許す気もなかった、覚悟を決めた鉄郎はちょっと黒さをちらほらと出し始めた。


元々正義感の強いクレモンティーヌとしては、一緒に新しい世界を作れるこの提案はかなり魅力的だったし、こんな言い方をされては断りづらい。

そして今まで貴子だけしか見ていなかったことを少し後悔した、怒りや恨みは彼女にとって生きる原動力でもあったが、それを他の者にも強要したことは反省しかない、彼女は恥をしのんで鉄郎の提案を受け入れることにした。


「ねえねえ、鉄くんってあんなおばさんも守備範囲なの?」

「いや、鉄くんは年上スキーやけど、あれは流石に範囲外やないかな」

「鉄郎さんの周りがどんどん平均年齢が上がってきて、非常に不愉快なんですけど」


ジュリアが小声で尋ねると住之江とリカがヒソヒソと答える、なんでもかんでも色恋に結びつけるのはジュリアの悪い癖だ。


そこで黙って聞いていたアナスタシアが控えめに挙手すると鉄郎に尋ねる。


「あ、あの、鉄郎様、この場合ロシアの立場はどうなるのしょうか?」


「ん、アナスタシアさんは僕の婚約者候補ではないんですか?」


「えっ、でも、私は鉄郎様との試合で負けて…」


「まだ、1勝1敗じゃないですか、怪我が治ったらリターンマッチぐらい受けますよ」


鉄郎としてもアナスタシアとの試合は非常に有意義で楽しかった、練習とは違う真剣勝負は鉄郎の中にもある武田の血を目覚めさせたのかもしれない。


「よ、よろしいのですか!! あっ、でも、鉄郎様に今度また怪我でもさせたら、もう国(ロシア)に帰れないかも…袋叩きにされそう」


今アナスタシアの本国での評価は婚約に失敗したうえに超貴重な美少年の腕をぶち折った最低女である、せめて結婚という結果を出さなければ不満を抱えた国民によってロシア王朝崩壊の危機まっしぐらだ、まだチャンスがあるなら是が非でも再戦はしたい、だが、絵面的にもう少し平和的な試合には出来ないだろうかと悩む。


するとアナスタシアにとっては救い?とも言える声がかかる。


「鉄くん、ちょい待ち!! このロシア女とはウチがやらしてもらおうか、第一夫人として夫に手をあげるイワンのばかを厳しく躾けたる!」


拳をパキパキと鳴らし住之江が鉄郎とアナスタシアの間にズイッと割って入る、住之江は春子やエーヴァにしごかれ、各国軍隊のエース級を集めた親衛隊の訓練についていけるだけの体力だけは得ている、6つに割れた腹筋は伊達じゃない。本職は数学教師だったはずだが、どこで道を間違えたのか今や嫁のなかで一番武田家に順応している。


「真澄先生、あの試合はお互い怪我ぐらい覚悟のうえでやってるんだから、うらみっこなしだよ」


「鉄くんはほんま優しいな、せやけど…」


鉄郎に窘められ言い淀む住之江だが、そこにリカまでも参戦してくる。


「鉄郎さん、それでも女には譲れない戦いがありますわ、あ、愛する人を傷つけられて黙っていては女の名折れ、このロシア女とはきっちり決着をつけないと、後々遺恨を残しますわ」


「えっ、藤堂会長も戦うの?」


わたくしはそんな野蛮な事はいたしませんわ、そうですわねスポーツ、テニスなんていかがです?」


リカがアナスタシアを睨みつける、アナスタシアにとっては鉄郎と直接戦わずに済むならそらもう願ったりかなったりだ、異論があるはずもない。速攻でその提案に乗っかることにした。


「ふふ、お二人に勝てばいいのですね、いいでしょう喜んでお受けします」





結局この勝負、住之江が格闘で負け、リカがテニスで勝ち、1勝1敗。ムキになった住之江とアナスタシア達が延々と勝負を続けることになるのだが、この時は誰もそこまで長引くとは考えていなかった。


本気でやりあった3人に妙な友情が生まれるのはまた別のお話である。

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