第154話 後の祭り

夜の海岸には似付かわしくない純白のゴスロリドレスでサクサクと砂浜に降りてくる白雪しらゆき、後ろで停まってるハイエースの運転席では仏頂面でコツコツとハンドルを指で弾く麗華がいた、白雪の運転手役がご不満らしい、黒夢シリーズのために早急な自動運転機能装備の車両の配備が望まれる。それかボディを大きくしろ。


貴子そっくりの白雪の登場に、不快感が2倍になったクレモンティーヌが嫌そうに顔をしかめる、だがそんなこと知ったこっちゃないと白雪が口を開いた。


「パパの手術ハ無事終了シタ、黒夢姉様ノ完璧ナオ仕事」


白雪のその言葉に怪我をさせた張本人であるアナスタシアが安堵の表情をつくり胸をなでおろす、春子も自然と顔を綻ばせた。

白雪がちょっとドヤ顔で両腕を大きく広げた、亜金あかねによってスポットライトが当てられているのでさながら天使の降臨を思わせる。


「パパからノ伝言をツタエル、話がアルのでママとフランス女を大至急デ屋敷にツレテコイ、との事」


そう言うやいなや地面を蹴った白雪は浅瀬に立つクレモンティーヌに向けて跳躍した、クルクルと小さな身体を回転させ目の前に着地する、クレモンティーヌが突然目の前に貴子そっくりの顔が現れたのに反応して咄嗟に小銃を向けるが、白雪の高振動ブレードの手刀がスコーンとその銃身を切り落とした。


「なっ!!」


半分の長さになった20式のバレルに目を見開く、明らかに手刀で叩き斬られたことでようやく目の前の娘がメアリー大統領 (アメリカ)の言っていた機械人形であることを思い出す。

白雪がクレモンティーヌに顔を近づける。


「黒夢姉様カラハ、生かシテ連れてコイとダケ言われてイル、抵抗スルナラ手足を斬り落とすゾ人間」


ゴクリ


白雪の感情のないレンズのような瞳と言葉にゾクリと背筋が冷える、クレモンティーヌはポチャリと持っていた20式を海中に落とし両手を上げた。


「ママ達もハヤク車に乗レ、パパが待っテル」


「ほら春子、早くしろよ、置いてくぞ!」


いち早く貴子がグリーンノアの入口にタッタカと駆けて行く、その後ろを春子達が追った、ハイエースの助手席には貴子を膝に乗せ笑顔の華琳が、2列目には白雪、クレモンティーヌ、春子が乗り、3列目にはジュリアとアナスタシア、エーヴァが乗り込んだ。







白のハイエースが武田邸の門の前に止まると左右に並んだ親衛隊のお姉ちゃん達が軍服姿の敬礼で迎える、彼女達の上官にあたるエーヴァや麗華が乗ってるだけに表情も真剣そのものだ。


門を過ぎると所々に戦闘の跡が見られるが、無数のルンバ改が忙しなくその痕跡を消している、2列目の席でその様子をじっと見ていたクレモンティーヌが運転席の麗華に話しかける、屋敷も襲撃の対象になっていただけに友軍の姿がまるでないのは気にかかった。


「ねえ、ここで戦っていたフランス軍はどうなったのよ?」


「はぁ? 何、あんたそいつらごとミサイルで吹っ飛ばそうとしてたんじゃないの、何を今更安否なんか気にしてるのよ」


「うぐっ」


人に銃を向けるなら当然自分が撃たれる事も覚悟しなくてはならない、痛いところを突かれたクレモンティーヌが言葉を飲む、ミサイル攻撃が成功していたら切り捨てる覚悟はしていたが、バリアーで防がれた時点で淡い期待はあった。


「パパの国に潜入出来たノハ、合計84名。ソノウチ57名は死亡を確認シテイル」


横に居た白雪が今回の結果を淡々と告げる、クレモンティーヌの隣に座っていた春子が首を傾げる。


「生き残ってるもんはどうしたんだい?」


「バベルの塔デ、夏子ママと翡翠と茶髪メガネガ世話シテル」


その返答だと屋敷を襲撃した者は全滅したことになるのだが、春子は「そうかい」と呟いただけで口を閉ざした。海から攻めてきた艦隊に屋敷の分を合わせると、今回の戦争では結構な数の犠牲が出ている、春子は深いため息をつく。



玄関の前ではメイド服姿の児島が待っていた、貴子達を乗せた車が止まると恭しく頭を下げ一礼する。


バターンッ!!タカタタッ


「鉄郎君!!」


真っ先に車から降りた貴子が児島の返事も聞かず屋敷の中に全力で駆けて行った、屋敷の中で「そっちじゃなーい!」と大きな声が聞こえた。春子達に向き直った児島が何事もなかったように扉をゆっくりと開ける。


「お帰りなさいませ、皆様どうぞこちらに」


児島の案内で屋敷に入ると今度は元九星学園の生徒達がメイド服で並んでいた、クレモンティーヌよりもアナスタシアに向ける視線の方が冷ややかなものなのは直接戦闘していない者ゆえの心理であろう。アナスタシアが居心地悪そうに身を縮める。

長い廊下を歩いて行くと正面に大きな扉が見える、児島が横のパネルに手をかざすと分厚い装甲のような扉が音もなく左右に開いた。



「だ〜か〜ら〜、鉄郎さんのお世話はわたくしが致しますわ、これでも医者の娘です、看病でしたらお手の物、お茶の子さいさいですわ!」

「なに言うてんねん、鉄君はしばらく右手が使えないんや、ここは経験者のうちが優しく右手の代わりになってあげんと色々溜まってまうやろ、処女は引っ込んどれ!」

「?、このアホ教師は何を言ってますの?」

「アホ言う奴がアホなんじゃボケ!」


「ゴホン!」


扉が開いたのにも気づかず言い争いをしていた住之江とリカが、児島の咳払いでようやく来客に気づく。

気まずそうにする二人に児島が一言。


「住之江様、そのお役目は私の方が適任かと存じます」


「「なんですと!!」」


住之江と麗華が驚きの声を上げたが、リカは意味がわからず首を傾げた。


「そんなことより、鉄はどこにいるんだい」


お前達の話などどうでもいいと春子が児島に尋ねると、さらに奥の部屋に進む。すると後ろからパタパタと駆けてくる足音が聞こえて来る。


「ここかーッ!! はぁ、はぁ、児島、お前、ちゃんと案内しろよ! 鉄郎君の部屋まで行っちゃたじゃないか」


息を切らした貴子がようやく合流を果たした、なんとも落ち着きのない女である。





病院の個室を豪華にしたような部屋にベッドが一つ、その脇では黒夢が心電図を見ながら点滴の調節をしていた。

ベッドの上で身を起こしていた鉄郎が頭を下げる、その右腕はギプスでしっかりと固められて痛々しい。

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