第150話 私の音を聞けぇ!!

ズザザア、パパパパン、トゥラタタタタ、パパパパン


森の中を防戦しながらも塔を目指す陸軍第11落下傘旅団、敵の数が多く上手く進路を誘導されてる気配を感じていた。

そして予想通り、誘い込まれ森を抜けた先には一人の少女が丘の上に立っている、塔が発光しているために逆光で顔まで判別できないが、おそらくアメリカ海軍の情報にあった加藤貴子が作った殺戮人形であろう、一瞬の躊躇もなくMP5(短機関銃)のトリガーを引き絞る、30発の9mmパラベラム弾が一気に銃口から吐き出される。打ち終わったジャングルスタイルのマガジン(2つのマガジンを粘着テープで巻いてくっつけたもの)を取り外すとクルリと反対に回し換装すると素早く木の影に身を隠した。


「やったか? えっ、いない!」


「カカカ、迷いナク撃つトコロは感心シタゾ」


いきなり真後ろから聞こえる幼女の声に、振り向きざま胸のホルスターからグロッグ17を抜くが、すでにその姿はない。

気づけば最初の位置に何事もなかった顔で立っていた、その小さな手が開かれると先ほど自分が射った9mmの弾丸がバラバラと地面に落とされた、背中に冷たい汗が伝う。遊ばれてる?


「カカカ、翡翠ひすいの役目はココマデ、後は夏子ママに交代スル」


翡翠の視線が横に動く。


ブウゥン、ズギャン、ズザァーーーーーッ!


翡翠とフランス空挺部隊の間を切り裂くように飛び込んでくるバイク、急勾配の坂を310馬力のパワーに物言わせ20mの大ジャンプを決める夏子、バイクを降りるとヘルメットを背後の翡翠に向かって放り投げた、翡翠は何を思ったのかそれをジャンピングボレーでフランス軍に豪快に蹴り込んだ、部隊の一人が吹っ飛ばされる。


「こらっ! 誰が蹴れって言ったのよ、あれお気に入りだったのに!」


「オー、ソーリー、弘法も筆の誤リィ」


「まぁ、いいわ、ちゃんと私の分は残しておいたみたいだし。 というわけでここからは私がお相手するわ」


夏子は背負っていた2本の刀を引き抜く、左手には愛用の正宗の脇差、右手には太刀 銘備前国包平作たち めいびぜんのくにかねひらさく 名物大包平めいぶつおおかねひらが握られていた。

極東マネージャーの李 花琳に貰った?まぎれもない国宝の太刀、刃長89.2センチメートルの長さを誇るが、重ねが薄いので重量は1.35kgと想像以上に軽く感じる、夏子はピウッと一振りすると獰猛な笑みを見せ殺気を解放した。




ゴクリ


「あ、あれが武田夏子か、まるで虎とでも対峙してる気分になる、それも飛び切りの人喰い虎だなあれは…」


陸軍第11落下傘旅団隊長ヨハン・リーベルト、ドイツ系移民の母は女子の自分にいやがらせのように男のような名前をつけた、実はその当時は女子に男の名をつけるのが流行っていたらしい、そのせいかは定かではないが部隊では男装をせがまれ宝塚かここはと思ったものだ、恵まれた体躯と格闘センスからこのエリート部隊の隊長まで上り詰めた。


が、今はその境遇を少し後悔していた、まさかこんな化物達と戦わねばならないのかと。


後ろをチラリと振り返る、周りはあの虫みたいなロボットで固められている、それにもう時間もない、塔の占拠と言うミッションは失敗だ、後は生きて祖国フランスに帰ることだけを考えよう。

覚悟を決めたヨハンは刃渡り30cmの黒い刀身を持つサバイバルナイフを逆手に握った。後ろも部下数名もヨハンにならってナイフを構えた。







「へぇ〜、銃は使わないの?」


「どうせ防弾対策はしてあるんでしょ、MP5やグロッグじゃ火力的に難しいんじゃない?」


「ご名答、よくわかったわね、これ貴子の奴が開発した防弾素材で出来てるのよ、9mmなんかじゃ蚊に刺された程度のダメージなのよね」


夏子は胸元を軽く引っ張りながら感心していた、判断が早い、この状況で普通わかっていてもなかなか銃は捨てられないものだ、ここまでたどり着いただけのことはある。

そんな事を考えていると、いつの間にか隣にいた翡翠が夏子をツンツンと突いて来た。


「何?」


「ヒマ」


「……だったらなんか盛り上がる音楽でもかけてよ、出来る?」


「ラジャー」



翡翠は後ろに下がるとどこからともなく取り出したエレキベースにシールドを刺すと、首の後ろに空いてるジャックにつなぐ、すると色々な所からプビィと回線が繋がった音が聞こえた、幼女の体躯にはいささか不釣り合いの大きさのベース、綺麗な緑色にペイントされたメイワンズ・プレステージ(ポーランド製)の5弦ベース、翡翠の小さな手で弾けるのかと誰もが思うが、さも当然のように親指を弦に当てた。


ズ打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打、ボンブ、ベキョベキョベキョ!!


いきなりスラップで重低音の激リフをかき鳴らす、ドリルのような手首の動きでサムピングで親指を弦に叩きつける、左手の正確無比で流れるようなタッピングは世界最高峰のアンドロイドならではの技と言えた。

1フレーズを弾き終わると翡翠は夏子に向けてドヤ顔を浮かべる、どうやら満足の行く演奏だったらしい。


「夏子ママ、BGMはマカセトケ」


「いいわねそれ!気分上がるわ〜、じゃあ、始めましょうか」


化物と人間の戦いの幕が上がる。










時計は午後8時を示していた、8時だよ全員集合!である。

アメリカ大統領メアリー・ブルックリンとインドのカンチャーナが攻撃の指示を出したのは同時だった。


鉄郎王国から200海里 (370.4キロ)。

アメリカ海軍バージニア級潜水艦ブロック4、無反響タイルに特殊塗料を採用することでレーダーに発見されにくい加工が施されている、その分コストは高いがそれに見合った効果は期待出来るしろものだ。そのブロック4から上空に向けて火柱が昇る、21発のトマホーク巡航ミサイルが景気良く一斉に発射された。

インド海軍のフリゲート艦からもブラモス(超音速巡航ミサイル)が発射される、北と南からの同時ミサイル攻撃だ。



フランス軍、原子力空母シャルル・ド・ゴールでは。


「し、しかし大統領、本当に撃ってよろしいのですか、あの国には民間人も、それにまだ部下が」


「タイミングを逃すな、それに核弾頭なんてこんな時に使わないで何時使うというんだ、奴は何十億の命を奪った最悪最恐のテロリストだぞ、あの女の国など地図にのせる価値もない、いいから撃ちなさい!!」


「は、はいっ!」


クレモンティーヌの狂気を帯びた迫力に押された参謀長が核弾頭ミサイルの発射ボタンを押す、同時に空対艦ミサイルAM39「エグゾセ」を満載したミラージュも空母から次々と飛び立った。








「おい、貴子、あんたの科学力をうたがうわけじゃないが大丈夫なのかい、なんか凄い数のミサイルだぞ」


グリーンノアの管制室、壁一面のモニターに100以上の光点が映し出され、アラートが鳴り響く。春子が画面を見ながら呟くと、後ろに立つエバンジェリーナも目を細める。


「この数、この国をまるごと消し去るつもりですかね、貴子の衛星落としを忘れてるとしか思えません、貴子が死んだ場合でも実行されるシステムでしたよね」


貴子を殺す事しか考えていない攻撃、後の世界のことなどどうでもいいと言うのか、アメリカもインドもフランスも正気のさたではない、憎しみが過ぎて気が狂ったか?





春子達の心配をよそに、ちっちゃな胸をはる貴子、怪我をした鉄郎が気がかりなのか機嫌が悪い。


「はーっはっは!! 問題ない、鉄郎君の手術が終わるまでに片付けてやる、亜金あかね蒼天そうてんは造波装置の起動を、真紅しんくはバベルの制御に専念しろ」


貴子が白衣をひるがえし支持を出すと、グリーンノアの底からゴンゴンと重いタービンの音が管制室まで響いてくる、バベルの塔はまばゆいばかりに輝きを放ち始めた。

後ろの方で観戦していたナイン極東マネージャーの花琳は、いつのまにか1体増えている黒夢シリーズの方が気になっていた。



ズドォォォオオオォ!ズドォォ!!



午後8時20分、スリランカの夜空が閃光と爆音に包まれる。

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