第142話 情熱大陸2

ジュリアさんとアナスタシアさんとの話し合いは続く、いきなり押しかけて来た彼女達だが何やらお国の事情もあるようだ。

ハッ、もしかしてこれは政略結婚と言う奴なのでは?


僕は上で集まってるギャラリーの中から真澄と藤堂会長に手招きした、彼女達には現実を知ってもらってお引き取り願わねばなるまい。




「紹介しますね、住之江真澄さんと藤堂リカさん。僕の婚約者です」


「どうも~、鉄君の第一婚約者の住之江や」

「藤堂リカですの」


鉄郎から婚約者としての紹介に住之江は優越感を覚え、リカはイタリアとロシアの首相と言う大物を前に若干緊張ぎみだ。




ジュリアはさりげなく紹介された二人の婚約者に視線を這わす、この時代同性に対する目は厳しい、値踏みするようにリカを観察する。


綺麗なブロンドに大きな青い瞳、それに整った顔立ちと文句のつけようがない美少女だ、この若さならさしずめ鉄郎くんと同じハイスクールの生徒と言ったところか、そして第一婚約者と名乗るやたらおっぱいの大きい女、住之江と言ったか、確かに美人ではあるが鉄郎くんより随分と歳が上に見える、二十代半ばくらいか。

この女が第一婚約者と言うのであれば鉄郎くんのストライクゾーンはかなり広い、30代の自分にもチャンスは十分あると見た。

これでもイタリアの首相だ、外交で鍛えた交渉術には自信がある、さ~てどう切り出すとしようか。



「へ~、なかなか可愛い娘達じゃない、けど住之江さんと言ったかしら、貴女、鉄郎くんの婚約者という割には随分と歳が離れてるんじゃなくて」


「そ、そんな離れとらんわ!それに鉄君は年上大好きっ子やから何の問題もあらへんわ」


「ほ~、年上大好きと。なら私達でも問題ないわよね」


リカが住之江に「何余計な情報与えてるんですの、馬鹿ですの」と小声で呟き肘で小突く。

国際社会で数々の外交をこなして来たジュリアにとって、一介の高校教師の会話を誘導することなど簡単なことだった。大体が貴子も春子もついでに夏子も、基本的に力ずくの交渉術しか持たない為、鉄郎王国にはこういった駆け引きを出来る人間が欠けているのだ。


ジュリアが勝ち誇ったように満面の笑みを鉄郎に向ける、ロックオン状態だ。


しまった、誘導された。べ、別に年上好きなわけじゃ、好きになった人がたまたま年上ばかりなだけで、あれ?僕、年下の知り合いいなくない?

貴子ちゃんは見た目は幼女で年下だけど、実年齢はあれだし…。そんな事を考えていると貴子ちゃんと目が合った。


「なあに、鉄郎君その目は?言いたい事があるなら聞くよ」


「べ、別に、なんでもないよ」


「と、とにかく、僕にはすでに2人も婚約者がいるんですよ、もう定員一杯なんです」


「あら、確か鉄郎様が居たジャパンでは3人まで結婚が認められていたのでは?」


ここでアナスタシアがコテリと可愛く首を傾げる、緑色の瞳が鉄郎をじっと見つめる。


何でしょうこの人、確か30は超えてたはずなのに妙に仕草が可愛いいんですけど、そう言えば京香さんも40過ぎてましたね、この世界の女性って本当いつまでも綺麗ですね、って考えてる場合じゃない。



「いや、もう一人は予約済みと言いますか、予備枠と言いましょうか」


貴子ちゃんを思わず見てしまう、貴子ちゃんには怪我を治してもらった恩もあるし、今更嫌いになる事も出来ないだろう、ちょっと性格や行動はあれだけど。それにあからさまに好意を向けられてるだけに無下に扱うわけにはいかないもんな、ここで枠を使い切ったら絶対キレて人工衛星落としそうで危ないし。(京香さんと児島さんは愛人希望だからセーフ、いいのかそれで)


パチクリ


「えっ、鉄郎君。予約済みって私の為、とうとう正式に婚約者と認めてくれたの!!」


隣に座っていた貴子ちゃんが不機嫌から一転、満面の笑みでソファーの上で立ち上がる。こら、お行儀悪いぞ。


「しょうがないでしょ、でも仮予約ね、正式には5年後だよ」


「しゃーっ!!ついに、ついに彼氏ゲットしたぞ、もうキャンセルは効かないからね、絶対だからね!!」


「はいはい、それまで人類滅しちゃダメだからね」


若干呆れ顔のジュリアが問いかける。


「ねえ、盛り上がってる所悪いんだけど、妻の人数って3人って決まってるの?」


ジュリアさんが不思議そうに聞いてくる、えっ、確か3人までだったよな?


「僕がいた日本では3人ですよ」


「でもここは日本じゃないわよね、この国の法律ではどうなってるの、ちなみにイタリアでは10人までOKよ」


その問いに答えたのは、人間の空気など読まないことでは定評がある黒夢だった。


「パパの嫁に人数制限ハナイ、無制限、無限大」


「「へっ?」」


てっきり3人までと思っていた僕と藤堂会長が揃って間抜けな声を上げた、僕は咄嗟に貴子ちゃんを見るが今度は目を逸らされる。


「貴子ちゃん」


「い、いや、別に無制限にしとかないと私が入れなくなるな~とか考えていたわけじゃないよ」


「うん、うちはなんとなく分かっとったよ、鉄くんの嫁が3人で収まるわけないやん」


貴子ちゃんがそわそわと目を泳がせ、真澄はウンウンと頷いている。


「え~っ、聞いてないよ、僕そんな人数養えるほど、稼げる自信ないんだけど!」



「?、なんで鉄郎様がお金を稼ぐ必要があるのですか?夫を養うのは妻の義務ですよね、結婚資金くらい我が国の予算からいくらでも出しますわ」


アナスタシアさんがおそらくこの世界では常識なんだろう事を言ってくるが、ここは武田家の男として譲れない。


「僕は自分の妻くらい、自分の働いたお金で養いたいんですよ、でもまだ学生ですから喫茶店のアルバイトでお金を貯めてる所ですし」


「「貴女達、男性の国王に何させてますの!!」」


ジュリアさんとアナスタシアさんからのツッコミに、女性陣が面目なさそうに目を逸らした。




「まったく、男性を、しかも国王に給仕のアルバイトをさせるなんて信じられません、このような国に鉄郎様を置いておくわけにはいきませんね」


アナスタシアさんがプリプリと真剣な表情で怒っている、だけど仕方ないじゃないか一介の高校生が出来るバイトなんてそんなにないんだから、そりゃ国王としてはもっと難しい仕事の方がいいんだろうけど、僕が持ってる資格なんて運転免許だけだし、あっ、宅配とかならいけるか。


「鉄くん、なにやら考え込んでるけど、多分そういうことじゃないと思うで」


「えっ、宅配とかも駄目?」


ここですかさず貴子ちゃんが割り込んでくる。


「鉄郎君、私に毎日「おかえりなさいハニー」って言う仕事ならあるよ、時給なら弾むよ」


「あっ、こら、ずっこいぞちびっ子、鉄くん、そないな仕事やったらうち月30万は払うわ」


「え~っ。真澄先生、それはちょっと引くんですけど」


「ガ~ン」


「もう、真澄には結婚したらそれくらい無料ただで言ってあげるから」


「ほんまに、言質とったで!けどハニーやのうて真澄って呼んで!」


「て、鉄郎さん、あ、あの、わ、わたくしにも……」


「もちろん、藤堂会長もですよ」


「鉄郎さん♡」


「お前ら、人が振った話でイチャイチャすんな、ミサイル撃つぞ!」





ジュリアは目の前で行われる会話に驚きを隠せなかった、男性が少ないこの時代でこんなにも仲よさげに男女が話している。自国の男性と言えば、どこか上から目線で対等な会話とはお世辞にも言えないし、女性の方も種を貰う立場から男性の傲慢な態度を許してしまっていた、自分もこの輪に加わりたい、正直目の前の光景がとても羨ましく思えた。しばし目をつぶって考えた後、口を開く。



「鉄郎くん、私からひとつ提案があるんだけど」




ジュリアの口から出てきたのは、現状の世界政府とは別の新しい国家を作る事だった、それは今の鉄郎王国とどう違うのかと聞いてみれば、ジュリアはしれっとこうのたまう。


「鉄郎くんが世界を統一すればいいのよ」


「はい?」


「ソノ話しクワシク」


ジュリアの話に食いついたのは、やっぱり黒夢であった。

もう嫌な予感しかしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る