第141話 情熱大陸1

ヴォイヴォイヴォイヴォイ


貴子が設計した船舶用の高出力モーターの音を響かせ、ナイン・エンタープライズ極東マネージャー専用船“青龍”がコロンボの湾内にゆっくりと入港してくる。全長300m超えの巨大な豪華客船だが湾内にはさらに巨大なグリーンノアが停泊しているため、それと比較すると小さく錯覚してしまう。

旅客数5000人を楽に収容できるこの船だが、今は乗組員を含めても200名足らずの人間しか乗せていない、そのなかには各国で選ばれた妊娠適齢期の乙女達が含まれていた。


青龍はそのままグリーンノア後方にある専用ドッグにその巨体を滑り込ませる。基本的に鎖国状態の鉄郎王国だけに直接港に接岸することは無い、グリーンノアが出島の役割を果たしているのだ。






「来た来た、で、金ちゃん、今回は何人受け入れるんだっけ」


「ン、イタリアとロシアから10人づつノ計20人」


ドッグに入ってきた青龍の姿を眺めながらチャイナドレスの李麗華とゴスロリ姿の亜金が言葉を交わす、鉄郎達が世界会議で決めてきた妊娠適齢期の女性達の国内受け入れの為、確認と監督役として今二人はこの場にいる。

亜金は元々海上の防衛担当をしているし、麗華は釣りをするため毎日のようにグリーンノアに通っているのでこの役を仰せつかってしまった。




カツン


青龍の昇降用タラップに真っ先に足をかける女性、すらりとした長身に派手な真紅のスーツ、ゆるくカールした長い茶髪をかき上げる、サングラスを外すと胸のポケットに引っ掛ける、その仕草が妙に様になっている。

女性はドッグの中をクルリと見渡す、上の階で見ていた麗華達と目が合うと赤のルージュをニヤリと歪ませた。


「アノ女ハ、…データ検索スル」


亜金の瞳がチカリと青く光る。


「どうしたの金ちゃん?何か問題あった?」


「イタリアの首相がイル」


「へっ?」


「アノ赤スーツ女、イタリア首相ノ、ジュリア・ロッシ39歳ニ該当スル」


「何でそんなお偉いさんがいるのよ?乗船リストには載ってなかったわよね」


麗華が不機嫌そうにジュリアを睨みつける、不当入国とあらばこちらとしてもそれ相応の対応をせねばならない。







「ちょっとジュリアさん、後がつかえてますの。早く降りてくださる」


「悪いわね、噂のグリーンノアの船内に見惚れてたのよ、本当凄く大きいわね」


入口で突っ立ているジュリアに文句を言うブロンドのショートヘアの女性、早く行けとばかりに緑色の瞳でジュリアを睨みつけるがジュリアは全く動じない、頭だけ後ろを振り返るとショートヘアの女性の全身を舐めるように視線を這わす。


「それにしてもアナスタシア、若作りが過ぎるんじゃない、ロシアって寒いんでしょ、何そのミニスカート、屈んだら中身見えちゃうわよ」


「まだ十分若いです、それにKGBの掴んだ情報だと、鉄郎さんは足フェチですからこれが正解です」(KGB優秀だな)


「え、マジ!パンツスーツは失敗だった?」


「フッ、ジュリアさんの弛んだおみ足でしたらどちらでも同じでしょう」


「にゃにおう、三十路女が!私だって脱いだら凄いんだぞ」



「あ、あのアナスタシア様、ジュリア様、後ろがつかえてますのでその辺で」


二人の後にはどうしたらいいかわからずオロオロする一般女性達が居た。


「あら失礼、ほらジュリアさん早く行きますよ」


コツコツ


「な、ちょっと待ちなさいよ」



なぜかこの便に世界政府G9の二人が乗り合わせていた。







武田邸、玄関ラウンジに人だかりが出来ている。

階段の上でメイド服姿の学生達が興味深そうに階下を覗き込んでいた。ソファーにふんぞり返っていた貴子が機嫌悪そうに口を開く。


「で、お前ら何しに来たんだ、G9はそんなに暇なのか?」


「あら、各国10名の受け入れは会議の時に約束していたじゃない、忘れたの貴子お婆ちゃん」


「若返ったのは身体だけで脳みそはボケてきましたの?」


ぷちっ


「貴様らぁ~っ!」


貴子を前にジュリアとアナスタシアが挑発とも取れる言葉を放つ、グリーンノアで入国早々に麗華達に捕まった二人だったが、一応世界政府のトップに名を連ねる人物ではある、連絡を受けた貴子はその場で始末しろと息巻くが、調度隣にいた鉄郎が待ったをかけて屋敷に呼ぶことになったのだ、流石に一般人として扱う訳にはいかなかった。


「まあまあ、貴子ちゃん落ち着いて、どうどう」


熱くなっている貴子の頭を鉄郎が優しく撫でると、一瞬にしてニヘラとだらしない顔になった、チョロい。

貴子をなだめると鉄郎は二人に向かって話しかける。


「ジュリアさんもアナスタシアさんも国の代表を務める立場にある方でしょう、そのような方がなぜこの国に?」


「モロチン、鉄郎くんとセッ○スしにきましたの!」


「ぶーーーーーーっ!!」


「ジュリアさん直接すぎです、これだからラテン民族は。……鉄郎様、わたくしに貴方の子種を頂きたいのです」


「ぶふーーーーーーーーっ!!」


二人の言葉に吃驚して口から魂のような何かを吹き出す鉄郎、その周りがにわかに殺気立ちザワザワと殺意が広がって行く。



「私達だってまだなのに、いきなり何言ってるのかしらあのおばさん、死にたいの」

「政府代表か知らないけど、図々しいにも程があるよね、ちょっと綺麗なだけのくせに調子に乗ってんじゃないわよ」

「生きて帰れると思うなよ、怨、怨、怨、怨、怨、怨」

「夏子お母様やっちゃえ!」



2階のギャラリーから怨嗟の声が湧いている。その声に押されたわけではないが、それまで後ろで黙っていた夏子が前に出た。


「あんた達、自分の言ってることがわかってるの?鉄君との子供が出来たらイタリアもロシアもこの鉄郎王国の属国扱いにするわよ」


「問題ありませんわ、むしろその為に私自らこの国に来たのですから」


「私も鉄郎くんが夫となってくれるなら、イタリアを従属させてもいいわよ、その方がメリットありそうだし」


「その言葉、国の総意として受け取っていいのね」


夏子が日本刀で肩をトントンと叩きながらギロリと睨みつける。


「もちろんです、それ程までに我がロシアの男性不足は深刻なのです、それに鉄郎様が私の旦那様になったら国民も大歓迎です」


「イタリア女は良い男には目がないから文句は出ないよ、ネっ、鉄郎くん」パチッ


ジュリアがウインクを鉄郎に飛ばす、言ってる事は国の運命を左右する事なのにノリは軽い。


「……なぁ、鉄郎君、今この端末には世界中の人工衛星からレーザーを発射させるスイッチがあるんだけど、押しちゃ駄目かな?かな?」


いつの間にか貴子の瞳からハイライトが無くなっている、やばい状態になっていた。


「貴子ちゃん、ステイ!もうちょっと事情を聞いてあげよう」






ギャラリーで覗いていた婚約者の住之江とリカは鉄郎のモテっぷりに、今更ながら呆れていた。


「なんやのこの状況、鉄君世界会議でナンパしてきたんとちゃうやろな」


「また、年増が増えましたわ」


「うちはピチピチの二十代や、一緒にすな!!」


「誤差の範囲ですわ」

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