第140話 鉄郎のバイク
「バイクに乗ろう」
きっかけは僕の些細な一言だった。
まぁ、出来事なんてものは大抵些細な事から始まるんだけどね、どこかの科学者が失恋しただけで世界を滅ぼそうしたのは流石にどうかと思うが。
屋敷のラウンジでお酒を飲んでたお母さんを見つけたので声をかける。
「ねえ、お母さん、バイクの免許ってどこで取れるの?」
考えてみたら僕も16歳になったことだし原付免許でも取ろうかとふと思ったのだ、トゥクトゥク (三輪自動車)には乗った事はあるが、あれは貴子ちゃんが電動に改造してくれたので遊園地のゴーカートみたいな気分で乗っていた、ようは無免許運転である。
「ん、なあに鉄君バイクに乗りたいの!!だったらお母さんが手取り腰取りねっちょりと教えてあげる!!」
「いや、それだけは遠慮しときます。じゃなくてこの国の教習所ってどこにあるの?」
「さあ?お母さん国際免許だから知らないわ、貴子知ってる〜」
お母さんが後ろを向くと、貴子ちゃんと児島さんが珍しく仕事をしてるっぽかった、パソコン広げて何やってんだろう、いつもだらけてるイメージがあるけど貴子ちゃんって仕事してるのか?(天才発明家に失礼な奴である)
「ん~確か試験場に自分でバイクとか車を持ち込んで、実地試験と学科試験受ければその日のうちに取れるよ」
「えっ、自分でバイクを用意するの?」
「ああ、試験用の車を用意してるのは日本ぐらいじゃないかな、外国だと教習所とかもあんま無いしね」
「ほへ~、免許取りに行くのに自分で運転してくの?」
「そうだよ (建前としては家族に乗せて来てもらいます)、ようは運転はもう出来るから免許よこせって感じかな、その点日本やロシアは免許取るの面倒くさいよね、お金も日数もかかるし」
どうも日本で免許を取る感覚とは違うらしい、随分とアバウトだな。運転免許取りに行くのに自分の車で来いってなんか矛盾してるような気がするけど。
「そうか、じゃあ婆ちゃんにバイクを借りなきゃいけないかな」
「と言うか、ここは鉄郎くんの国で国王なんだから免許なんかいらなくない、イギリスの女王なんか無免でジャガーころがしてるぞ、どうしても欲しければ屋敷の庭で練習すればいいよ、試験官呼んであげようか」
「なんと、そんな抜け道が!!」
イギリスの女王って会議の時に会った上品そうな婆ちゃんだよな、意外とやんちゃなんだ。(イギリスの女王様は交通法から除外されるため運転免許試験が免除されてるだけで、運転はちゃんと習っています)
「はは、ついでに車の免許も取っちゃえば、16歳でもこの国なら取れるよ」
こうして僕はバイクと車の免許を取ることになった、ちなみに日本のような50ccの原付免許はなくてバイクなら大きいのでも無制限で乗れるらしい。お母さん曰く
「だって車なら一つの免許で軽自動車からフェラーリまで乗れるのに、バイクは小中大って分かれてるのがおかしいでしょ」
と言う事らしい、けど原付スクーターと大型バイクは運転の仕方違うんじゃないのかな?
数日後。
「皆んな見て見てぇ!ほら、運転免許証、これで僕も車もバイクも乗れるんだよ、高校生なのに凄くない」
夕食の時間にゴールドの輝きを放つ免許証を見せてくる鉄郎、一般の物と違う金メッキが施された特別製である、これ1枚で位置情報から音声まで拾える(鉄郎には内緒)優れもので鉄郎専用仕様であった。
鉄郎は武田の血が成せる業なのか思いの外運転が上手かったので、たった1日で取得とあいなった。
嬉しそうに免許を見せてくる鉄郎を皆微笑ましく見守った。
「さて、問題はどのバイクに乗るかなんだけど、予算的に一括は難しいよな、国王でもローン組めるのかな」
鉄郎がバイクカタログを広げていると、当然のように人が集まってくる。
「バイクより自転車のほうが健康にいいのに、鉄くんの裏切り者」
基本自転車派の住之江が文句を言ってくるが、住之江の乗ってるロードレーサーは慣れないと尻が痛くて鉄郎には評判が良くなかった。
「鉄郎くん、私がバイク作ってあげようか、赤くて前後が超電導モーターの凄いの!」
「金田のバイクか!」
「鉄君、鉄君、お母さん本田CBR1000RR-Rをオススメするわ、4ストだから初心者にも乗りやすいし、すっごく速いわよ!!で、お母さんとツーリングに行きましょう!」
「夏子さん、いきなり200馬力超えのバイクはどうかと…」
児島が夏子に苦言をていする、自動車なら若葉マークつけてフェラーリに乗れって言ってるようなもんである。
「そお、鉄君なら乗れると思うんだけど、私の息子だし。それに夢だったのよね息子と一緒にバイク旅、夜は旅先で一緒のテントで燃えがるの!」
「ひぃっ、一緒のテントは駄目ぇ!!」
鉄郎がなぜか夏子ではなく児島を見て怯える、児島が鉄郎にだけ見えるようにウインクした。
「?、バイク旅だったらハーレーでいいんじゃないかい、婆ちゃんのお下がりでよければガレージで眠ってるV-RODがあるよ」
春子も話に加わってくるが、どうにもこの親子は初心者に過激なマシンを勧めてくる。
「う~ん、僕そんなに大きいのじゃなくていいんだよね、街乗りだけだし」
「ほな、スーパーカブとかでええんとちゃう、めっちゃ乗り易いし、最近は人気あるらしいで」
「カブは駄目よ、だって遅いもの。いい、鉄君、これはお母さんの持論なんだけど速いって事は人生に余裕が出来るの、40kmの道のりを時速40kmで走れば1時間、でも時速240kmなら約10分で着く、つまり50分もお得なのよ」
住之江の言葉に夏子が謎理論をほざくが、その理論だと危険度が10倍どころの騒ぎではない、ただの死に急ぎだ。
「そうですね、鉄郎様がツイッターで「僕バイク乗りたいんだけど頂戴♡テヘ」って呟けば、宣伝効果は抜群でしょうし色々なメーカーから贈られてくるのではないですか、それなら
児島がそんな提案をしてくるが、そんな事をしたら本当に送ってきそうで怖い、イタリア首相のジュリアなんぞ喜んでドゥカティのスーパーレッジェーラ(お値段1000万超えのスーパーマシン)あたり贈ってきそうだ。羨ましい。
今の世の中、男性は女性の送り迎えが常識となっているので転けたら怪我するようなバイクに乗る男はまずいない、そんな中で鉄郎が広告に出たらこぞって同じ物に乗りたがる女性が急増することだろう、そうなればメーカーとしても充分元が取れるので問題ない。
「流石にそれはずるいでしょ、それに自分のバイクは自分で働いたお金で買いたいんだ」
結局、悩んだあげく鉄郎が選んだのは黄色いモンキ-125であった。
バイトの通勤に使ってるため、それからは街中でちっちゃなモンキーに乗った鉄郎がしばしば見かけられるようになる。結構可愛いと評判だ。
こぼれ話としてはその姿がインスタにアップされたためモンキーが世界的大ヒット、メーカーから感謝状と赤、青、黒の色違いのバイクが3台贈られてくる、そのバイクはちゃっかり黒夢と亜金と真紅が無免許で乗っていたりする。
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