第138話 チャンドリカの娘はチャリタリ

「デハ始めル、良く見テルヨウニ」


「はい、師匠!」


コロンボの海岸沿いの砂浜で幼女が二人と一人の男が何やら真剣な表情で立っている。亜金あかねとチャリタリそしてマイケルの三人だ。

亜金がマイケルの手首をそっと掴む、マイケルちょっと嬉しそう。チャリタリはワクワクと期待を込めた眼差しでそれを見つめている。


「マイエンジェル何を?」


亜金はマイケルの手首を持ったままクルリと背中を向けた、トンと小さなお尻をマイケルの身体に押し付けるとそのまま手首を軽く引っ張る、次の瞬間にはマイケルの身体はふわりと宙に浮き、天地が逆転する、背中が砂浜に付く瞬間に軽く引っ張ると大した衝撃もなく地面に下された、柔道の一本背負に良く似た投げ技だった。


「「おおぉ!」」


砂浜に転がされたマイケルとチャリタリが亜金の投げ技に驚きの声を上げる。


「次、チャリタリがヤッテミル」


「はい、師匠!」


今度はチャンドリカがマイケルの手首をぎゅっと両手で掴む、水色のワンピースが褐色の肌に良く映えている、2たび幼女に手を握られてマイケルちょっと嬉しそう。


「えいやーっ!!」


チャリタリが力任せに引っ張った手首からグキリと嫌な音がして、体勢を崩したマイケルは砂浜に頭から突っ込んだ。


「ぶべっ」


「おにーちゃん大丈夫?」


「チャント投げられろクズ」






わたしが生まれた時にはこの国に男の人はいなくなっていた、本当は2歳の頃まではいたらしいのだがまだちっちゃかったのでよくおぼえていない(今も十分小さいが)、チャンドリカお母さんが言うには隣の国のインドって所に大きな男性特区が出来て皆んなそっちに引っ越してしまったらしい。

お母さんはもうこの国はお終いねとよく泣いていた、私としてはまだ男の人に会ったことがないのでいまいち良くわからなくて首を傾げるだけだった、家は紅茶農園や喫茶店を経営しているので生活にはこまっていなかったから不幸の実感がなかったのかもしれない。


そんな時、この国にケーティーと言う女王さまが来て国の名前が変わるとインドから偉そうなおばさん達が街にお話に来た、政権交代とか難しい言葉を皆んなとしゃべっていた。お友達のナヤナちゃんはインドに引っ越すらしい。てつろう王国ってなに?


しばらくして新しい女王さまと国王さまがやって来ると言うので、お母さんに連れられて農園のあるヌワラエリヤからコロンボの街にやってきた、いつもは茶畑しかない所に住んでいるのでコロンボの街に来れたのはうれしかった、海のむこうから大きな島が動いてやって来たのには本当にビックリした。あれが船?どう見ても島でしょ。


動く島から降りて来たのはわたしと同じくらいの歳の真っ白な髪のきれいな女の子、そしてその隣には男の人が立っていた、まわりのおばちゃんやおねーさん達がスゴくうれしそうに手を振っている、お母さんもなんかぽぉーっとしていた。


「お母さん、あれが新しい国王さま?」


「そうよ、あれが男の人なのよ!!しかも凄い美少年!!」


「ふ〜ん、あれが男の人かぁ、なんか見てるだけでうれしいね」


初めて見た男の人はニコニコ笑っていて優しい人そう、国王さまを見てるとなぜか胸がドキドキした。



新しい国王さまが来てから皆んなよく笑うようになった、国王さまの話をしている時は隣に住んでるいつもは怖いおばさんも笑顔だ、おっきな白い塔が出来てからは電気代がタダになったとお母さんは喜んでいる。


ある日空からピンク色のヘリコプターが飛んできて、国王さまと女王さまがお母さんの農園にやって来てビックリした、お母さんいつの間に国王さまと知り合いになったの?

そしてなぜか国王さまがお母さんのお店でアルバイト?働くことになった、王様でも働くんだと思ったけど、同時にえらいなぁと思った。

ヌワラエリヤの農園は叔母さんにまかせてお母さんとわたしはコロンボの街で暮らすことにした、お母さんはオフィスラブがどうたらと興奮していた、ちょっと気持ち悪い。


「お前ガ店長の娘カ、黒夢と亜金はパパの娘、コンゴトモヨロシク」


お店には国王さまと一緒に、お姫様みたいな服を着ている髪の色以外女王さまにそっくりの子もやって来た、わたしと同じくらいの歳なのに色々なことが出来てすごいお姉ちゃん達だ、ついでにもう一人マイケルっていう太った男の人も来た。

マイケルさんは国王さまと違ってあんまり仕事をしないから、いつも黒夢お姉ちゃんや亜金ちゃんに怒られている、働かざるもの食うべからずだよおにーちゃん。あと、マイケルさんはおにーちゃんと呼ぶと喜ぶ、なんで?


「このクズロリは自称紳士ダカラ害はナイと思うガ、チャリタリに護身術をオシエル」


亜金ちゃんはそう言って、わたしに柔道?を教えてくれるようになった、亜金ちゃんはものすごく強くて練習の時にマイケルさんはいつもポンポン投げられている、投げられながらニコニコしてるけど痛くないのかな。

柔道を教えてもらう時は亜金ちゃんを師匠と呼ぶことにした。



国王さまが来てからお母さんのお店はいつもお客さんでいっぱいだ、時々女王さまやおっぱいの大きいおねーさん達もやって来るけど家のお店ではお酒がないのですぐ向かいのお店に行ってしまう、お母さんの作るケーキはすごく美味しいのにもったないと思う。


「チャリタリちゃん、お昼ご飯食べよっか」


お店の昼休み、お母さんが買い物にでかけたので国王さまが“まかない”だよと言ってお昼ごはんを作ってくれた、親子丼って食べ物で国王さまの国のお料理らしい、トロトロの玉子と鶏さんのお肉が入っていてとても美味しかった。王様なのにお料理まで作れるのはすごいと思った。


「国王さま、これおいしーっ!!」


「そう、良かった、じゃあ今度お屋敷においで、和食って言って僕の住んでた所の料理を他にも作ってあげる」


「うん、行くっ!!」


元気よく返事をすると国王さまが頭をなでてくれた、男の人に頭をなでてもらうとすごくうれしいことがわかった、でも黒夢お姉ちゃんや他のお客さんが怖い顔で見ててすこし怖かった。


夜にお母さんにその話をすると「家の娘が後宮にお呼ばれーーっ!!」と叫びだした、国王さまが来てからお母さんはときどき壊れることが多くなったのでちょっと心配です。


最近は毎日が楽しくて、いつまでもこんな日が続くといいなって思っています。

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