第129話 犯行声明

2日後、千代田区霞ヶ関にある警視庁本部庁舎を横目に駐車する1台の車、中には白衣を着た2人の美女が乗っていた。


「疲れました~、こんな短時間であんな物作れるなんて、所長はやっぱり今世紀最高の天才ですよ~」


美女の一人、児島がハンドルに顎を乗せながらぼやきつつ褒め称える。


「それにしても、随分簡単に中に入れたな、仮にも日本警察の中枢だろうが」


助手席に座る美女、貴子も庁舎を見上げ口を開いた。むさい男だらけの建物に白衣の美女が2人も歩いていれば注目はされた、しかし皆どこかの医者かと思い鼻の下を伸ばして見送っていただけの事だけなのだが。九州・四国地方にウイルス感染が広まってる影響で意外と医療関係者も出入りしている時期だったも大きい。


「今は天皇様が亡くなったばかりだからお役所は色々忙しいんじゃないですか、それより本当にやるんですか?」


「カカカ、近々建替えの予定があるらしいから、私が解体を手伝ってやろうと思ってな。ポチッとな」


カチリ


そう言うと貴子は手に持ったボタンを押した。


「ああぁ、本当に押しちゃった。これで私も犯罪者の仲間入りですね、うぅ〜、後は所長の新型爆弾の威力に期待ですね」


児島が嘆いていると庁舎の屋上から真っ赤な煙が湧き上がるのが車の窓から見えた、しばらくすると次々と庁舎から人が避難して来る、外に出た人々が建物を見上げれば、今度は屋上から天に向かって花火のような火の粉が噴き出し始め火の粉が舞い散る。噴出し花火のドラゴンを想像してもらうと光景が頭に浮かぶだろうか。


ただならぬ光景に一斉に逃げ出す人々、周辺一帯に人気ひとけが無くなった瞬間、大きな爆発音が響き渡った。


チュドーーーーーーーン!!グワシャ!ガラガラガラ


その衝撃は庁舎を真下に押し潰す、土煙が舞い上がり視界が遮られる。


「良し、成功!計算通りに真下に向かって衝撃を伝えられたな」


「ふぁ、お見事です、テルミット爆弾でもここまで正確には壊せませんよ」


「はっはっは、最初に特殊な煙を充満させて内部で誘爆させるのがコツだよ」


土煙が晴れて視界が戻ると警視庁本部庁舎は跡形もなく崩れ去っていた。あれだけの爆発で周りの建物には傷一つ無い、貴子は解体業者でも十分働ける逸材だ。




桜田通りで先程まで庁舎があった場所、今はさら地になった場所を見て呆然としている警視総監、そこに丁度手紙を届けに来た郵便職員が総監の姿を目に留め手渡した、絶妙なタイミングである。


封筒の宛名は警視総監、中には犯行声明が書かれた紙が同封されていた。



以下、原文。


犯行声明。

私こと加藤貴子はこのたび全世界の男性を殺害すべく特殊なウイルスを散布致しました、その所為で皆様には大変ご迷惑をお掛け致しますが何卒ご容赦くださいませ。

一昨日時点では自首でもしようとお電話したのですが、刑事さんに信じて貰えなかったので東京駅から急遽予定を変えて弊社を爆破させていただきました。大変ムカついたので電話の応対の仕方はもうちょっと教育したほうがいいと思います。

尚、空気中で自己増殖するウイルスも爆破の際一緒に散布してますので、大体3週間ほどで日本全土に広ま、いや、地域によってはもっとかかるかもしれません、日本は平地が少ないので気流の計算がし辛いのです、ごめんなさい。

世界の主要国にも同様のお手紙を出していますが、届いていない国には回覧板でもまわしてお知らせをお願いします。

では、誠に勝手ながらこれにて逃走いたします、けして探さないでください。

かしこ


加藤貴子より



警視総監の手紙を持つ手が震える、目の前に広がる光景にも現実味がまだ湧かない、膝に力が入らずペタンとその場にへたり込んだ。


「ふ、ふざけるな、ふざけるなよ…」




当然だが、市ヶ谷の自衛隊の防衛庁にも警視庁爆破の速報が入る、春子もこの知らせにその身を震わせていた。


「許さんぞ、加藤ぉ!」






ブロロロ


「で、所長これからどうするんです?世界中の人から恨まれちゃいましたよ、もう自首する気は無いんですよね」


「とりあえず、中国に戻るか、花蓮様も何か困った事があったら相談してねって言ってたしな」


「まぁ、今のナインなら普通に所長を匿ってくれそうですけどね」


「あっ、児島、そこ左折禁止だぞ」






貴子の犯行声明が各国政府にも届けられたが、今はどこの国も自国のウイルスによる混乱を治めるの手一杯ですぐに捜査を出来る状態になかった、なにせ急に人員が女性しか使えなくなったのだ、体制が整うまでは致し方ない。





翌日、東京で一仕事?終えた貴子と児島は青龍の停泊している直江津港を目指して来た道を引き返していた、50年前の日本だ、現代のように情報ネットワークが貼りめぐされているわけでは無い、指名手配でもされてなければ逃走するのは決して難しい事ではなかった、しかも今は警察も混乱していて機能していない状態ときた。


懐かしの長野まで戻り川中島近辺を車を走らせていた時、貴子は強烈な殺気を感じた。


「児島!ブレーキ!!」


「えっ」


ズギャギャギャ!!ドオンッ!!


児島が急ブレーキをかけ、貴子がサイドブレーキを引いた事により車がスピン、クルリと横向きになった瞬間、貴子と児島の目の前を1本の朱槍が凄まじいスピードで通りすぎて行った。児島の前髪が何本か切れて舞う。


1回転して進行方向が元に戻ると、正面の道の真ん中にはユラユラと陽炎のような殺気を放つ鬼が刀を持って立っていた。鬼舞辻無惨だ鬼殺隊を呼べ。



「武田春子!」



加藤貴子を止められる可能性がある、超常の力(武力)を持つ人物の強襲である。

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