第75話 おたまじゃくしはカエルの子♪

期待と不安が入り交じった視線が京香さんに向けらる。京香さんの眼鏡が照明の光を反射してキラリと光った。


「では、人類の希望の光をご覧いただいきますわ」


タンッとPCのキーを軽快に叩くとモニターに映し出される2枚の画像、ん、なんだあれウニョウニョ、おたまじゃくし?


「はい、注目!! この画像は鉄ちゃんの精子を顕微鏡で見たものですわ!」


「ぶーーーーーーーーーーーっ!!!!」


な、な、何、人のもん勝手に晒してんの!! やめてぇ〜っ、皆してそんなにじっと見ないでぇーーーーっ!!

僕の動揺をよそに京香さんはシレッと説明を続ける、お医者さん怖い、人権もプライバシーも無い。


「この二つの画像、まずは左は4ヶ月前に鉄ちゃんの初めての採精で記録されたものですわ、これは夏子さんに提供してもらいました。他の一般男性に比べて非常に健康なのがわかりますね、しかしそれでも妊娠時に男子が産まれる確率は10%前後、これは鉄ちゃんの名誉の為言っておきますけど、決して低い数字ではありません、むしろ誇っていい数字ですわ」


いや、京香さん、そこで優しく微笑まれても、僕としてはいったいどんな顔をすればよろしいんでしょうか。


「続いて右の画像、こちらは先月鉄ちゃんが家の病院で経過検査をした時に採取した物ですの、よ〜く見て頂けるかしら、ここ!! ここですわ!! この頭部にあたる部分の大きさ、尾の部分の元気な動き、恥ずかしながら私、この画像を見た日は興奮して一睡も出来ませんでしたわ!!」


いやぁーーーっ、見ないで!! なんなのこの羞恥プレイは!!


「はぁ、はぁ、一目見ておわかりのように、たった数ヶ月の間に濃度、運動率とも驚異的な上昇変化を果たしています、それにより妊娠率が高いのはもちろん、シミュレーションでの男子の出生率はなんと驚きの80%ですわ!! 80%!!」バンバン


京香さんが興奮して机を叩きながら力説してくれる、それは僕が凄いスケベだって言っておられるのでしょうか。もう好きにしてください。


「原因として考えられるのは、怪我を直す際に飲んだ貴子さんの薬ですわね、一度幼児化した事との関連性はまだ分かっていませんけど」


「えっ、京香さん、それじゃあ、僕がスケベになったってわけじゃないんですね?」


「あら、私エッチな男の子は大歓迎ですわ、それにあまり溜め過ぎると白血球も増えますし、質が低下するので定期的に発散することをおすすめしますわ」


ゴクリ


ちょっと、なんで皆そこで真剣な顔して唾を飲み込むんですか!! 音が聞こえましたよ、藤堂会長までそんな熱い視線を送るのやめてくださいよ。


「今の世界状況と合わせて、鉄ちゃんの価値をこれで理解出来てもらえたかしら、鉄ちゃんの遺伝子を継ぐ子供が次の世代を、ひいては人類を救う可能性を秘めているという事を……」


「もちろんこれから実際に検証してみないと、正確なデータはとれませんけど、でも大丈夫!! 検証でしたら、私が身体を張ってでも実証してみせますわ! 鉄ちゃん、これは決していやらしい事ではないの、人類存亡をかけた崇高な儀式なの、ねっ」


あっ、京香さんが壊れてきた、家のお母さんみたいな事言い出した、でも同じ事言ってるのに、なんでこんなに色っぽいのこの人。


「身体を張ってって、それって京香さんと……」ゴキュリ


「こんなおばさんじゃ、駄目?」


そ、その上目遣いは反則じゃないかな、それに駄目じゃないから困ってるんですけどーーーっ! 昨日のお風呂での記憶が蘇ってきちゃったじゃないですかーーっ、くっ、でも、僕には……。


「そ、そう言う事は愛し合ってる者同士でするものであって、決して京香さんが駄目ってわけじゃ」


「あら、私は鉄ちゃん大好きですわ、それに私、鉄ちゃんの赤ちゃんだったら、是非とも産んでみたいですわ」


「お母様!! 良い歳こいて、なにおっしゃってますの! 破廉恥ですわ!!」バン


「リカ、こういう事は経験者の方がいいのですわ、若けりゃいいってもんでもないのです」


「あっ、じゃあ私も大丈夫ね、鉄君、お母さんにもちょーだい」


「あんたは、だまっとれ!!」


「カカカ、パパの子供イッパイで世界征服ダナ」


「うあ〜、夏子さん達、良い話が台無しだわ〜、大体ここは適齢期である私一択でしょ、ねぇ〜鉄君、ここは李お姉ちゃんが試してあげる」


なんだろうこの人達、結構世界にとって重要な話かと思ったんだけど、急に緊張感が無くなった。ん、ラクシュミーさんが手を上げている。



「皆さん、今のお話が本当だとすると、鉄郎さんの存在は、世界にとってまさしく希望の光です、ここは身柄を政府で管理すべき案件だと思いますよ〜」




バァーーーーン!!


貴子ちゃんが勢い良く机を叩く、おわぁ、吃驚した。


「ぐっ、それは鉄郎君が、どこの骨とも分からん奴に陵辱されると言う事だろう、私がそんな事を許すとでも思ったか!!」


ラクシュミーさんが貴子ちゃんの迫力に押されて後ずさる。


「うん、僕としても誰彼かまわずと言うのはちょっと、やっぱりそう言う事は、好きな人とじゃないとやっちゃいけないと思うんだよね」


「じゃあ、鉄君はこの中で誰とだったら、そう言う事出来そうなの?」


李姉ちゃんが軽い感じで問いかけてくる。


「えっ、こ、この中で」


「「「「さぁ、言って!」」」」


ちょっと、全員で取り囲まれるのは怖いものがあるんですけど。僕に黙秘権は無いんでしょうか?


「「「「さぁ!!」」」」


「…………」











グリーンノアの外縁部、滑走路で一人日本海を眺める、まだ春を迎えていない海は暗い紺色をしていた。

冷たい海風が少し興奮した頭を冷ますのに丁度良かった。あ〜〜〜〜、海はいいなぁ〜(現実逃避)


「こちらにおられましたか、外は冷えますよ」


「児島さん」


後ろを振り向いた僕に、児島さんがそっとダウンジャケットをかけてくれた、暖かい。

児島さんは、そのまま黙って僕の後ろで一緒に海を眺めている、風でポニーテールが揺れているのが目に入った。


「ねえ、児島さん。僕、貴子ちゃんの作る国に行こうと思う」


「鉄郎さま……」


「僕、田舎者でしょ、いきなり人類滅亡なんて聞かされても、正直まだ実感わかないんだよね、そのうえ人類希望の光なんて言われてもわけわかんないよ」


「鉄郎さま個人で、世界の事を考える必要はありませんよ、そんなの貴子さまや私達に任せとけばよろしいかと思います」


「でもさ、これから僕に子供が出来たら、その子には希望を持って生きて欲しいんだよね、貴子ちゃんみたいに凄い頭脳も、お母さんや李姉ちゃんみたいな強さもないけど、だからこそ僕に出来る事をやらなきゃって思ったんだ」


「元々の原因は貴子さまですけどね」


「はは、そうなんだけどね、けど貴子ちゃんなら、僕の身体を調べれば画期的なお薬とか作れちゃうんじゃない、政府の人に色々されちゃうのはなんか嫌だけど、貴子ちゃんならいいかなって」


「本当によろしいのですか、貴子さまですよ」


どの道、僕の身体の事が政府に知られちゃえば、今までのような生活は難しいだろう、きっと種馬のような扱いをされる事になる。それは流石に勘弁願いたい、それならば貴子ちゃんの頭脳に掛けた方が僕としてはいいし、正解な気がする。


僕はクルリと海に背を向けると叫んだ。


「貴子ちゃーん、どうせ聞いてるんでしょ、僕貴子ちゃんの国に行くよ!! だからお願い、僕の身体好きに使っていいから、凄いお薬作って人類を救ってーー!!」




『…………』



『まぁ〜かせて!! 鉄郎くんにそうまでお願いされちゃ、この加藤貴子、本気を出しちゃうよ!!


キーーン、いきなり聞こえてきたスピーカーの大音量に耳を押さえる、やっぱり聞いていたか。


『ふふふふふふふふふ、言質は取ったよ、大丈夫これで鉄郎くんは私のものだ、誰にも手は出させない!! 私の国に入ってしまえば、もうやりたい放題だよ』


「あれ? ちょっと早まったかな」



『黒夢!! 今後鉄郎くんに群がってくる有象無象は全て薙ぎ払え!! アリンコ一匹我が領土に入れるな! ワーハッハッハ』


『了解、パパの敵は排除するノガ、黒夢のつとメ、世界征服の始まりダナ、カカカ』


「あ、貴子ちゃ〜ん、一度家に戻ってくれる、婆ちゃんや真澄先生も連れて行かなくちゃ」


『うぇ〜〜〜〜〜、要らなくない、特にあの関西人は』


「ダ〜メ、絶対戻って、お願い」


『うぅ〜〜〜〜〜、黒夢、進路変更!! 荷物を回収する』





この選択があってるか、まちがってるかはもう少し後にならないとわからない、けどこっちの方が可能性は高いと思う、ならば覚悟を決めるだけだ。


僕は児島さんにかけてもらったジャケットをはためかせ、研究所に向かって歩き出した。















「ハッ! 邪悪で大きい気がこっちに向かってる気がする!!」


パコン


「ほら、真澄さん手が止まってるよ、刀の抜き打ち100本追加だね」


「ひぃーーーっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る